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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
321/347

華陽の病

大暦七年(772年)、

春、

正月、

一月二十二日、

回鶻の使者が、勝手に鴻臚寺を出て、人、子供、女子を襲い奪った。

鴻臚寺とは、遠方の諸侯や蕃族の使者の接待をつかさどった。

北斉の時代からの役所である。

回鶻は、宿泊していたのであろう。

司った役所は、その行為を禁止した。

役所の者が殴られ、三百騎の馬が、金光門(便橋から続く長安城の西門である)から、朱雀門(皇城の南正門)の間を、駆けた。

この日、宮城の門は、すべて閉じられた。

代宗は、宦官の劉清潭を回鶻の者を諭すように遣わした。

そこで、回鶻の暴挙は止んだ。


三月、

郭子儀が参内した。

三月二十五日、

ひん州に帰った。


夏、

四月、

吐蕃の五千騎が霊州に来た。

まもなく帰った。


久し振りに、代宗は、華陽と誦を連れて王喜ん家を訪れた。

池で、足を浸けて涼んだ。

飛び石をたくさん置いているので、好きな処に座わり、足で水のかけっこをして楽しんだ。

風呂に入り、帰りに、華陽は、代宗の膝に頭をのせ、眠った。

誦が、代宗に、云った。

誦、華陽のこと、最初、不細工って云った。

けど誦、今は華陽のこと、可愛いと思う。

笑っている顔、好きだな。

大口開けて。

誦、女子って、ずうっと同じ顔していると思ってた。

だけど、華陽は違う。

華陽のいろんな顔が好きだ。

叔母上でなければ、婚姻したいくらいだ。

もっと不細工でも、やっぱり好きだ。

誦、顔じゃなくて、華陽が好きなんだ。

誦のその言葉を聞いたら、華陽、歓ぶと思うよ。

良く寝ているね。

あっ、華陽って、誰にも似てないと思っていたけど、父上に似てる。

そう云えば、叔母上にも。

でも、陛下には、あまり似てない。

代宗が硬直した。

そして、目を二度、パチつかせた。

あわてて、誦の口を手でふさいだ。

仕切りの垂れ布ごしに御者を見た。

影が動いたように感じた。

誦に、

顔のことを云うと、華陽が嫌がる。

と云った。

そうだね。

誦のせいだ。

窓の垂れ布を開け柳晟に、小声で云った。

御者の今日、明日の行動を付きっきりで監視しなさい。

馬車を離れてから、すぐにだ。

明日の朝、報告をするように。

そなたの腹心を使うのだ。

頼んだからな。

そなたは、何時ものように、華陽の護衛だ。

決して、離れるな。

たとえ、母親が泣いて頼んでも断れ。

陛下の命令ですからと、突っぱねろ。

お待ち下さい、とな。

腹心には、第二の腹心に伝えさせろ。

そなたは、華陽から、離れてはならん。

だから、今も、ここに居なさい。

分かったな。

遊んだ分、仕事がある。

しばらく、いないから、華陽を頼んだからな。

着いたな。

誰にも、華陽に触れさせたくない。

部屋には、朕が連れていく。

さあ、柳晟、行こう。

代宗は、奥の部屋、華陽の部屋の寝台に大切そうに娘を寝かせた。

しばらくいないが、頼んだからな。

代宗は、去った。

柳晟、

小さな声で華陽が呼んだ。

引き戸を閉めて、引き戸の外で護衛して。

呼んだら、小さな声でもすぐに来て。

柳晟は、引き戸の処に行った。

華陽は、飛び起き、衣装部屋に駆け込み、箪笥の上に寝そべった。

すき間から覗いた。

隣の部屋では、靖羅が椅子に座っていた。

一人で喋っていた。

よく見ると、靖羅の足元の先に男がひれ伏していた。

我だって、誰にも似てない子だと思っていたわ。

なんか、最初から、気に喰わない子だった。

そう云う事だったのね。

侍医も云っていた。

なんで、あんなに時間がっているのに生き返ったのか、不思議がってた。

おかしな話だった。

今から、見てくる。

よくよく顔をね。


あの女が来る。

華陽は、手早く箪笥の階段をおりて、絵を描く机に向かった。

そこにある顔料を、筆を洗う水に適当に入れて、混ぜて飲んだ。

気分が悪くなったが、口を押さえ飲んだ。

筆を拭く布で、口のまわりを拭いた。

鏡を見た。

顔料の痕跡を残さないように、唇をめくって歯もきれいに拭いた。

水の容器に残った絵の具も拭いた。

よろよろと、寝台に帰って寝た。

だが、吐きそうで、座り直した。

口から吐き出さないように、手で押さえていた。

引き戸では、柳晟が靖羅と押し問答を繰り返していた。

柳晟は、既に、代宗に竹を送っていた。

ああ、これでいい。

やっぱり、あの女だったのね。

華陽が、吐き出さなければいい。

手練てだれの男たちが、部屋に入ったようであった。

柳晟が、戦っている。

だが、相手は多勢だ。

ち~上が怒る。

引き戸が開かれた。

倒れた柳晟が、相手の足に組み付いた。

部屋が、静かになった。

代宗が帰って来たのだ。

男たちは、捕らえられた。

どういう事だ?

いずれにせよ、男子禁制の後宮に、男がいるのは定めが守られていないと、云う事だ。

即刻、首を斬れ。

朕の華陽の部屋に侵入するとは、許し難い。

靖羅、何ごとだ。

何故か、急に不安になって華陽を見たくなったのです。

手練れを連れて、娘を見に来たのか?

さあ、華陽。

ち~上の部屋に帰ろう。

代宗は、

あの時と同じだな。

華陽を抱き上げた。

目をつむっていた華陽が目を開け、衣装部屋を目で指した。

代宗はうなずき、柳晟に“片付けを頼む”と声をかけた。

代宗は、歩いて部屋に帰った。

寝台の上に華陽を置き、容器に吐かせた。

何で、こんな事をした。

てへっ、バレちゃった。

誦の言葉で、分かったのね。

蓮蓮、ご免なさい。

でも、誰が、珠珠をあんな目に合わせたか、知りたかったの。

死を覚悟してまでか。

そうね。

想像して疑っても、本当かどうか、分からない。

無実の罪かもね。

だから、ちゃんと知ろうと思ったの。

華陽、お前、死ぬぞ。

分かっている。

蓮蓮の母上のお陰なの。

だって、

珠珠と会うまでの珠珠の成長を見たい。

と、云った蓮蓮に、

昇平を見てたら良いわ。

と、珠珠は云った。

でも、約束は守れ無かった。

その話を義母上にしてたの。

子供を生ませなさい。

と、云ったのは、義母上なの。

義母上は、

不細工な女子が生まれれば、あの女は、お払い箱にする。

その時を狙いましょう。

あの女の本性が見える。

って。

義母上の予測通り、あの女は動いたわ。

早く、蓮を呼んで来て。

と、云われ、蓮蓮の処に行ったの。

蓮蓮が、赤子を叩いた時、義母上が赤子の魂を引っ張り出したの。

そして、珠珠を赤子の体に押し込んだの。

だけど、珠珠は、絵の具を飲んだ。

これから、体に異変が起きて、死が近づくわ。

何故、飲んだんだ?

あの女は、珠珠にしたことを、華陽にもしようとしたの。

あの女は、華陽を拉致して独狐の男の物にしようとしたの。

そうしたら、皇帝陛下の恩寵を賜れるからと。

一番のお気に入りだから、華陽を使って、利益を得ようとしたの。

そんなの嫌。

前は、死にたかった。

でも、昇平がいたから、死ねなかった。

だから、最初から、死ぬ方法を考えていたの。

死を邪魔されないやり方を、ね。

珠珠は、蓮蓮の物なの。

だから、死のうと思った。

ご免なさい。

すぐには死なないけど、少しずつ弱っていくわ。

二人で今を楽しみましょう。

その期間は、オマケよ。

手が掛かるけど、許して。

蓮蓮、珠珠は、十才の女の子。

いつも世話してもらい、愛されて幸せなの。

もう、靖羅に拉致はされない。

病気なら、もう役に立たない。

すぐに死んだら、“一体、何をしたのだ。”と、かえって疑われる。

珠珠を可哀想だと、思わないでね。

それと、靖羅には、何事も無かったように振る舞って。

今まで、通り。

“かつ”のためよ。

不満を持たさないようにしてね。

珠珠、蓮は、また、そなたを失うのか。

つら過ぎる。

ひざまずき、寝台に頭を乗せ、泣いた。

蓮蓮、泣かないで。

小さな華陽の手が蓮の髪を優しくでた。


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