生けるが如き遺体
わかった。
気に留めるようにしよう。
ところで、そなたに頼みたいことがある。
亡くなった後の事だ。
そなたの遺体の事だが、生まれ変わらないのであれば、かなり自由なときをもてるはずだ。
死後の世界の事はわからないけれど、もし、自由な時間がもてたなら、そなたの遺体を死んだ時の状態、生きていた時のように保存できない、だろうか?
そなたが管理して、保存することを頼めないだろうか?
変な事を言っているのは、わかっている。
殿下のおっしゃる意味が、分かりかねます。
言った通りの事だ。
蓮が即位する時、私の葬式が行われる。
その時、そなたの墓が開かれ、私と合葬されることとなる。
蓮のそれからを、祝福するために、母親であるそなたの遺体が祥瑞、聖なる天子を予感させる状態で、担当する者の前に現れてもらいたいのだ。
意味はわかってくれたか?
私の言っていることは、変か?
殿下は、本当に蓮を大切に思ってくださっているのですね。
ありがとうございます。
そういう、“生きるがごとき遺体”は砂漠地方で、何十年に一体ほど、地震などの時に見つかるそうだ。
乾燥などが、関係しているようだ。
遠い長安にまで聞こえてくるような、珍しい現象だ。
蓮のためにとはいえ、難しい作業だと思う。
そなたには、いつも無理ばかり言っている。
申し訳ない。
出来るだけの事はしたいと思います。
私が、蓮のためにできることがあるなんて、
うれしいです。
もし、うまくできなかったら、骨を黄色に染めることにします。
幼いころに聞いたのですが、
改葬する人たちは、自分たちの将来に関心があり、掘り出した先祖の骨の色で自分たちの運命を見るのだそうです。
黄色なら金に通じ大吉、白は銀に通じてつぎにいいそうです。
黒は良くなくて、子孫の人は落胆するそうです。
黒の色だった人は、良い色に変えようと、その先祖の遺体を、条件を変えて、別の場所に埋葬しなおすのだそうです。
乳母同士の四方山話。
田舎の風習でしょう。
いずれにしても、やります。
蓮のためです。
私は、卑賎の出。
いつか、蓮を苦しめる事と案じています。
その時は、殿下に申し訳ないことになるかも、しれません。
殿下も蓮が大事、私も蓮が大事。
その時は、殿下、我慢してくださいね。
私の母が池で亡くなりました。
事故ではありません。
母上は病だったのです。
だから、いずれ私に迷惑をかけると、考えての死だったのです。
母上は、私の幸せだけを願っていました。
私が、母上の薬のために、人生を棒に振らないように、と考えての行動だったのです。
母上が示してくれた生き方は私を力付けてくれます。
殿下、いずれ、私も母上と同じ病になるでしょう。
遺伝的な病だそうです。
ならない可能性もありますが、私には予感があるのです。
子どもは、弟たちを見ていたので、
五才くらいは、離したかったです。
でも、あまり離すと、下の子と一緒にいる時間が、少なすぎます。
だから、女の子がほしいのです。
年の近い弟は、私が中にはいって、仲良くさせなければいけないのに、
私には出来ないのです。
蓮が、母親の出自を知る前には、居なくなければならないのです。
殿下、こんな私で、申し訳ありません。
現実に私の姿を見ることがなければ、あえて、母親の出自を口にする人もいないでしょう。
殿下が、死後の私に、課題を与えて下さり、ありがたいと思いました。
蓮のためなら、なんだってします。
ああ、蓮に泳ぎを教えてくださいね。
水が近くにある環境に住んでいるのですから、
こわいです。
下の子にもお願いします。
女の子でもお願いします。
したいというのなら、なんでもさせてあげたい。
私がしたくても、させてもらえなかった事をしているのを見たら、嬉しくて、涙がでると、思います。
泣かないで。
許してね。
杏は忠王の頭を抱いた。