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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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陛下と瓊華

霊州の節度使が、吐蕃の一万以上の兵を破った。

吐蕃の兵士十万は、けい州、ひん州に侵入した。

郭子儀は、朔方兵馬使の渾かんを将軍とした歩兵、騎兵五千人を遣わし、当たらせた。


十月六日、

宜祿で戦った。

渾かんは、黄?原の小高い処に登った。

駐屯する吐蕃を見渡した。

馬が激しく突き進むのを阻止するために布を、張り巡らすように命じた。

経験豊かな将軍、史抗、温儒雅らは、渾かんの命令を役に立たないと軽くみた。

渾かんは、使いを呼んで、戯れに捕虜を撃たせた。

酒を呑んでも、酔えなかった。

見ると、馬同士が対している。

鳥の戦のようだ。

命令を撤回して、布を除かせようとした。

騎兵を怒鳴って、捕虜を並ばせようとした。

多くの捕虜の中に入り、騎兵は出られ無くなった。

捕虜は、騎兵から馬を奪い、馬に乗り、兵士たちを踏みつけた。

官軍は、大敗した。

兵士の死者、十人中七、八人。

その地にいた民は、吐蕃に千人以上、連れ去られた。


十月二十二日、

馬りんと吐蕃が、塩倉で戦った。

また、負けた。

馬りんは離れた処で、捕虜になった。

日暮れに捕まり、いまだ帰ってなかった。

けい原の兵馬使・焦令じんたちと、敗残兵たちは、争って城の門に入ろうとした。

行軍司馬の段秀実は、城に乗り込み、守りを拒んだ。

戦うべきだ。

段秀実は、やるべき事を勧めて云った。

将帥は、いまだに、何処にいるかわからない。

当然、捕まり捕虜になっているのであろう。

仮りそめにも、全てを得たと云えるのか!

焦令じんたちを呼んで、責めて云った。

軍法では、将帥を失えば、配下の者は皆、死だ。

諸君は、その死を忘れているのじゃ!

焦令じんたちは、怖れて御辞儀をし、命令を請うた。

段秀実は、いまだ戦いに出ていない兵士も含め、城中の全ての兵士を出させた。

そして、東原で並ばせた。

散った兵士も集めた。

まさに、戦いの力の状況を見える形で示した。

並べた分、たくさんに見えたであろう。

吐蕃は、この状況を畏れて、少しづつ下がった。

その夜、馬りんは帰還した。

行軍司馬として、段秀実が登場した。

段秀実は、これまでも、落ち着いて、判断力も確かで、活躍している。

行軍司馬とは、節度使の下におかれた、節度副使の事である。


代宗は、部屋に帰る時、どうしても涙目になった。

十月。

寒い時期である。

あれから、外に行っていない。

瓊華は、体を支える力を失って、壁にもたれても、少しすれば倒れる。

体温も低めである。

蓮は、申し訳なさが心にあるから、顔に明るさがなかった。

ただ今。

寝台に入り込む。

後に廻って、体を正しい位置に直す。

懐に抱くのである。

赤ちゃんの時、みたい。

そうだね。

あの時も、冷たかった。

そして、今も。

最近、珠珠の体温が上がらないのである。

生きていてくれている事だけが、歓びである。

梅がお茶を、代宗に持って来た。

初めて、寝台の二人を見た時、ギョッとした様子を見せた。

だが、今では当たり前と思っている。

瓊華の体温を上げるためなのである。

寒い時期だから、ありがたい。

暖かくしなければな。

瓊華も飲むか?

じゃ、少しだけ。

ち~上が、ふうふうしてあげよう。

もう、“少し位熱くても、”なんて事は云わない。

瓊華の喜ぶ、温度をさぐっていくのだ。

ああ、美味しい。

お茶一つ、なかなか美味しく飲めないのだ。

また、顔が曇る。

蓮蓮、亀が見たい。

そうだ。

王亀と云う者が、本当に居るんだ。

そうなんだ。

亀の石像を池の側に置いたからな。

池は、華陽池だからな。

あの池の飛石の形は、二人で考えたのだから。

他の名前は、嫌だ。

蓮蓮は、時々、子供になるのね。

柳晟、寝台に、亀を持って来てくれ。

大きさの違う三匹の亀を入れた金盥を持って来た。

布団に、油紙を敷き金盥をのせた。

柳晟って気がきくの。

瓊華のように体の利かない人には、ありがたい人なの。

柳晟、いつも、ありがとう。

止めて下さい。

瓊華様が、褒めて下さると陛下が嫉妬なさいます。

時々、思い出したように、意地悪になります。

蓮蓮の腕で支えられた珠珠は、体をよじって、蓮蓮の顔を見た。

そして、笑った。

一瞬で、蓮は天に登った。




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