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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
336/347

海のシルクロード

十月七日、

田承嗣は、部下の将・呉希光に瀛州を討たせた。

嶺南節度使の路嗣恭は、流人の孟瑤と敬冕を抜擢して将とした。

哥舒晃を討つに際し、孟瑤は、まさに大軍の突破力を使い、敬冕は、謀を使って楽しみながら協力した。

十一月十七日、

広州で勝ち、哥舒晃の一味、一万人以上を斬った。

路嗣恭は、広州を平定した。

路嗣恭が哥舒晃を討った時、容管経略使・王おうは、路嗣恭の将兵を助けるために将軍を遣わした。

西原にいる賊軍の長・覃問は、王おうの流した流言に惑わされ、容州を襲った。

王おうは、噂を流した時から伏兵を用意していて、襲い、覃問を生け捕りにした。


広州は、唐のつくった都市といえども、海のシルクロードと云われる泉州等に上手く場所を確保出来なかった、西洋から絹を買いに来た商人が、当面、身を寄せていたところであった。

だから、絹の商売や船に関わる人たちもいた。

その者たちの多くは、哥舒晃を殺害することに係わっていた。

路嗣恭は、哥舒晃の所有する家財や数百万貫を没収した。

総て自分の邸に入れて、貢献することはなかった。

代宗は甚だ、根に持った。

本来ならば、路嗣恭はあらゆる面で功績があったと云える。

しかし、褒美はなく、検校・兵部尚書への就任もなかった。

長安に住む文武百官たちの関心は、絹を求めに海から来た西洋人たちの船であった。

数多くの帆船が話題となった。

なにやかやと、理由を付けては、家臣たちは船を見にいった。

洛陽から、卞州に行き、運河に沿って南に下れば運河に入り込んだ船を見ることができる。

ただ、向かいは反側の地だ。

運河を境に西から見るだけだ。

内陸では見ることのない帆船は、やはり異国のもので珍しかった。

帆船は、よく走る。

ただ風のある時だけだ。

風のない時は、ひたすら待つ。

忠王が与えられた封地、あの流罪の島と疑った、今の海南島は風待ちの港となった。


今、唐は、豊かではない。

代宗は、珠珠を陵墓に迎える時は、美しい良い衣を、準備したいと思っていた。

だから、路嗣恭のやり方が気になったのである。


以心伝心、ある日、珠珠が蓮の耳元でささやいた。

思うようにならないことは、わかってる。

でも、珠珠、蓮のやせ我慢が好き。

蓮は、涙ぐんだ。

だから、好きなんだ。

毅然としてね。

皇帝なんだから。


そんな蓮がため息をついた。

珠珠しか居ないことがわかっての、気の緩みであった。

皇帝が嫌なのね?

ああ、蓮だって噂の船を見たいよ。

こんなこと、珠珠にしか云えないけどね。

皆、上手いこと理由を付けては見に行って、話が弾んでいる。

蓮は、聞くだけ。

詰まらない。

じゃ、珠珠が蓮の目になって見てくる。

だけど、珠珠だって、蓮と一緒に行きたいのよ。

一人で見てきて話をしたからといって、すねないでね。

うん、分かってる。


それからは、毎日、珠珠は、身軽く東に出掛けた。

その日、あった話を楽しく語った。

蓮蓮は、臣下たちの話を余裕をもって聞くことが出来るようになった。

船の造りなどを理解したからでもあった。


ある日、急な突風で、船同士が河で旋回して、ぶつかりそうになった。

珠珠はすぐに帰ってきて、その様子を図に書いて説明をした。

蓮蓮は、珠珠の説明を聞きながら、筆を走らせ絵を書いた。

上手いものであった。

次の日、朝廷では、その船の事故について話題になった。

蓮は何も言わなかったが、その絵を目敏く、元載が見つけた。

陛下は、自分たちの知らない情報網を持っているようだ。

鳩を飼っているのか?

宦官は知らないと云う。

回りの様子に、蓮は笑った。

珠珠は、“からかうのは、これで終り”といった。

ただ、何時も、蓮を軽く見る元載の目付きが変わった気がした。

蓮は、今日は、良い気分でいられた。

そのせいか、珠珠を喜ばせたくなった。

珠珠は、新しい情報を蓮にもたらしてくれる。

だが、蓮は、新しい話は語れない。

だから、武后様のご先祖様への諡のような、読んで面白かった過去の話を珠珠が聞きたいのであれば伝えよう。

これからの参考になればいいのだが。

あまり、何も考えないのは、頭のためにも良くない。

蓮の老化防止策だ。

蓮もそんな年齢になったのだ。

珠珠、二人でやろう。

嶺南節度使は南にある。

玄宗が作った中国の窓・広州は、港街として整えられていた。

ただ、交易に熱心でなかったからか、広州は傍らの珠江を、海の入り口から百キロ以上、二百キロ近くまで奥まった場所に設置されていた。

嶺南節度使はその広州を管轄していた。

大きい船が停泊しやすいように、使い易いように作られていたであろう。

海のシルクロードの中国の起点となった、泉州は香港の北で台湾の西である。

広州のかなり北である。

当時、絹を求めて中国に来る商人は、インドを経由して中国に来た。

インドで胡椒こしょうを求めた人たちが、“この航路はますます旨みが増した”と喜んだ絹の商売ではなかっただろうか。

胡椒は貴重品であった。

生臭い肉を美味しくするだけでなく、保存もしたと云う。

胡椒の値打ちは、金の重さと同じであった。

船を出す商人にとって、笑いの止まらない商売であったであろう。

反側の節度使の絹の商売のやり方は、わからない。

ただ、かつての唐の皇室をしのぐ贅沢をしたらしい。

自分たちは贅沢は出来ない。

如何に気持ち良く過ごすことができるか?

を考えるようにしよう。





蓮が珠珠に声を掛けた。

見て!

どう思う?


素敵!

これ、蓮蓮が書いたの?

蓮は、人物画。

こんな画像、書けないよ。

珠珠、見ていて、なんだか身を正したくなる。

そうなのだ。

これは墓の守り神なんだ。

珠珠は、亡くなった人だから、墓の守り神に対して、そんな敬虔けいけんな気持ちになれるんだね。


守り神の三者がそれぞれ描かれている。

一番上は、鳳凰、

権威を表しているのね。

次の門を守る神は、鼻筋の両側に大きな目だけであらわされ、眉が左右にのびて耳のような形に外に突出している。

顔だけだから、よくはわからない。

ただ、目の下から左右に出るのは、牙だとわかる。

珠珠が身を正したくなったのは、この神の図案は伝統をふまえたものだからだと思うよ。

千年以上昔の、蛇の頭をもった神につながるそうだ。

こんな門を守る神様ならば、安心して委せられるだろう。

その下の、片手に武器を持っているのが力士だ。

足を大きく開いているのは、この図のバランスを取るためだ。

図自体は、上から、鳳凰、門を守る顔だけの神、そして、一番下は力士と重ねられ、安定している。

手に小さな武器をもっているが、この力士が戦うのだ。

力士も、強い英雄的な神だろうね。

この三者が役割分担して、墓を守っているのだ。

墓の扉の片方につけるとのことだ。

(“蓮華 代宗伝奇”の本の表紙の画である。)


蓮蓮、この画、蓮蓮と珠珠のお墓に使っちゃダメ?

珠珠は、蓮の気持ちを読むんだね。

蓮も同じことを云いたかったのだ。

珠珠の方から云ってくれて、よかったよ。

いい画を見つけたわね。

珠珠のそのいい方、嬉しいよ。

こんな墓の扉が作られたのは、漢の時代だそうだ。

徐州画像石と普通呼ばれているが、この図は河南省の南陽で見付かったそうだ。

徐州とは、州も違うし大分離れている。

後漢の物が多いが、これは前漢のものだそうだ。

当時の貴族、豪族が地下に三、四室の家のようなものを作って墓としたそうだ。

今は盗掘されて、中には何もない。

ただ、その部屋部屋に石に彫った図が残されているそうだ。

部屋で机を挟んで、二人が座っていると、夫婦の団らん。

居間と云うことだ。

台所で奴婢たちが、立ち働く画もあるそうだ。

その部屋の用途が判るようになっている。


話はそれるが、部屋で向かいあって、片方の人が片手を振り上げているような、一見、夫婦団らんのような図もあるそうだ。

この時代、最大の娯楽は“六博りくはく”だったと云う。

六博は、双六と将棋を合わせたようなゲームだったそうだ。

二人の間には、六博盤、サイコロを転がすための盤、側にゲームに負けた者が罰杯として酒を飲む耳杯がある。

流行っている六博をしている、その様子の図だそうだ。

仕事も忘れ、寝食も忘れ、夜に日を継いで、熱中した者も多かったと記録にある。

戦国時代から、漢代にかけての墓からは、しばしば、副葬品として六博の用具が出るそうだ。

ゲームが進むうち、二人共酔いがまわり、興奮して喧嘩になることもあったという。

名君と云われたあの武帝の父親が皇太子の時、腹を立て、相手の頭を六博盤で打ち、死なせたそうだ。

皆が夢中になったのだ。

漢代以後は、流行も去った。

そんな遊びが、かつて漢の時代にあった。

画像の中にも文章にも、記録がある。


珠珠、どう思う?

珠珠、何も云えない。

蓮蓮は、どう思うの?

はっは、


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