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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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官婢・上官婉兒

陛下、ちょっとお時間よろしいですか?

おう、忠王か?

なんだ。

聞かなくてもわかる。

杏の事だな。

はい、同じ掖庭宮の奴卑として、上官婉児の事をお聞きしたいと思いまして。

上官昭容の事だな。

あの者の祖父は上官儀といって、文才があり、太宗様に目をかけられていた。

文章は上官体と呼ばれていたよ。

武后様の事で高宗様が悩んでいた時、上官儀が相談にのり、武后様を廃位する文章を起草していると、武后様に踏みこまれて、まあ、お祖父様は現場をおさえられたという事だ。

高宗様は恐ろしくなって、すべて上官儀のせいにして、ご自分は逃げたのだ。

上官儀は黙って罪をかぶったという事だ。


ちょうど、同じころに、陳王が大逆罪で裁かれていた。

武后様は、ひどい事に、上官儀をその者の共謀者としたのだ。

だから、上官婉児は謀反人の家族として、お襁褓をした赤子のとき、掖庭宮に入ったのだ。

官奴卑だ。

なんの罪もないのにだ。

高宗様は上官儀にすべてを押し付けて、助け船を出さなかった。

まあ、すぐに人を殺すような恐い妻なら、身がすくんで動けないだろう。

刑には処せられずに、獄死したそうだ。

婉児は幼い頃から、ずいぶん賢かったようだな。

成長して、武后様に会い、気にいられて側に仕えた。

詔勅などの草案を、武后様と作っていたようだ。

中宗様の時代になり、宴などでは、中宗様、韋后、長寧公主、安楽公主の詩を代作したりして、

面子をまもり、重宝がられていたようだ。

皆、田舎の文化のない所で育っているものだから、いないと困る人、必要とされる人になっていた。

だから、中宗様の妃、上官昭容になっても、周りから大切にされていた。

杏のために、なにを参考にしたいのだ。

上官婉児の周りの者は、名誉を回復されましたか?

皇帝の妃だ。

当然、母親はなんとか夫人だし、死んだら、また、格上のなんとか夫人だ。

身内の者も、いろいろ役を付けてもらったと思うよ。

違う。

大逆罪だ。

身内の男は処刑されたはずだ。

生きてはいない。

だから、祖父の儀は中書令、楚国公など、父親も立派な役職を追尊されたはずだ。

また、墓も粗末であったであろうから、改葬されただろう。

杏のこと、どうにかできませんか?

今は、無理だ。

そなた自身が、皇帝になってからだ。

だが、普通は妻ではなく母親の身内を優遇するものだ。

ええ、皇帝になったら、皇后様を復位させたいと思っています。

私の実母は、私が皇帝になれば、皇太后になれます。

でも、皇后様は、今も庶人のままです。

あの方は、私を大切に育ててくれました。

それは私が一番よく知っています。

おい、実母の事だが、見舞いにいってやれ。

随分と、弱っているようだ。

そなたが行くと喜んで、元気になる。

行ってやれ。

わかりました。

ところで、父上、なぜ叔父上を死なせたのですか?

流刑の途中で、死を賜ったとか。

あの方は、太平公主を倒す時、一緒に剣を握った同士では、ありませんか?

母上に会った時、変なことを言うのです。

今年は寒くてたまらない。

兄上がいなくなったからなのね。

兄上は、兄上でもあるけど、弟でもある。

私は、妹ではあるけど、姉でもある。

私たちは母上のお腹の中で、いつもどこかが、触れあっていた。

生まれてから、いつも一緒にいるわけでもないけど、いつも、存在を感じることができた。

なぜか、あたたかかった。

でも、今は寒いの。

死んだ知らせを聞く前からよ。

こんなに寒いと、凍えて冬をこせないわ。

しばらくして、亡くなったと聞きました。

私は元の立場に、戻します。

好きにすればいい。

ああ、下の妹の婚姻が決まった。

そなたの命を救ってくれたからと、決めていたのだ。

そなたの母上に女子が生まれたら、お礼として、張説の子に下嫁さそうと。

母上は生きている間に、婚姻させたいと。

そんなに悪いのだ。

行ってやれ。




わかりました。

私を生んでくれた母上です。

これから、いい思い出を作ります。

ところで、なぜ父上は上官婉児を斬ったのですか。

中宗様の遺詔を叡宗様にいいようにつくっていたという事でしたが。

ああいう公の文章をかける者は少ない。

武后様と、文章を練っていたから、当時は熟逹していた事だろう。

国の主にとって、欲しい存在だと自信があったと思う。

だが、文章のいいまわし方で、勝手に意味を変えたり、一言付け加えたりする、そんな詔勅を作る人間は必要ない。

まして、それが女子なら家族が離反する事も、あるかもしれない。

父上は長い間、宮中から出た事もない世間知らずだ。

誘惑でもされたら、危険だ。

父上と婉児は似たような年齢だ。

五十才前だろう。

男と女の関係ではなくても、才女だからな。

おまけに、武后様を見ている。

なにが起こっても、不思議ではない。

中宗様も、長い間、田舎で暮らし、婉児が都会的に見えた事と思う。

皇帝の妃でありながら、婉児は武三思とも、通じていたんだぜ。

そうか、房州に行く前から、出来ていたんだな。

だから、すぐにくっついたんだな。

中宗様は知らずに、武三思の愛人を妃にしたのか。

他にも、崔しょく達との噂もあったんだ。

そんな、海千山千が父上の側にいれば、なにかが起こる。

いずれにせよ、婉児は高宗様の血筋を憎んでいるだろう。

中宗様の詔勅なんかは、いつも武氏に良く、皇族の者には悪い印象を与えるような物だった。

皇太子の重俊が怨んで、宮殿に押し入った時、武三思と武崇訓を殺した後、上官昭容を殺そうと捜しまわったそうだ。

もともとは、上官婉児が標的だったんだ。

近づけて、いい存在とは思えない。

それに、朕には張説がいる。

公の文章は、張説に任していれば大丈夫。

だろう?





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