表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
334/347

靖羅の死

十月六日

貴妃である、独孤氏が亡くなった。

十月七日、

諡・貞懿ていい皇后とされた。

次の日、直ぐに命名されたのは、あらかじめ考えられていたからであろう。

”、麗しい、誉める

皇后、皇太后を称える時に使われることばなのである。

だから、普段は、あまり見ることがない。

これに対して、皇帝に係わることばがある。

“睿”である。

玄宗の父、睿宗の睿である。

運のい人物である。

生まれた時は、満月であったという。

武后様の喜びそうな設定である。

だからか、あまり、粗末に扱われていない。

母の身分が賤しいからと、普通に育てないとしていた孫を、西洋の樹の神の生まれ代わりと云われ、武后様は、他の孫と一緒に育てた。

“特別”が好きなようであった。

だからか、幽閉といっても宮中だし、わざわざ、田舎に連れていったりはしていない。

諡では、ないが、“睿宗” いい名である。

特別な読み方を、示してみよう。

睿算、天子の年齢をいう。

睿旨、天子の考え。聖旨。

知ると、“睿”の字が輝いてみえる。

には、どんな言葉があるのか。

懿旨、皇后や皇太后の言葉。

睿旨と対の言葉である。



代宗は、靖羅の諡を珠珠と考えた。

珠珠は、本当の皇后のように、ひがみや、ねたみの心無しに、靖羅の諡を考えた。

そんな珠珠を見て、代宗は気分良く居られた。

珠珠に聞いた。

珠珠は、どんな諡がいい?

蓮蓮が、選んでくれたなら、何でも。

そう言えば、珠珠、死んで長いのに、死後の名前がなかったわ。

珠珠には、悪いと思っている。

だが、洛陽の何処かに埋められている、玄宗様の母上と寧王の母上のことを考えると玄宗様も、二十年以上待ったのだ。

蓮は、玄宗様の二十七年より長くは、待たなくて良さそうだ。

珠珠と離れ離れになったのが、至徳元年(756年)、今年が大暦十年(775年)、珠珠が亡くなって十九年だ。

玄宗様より、待たなくていいだろう。

でも、待たせたつぐないに、凄いのを選ぶからね。

それまでは、我慢して。


側の棺の中で、横たわっていた靖羅が起きて、座り直した。

私は、先の保証のない約束より、今の確実な、皇后として誇れる諡で満足よ。

靖羅、分かっているのか?

その諡は、珠珠が考えたのを。

分かっているわ。

ありがとう。

お礼は云ったから。

蓮蓮、靖羅は、死んだばっかり。

あまり、刺激をしないで。

ああ、関わらないに、越したことはない。



ところで、蓮も、“諡”、自分の諡、考えとかなきゃ。

珠珠、蓮の諡、どんなのが良い?

そりゃ、“睿”が入っているのがいいわ。

知ったからには、良いのがいいに決まってる。

多分、何年か後に、蓮の葬儀が行われるだろう。

その時、普通は、皇后の遺体も合葬される。

だが、珠珠の遺体はないし、死んだ年月も定かではない。

でも、玄宗様の母上たちも遺体は無くとも、睿宗様と同時に葬られた。

問題ないと思うよ。

義母上の“章敬皇后”

素敵な、おくりなだわ。

あんな感じで、作ったら。

あの諡は、武后様のを頂いたのだ。

武后様は、文学がわかる。

必ず、いい諡を考えただろう。

だから、武后様の書類なんかを、捜し出して見て、参考にしたのだ。

驚いたよ。

武后様は、周王朝を開いただろう。

廟を造るのに当たって、七代目前からの諡が必要なものだから、自分で作ったりしたんだろうね。

二、三代前の人物は覚えていたりする。

だから、印象があるから順調に作れたと思う。

始祖文皇帝、文定皇后

睿祖康皇帝、康睿皇后

厳祖成皇帝、成荘皇后

粛祖章敬皇帝、章敬皇后、

烈祖昭安皇帝、昭安皇后

顕祖文穆皇帝、文穆皇后

太祖孝明皇帝、孝明皇后


皇帝、皇后、お揃いで付けたんだな。

蓮と同じことを考えているので、驚いたよ。

ただ、武后様の場合は、沢山考えるのが大変で、手間を省きたくてのお揃いだな。

蓮や珠珠とは違う。

だけど、会ったこともない、初代や二代目の人たちの諡に苦労したんだ。

“睿”の字を、皇后の名前に使ったりして。

皇后の名に“睿”の字を見た、儀礼に詳しい識者なんか、何も云わなかったのかと、疑ったよ。

でも、蓮は玄宗様の命で、音楽も、風流も身につけないように、育てられた。

実学のみと云うことでな。

だがら、武后様の案が素晴らしく見えた。

決まりごとに係わらず、つき進むやり方がな。

識者たちは、武后様が恐ろしくて、何も云えなかったんだろうけど。

珠珠に好きな名前を付けようとしたら、蓮は、武后様を見習わなければいけないんだ。

冗談、冗談。

だから、決まり事にうるさい顔真卿を警戒しているのだ。

あの者が嫌いな訳では無いのだ。

珠珠と同じで、良い人物だと思っているよ。

だが、元載とのやり取りを見ていても、頑な過ぎると思う。

自分が正しいと思っている分、引かない。

真顔卿は、昔からの儀礼に詳しい。

臣下たちは、それを知っている。

顔真卿があることに付いて説明する。

皆、納得する。

それで、難題が解決となる。

朝廷の意向が決定するわけだ。

顔真卿はそんな力を持っているのだ。

だから、顔真卿が異議を唱えると、時間がかかるかもしれない。

でも、珠珠が喜ぶ、いい名前を考えるよ。


ちょっと、私のこと忘れていない。

靖羅の声に、代宗が振り返った。

そなたには、しばらく、ここにいて貰うことになる。

愛する夫が、離れがたいと執着する妻としてな。

これで、独孤家の心を得る。

かつのためだ。

そなたも、びっくりする振りだけでもしないように。

そなたのことだ。

想定内の話だろう。

外で話し声を聞いても、亡くなった妻と語らっていると思ってくれたら結構。

珠珠との、ヒソヒソ話は、もう終わりだな。

靖羅、その為にも、後何年かは、付き合ってくれ。

頼んだぞ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ