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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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玄宗の想い

陛下、ご機嫌いかがですか?

おお、忠王か。

どうした?

随分、元気がないではないか?

この前の杏の母親の話ですが、もし、他にご存知の事があれば教えていただきたいと、思いまして。

池に浮かんでいたという事だな。

手に蓮の花を持っていたという事だったが。

引き上げた後、医師が検分したそうだが、

女子の医師だ。

男子ではない。

奴卑とはいえ、そこはちゃんとしておる。

掖庭宮は女子しかおらぬから、医師も、女子じゃ。

腹に塊があったそうな。

病を患っていたようだな。

その病は、遺伝するかも知れない、との事であった。

すみません。

ちょっと座らせてくだい。

好きにしなさい。

椅子に座った忠王は片手で頭を支えた。

杏の心配か?

はい、辛いです。

こんな慰め方は、自分でもどうかと思うが、女子も三十過ぎると、そなたの気持ちも変わる気がする。

容姿も衰えるし、周りには、若い女子が次々現れるしな。

朕も、武恵妃と添い遂げようと思っておったが、そなたと武后様の話をしたあと、気が冷めてしまってな。

特に、若い武氏の女子はもっときつくて、というのを思い出してな。

前のようには、あの者をいとおしく思えなくてなあ。

長安に帰ると、朕は興慶宮に移るつもりだったから、ちょうどよかった。

公私とも興慶宮で生活するように、なるだろう。

女子たちは宮殿に居てもらうことにする。

女子たちがいる広さは興慶宮にはない。

女子たちには今のままで、過ごしてもらう。

親蚕をしてもらわねばな。

皇后の仕事だ。

皇后待遇の武恵妃の仕事だ。

後宮の管理もあるしな。

宮城を出るわけにはいかんだろう。

用があれば、行ききすれば良い。

朕の言いたい事は、人の気持ちは変わると、いう事だ。

確かに、そなたと杏は最初から縁があった。

朕が、杏を優遇して上陽宮においたのは、皇后に似ていたからだ。

朕が俶を嫡皇孫とした時、この子が皇后の生んだ子で嫡子であったなら、どんなに嬉しかったかと思った。

杏が皇后に似ていたからだと思う。

朕だって皇后を好いていた。

だが、皇帝の朕に

新しい私の半臂を売って麺に変え、朕の誕生日に煎餅をこしらえた。

などと、古い話を恩着せがましく言われれば、いい気はしない。

あの事は、朕にとっても貧しい時代の美しい思い出だった。

口にすることによって汚された気がする。

目移りする朕が悪いのはわかっている。

だが、そなたも、いずれそうなる。

あまり、深く考えないことだ。

杏が母親と同じ病になるかもと、心配しているのだな。

父上、それだけではないのです。

出自を気にして、蓮が知る前にこの世から居なくなると、言っているのです。

ちょうど、病の事もありますし。

病については、予感があるというのです。

私は、耐えられません。

そなたは、耐えよ。

杏は、賢い女子だな。

そなたはわかっているのか?

官奴卑とは、父親が謀反関係の罪で処刑された家族という事だ。

唐に弓をひいた謀反人の子だ。

俶はその者の子なのだ。

俶と自分を繋ぎたくないのだ。

皆に知られたくないのだ。

俶のためには最善の方法だ。

まだ、普通の奴卑の方がよかった。

そなたの気持ちはわかる。

杏を犠牲にするのは辛いだろう。

だが、杏の考えは正しい。

別の話をしよう。

朕は、俶を育てあげたら、最後の恋をすると言ったであろう。

多分、五十半ばをすぎ、朕はその女子に溺れるだろう。

父上も五十五才で亡くなった。

死も近いのだ。

だから、その女子には、子のできない体になってもらおうと思っている。

当然、本人には内緒にだ。

侍医に任せようと思っている。

ただ、償いとして 我が世の春をおう歌させてやろうと思っておる。

後継問題に、波風をたてぬためにな。

安心して、溺れられるようにな。

この話はそなたにはしたくなかった。

薬で堕胎されそうになったそなたには、聞きずらい話だからな。

だが、聞いていれば、朕の恋を安心して見ていられるだろう。

杏が言っているのは、朕の話と共通しているところはないか?

よく、考えてみなさい。


朕は、杏の事がますます気に入った。

皇后によく似ているしな。

子の将来を考えた、良い母親だ。

杏、亡き後の事を、子の世話をする者の事を考えておきなさい。

いい母親だ。

そなたは、杏を選ぶか、俶を選ぶかだ。

杏は生きて十年足らずの生

俶は将来がかかっている。

小さい頃、母親の出自を知ると、広い心を持つ素直ないい子に育たない。

心に傷を負わすことになる。

杏には、わかっているのだ。

そなたもわかってやれ。

杏を大切に思うならな。


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