天の子
玄宗は声もかけず、そのまま、宮殿にかえった。
高力士に
ありがとう。
これで、あの子の心も少しは落ちつく。
私も驚きました。
天の配剤ですね。
二人の出会い、だった。
さあ、今から俶の父上とのささやかな俶の誕生祝いだ。
また来るからね。
さっきの父上と母上の話。
俶の母上は亡くなった皇后によく似ているんだよ。
朕の妻だった人だ。
隣の麗春殿に案内された。
忠王が立って待っていた。
玄宗が席に着くなり、跪き、頭をたれた。
お詫びしたいことがあります。
何を云っている。
立ちなさい。
早く、飲もう。
私は、父上を恨んでいました。
でも、亡くなった皇后様の話の意味が、今日わかりました。
想像はつく。
朕にとっては、俶に会えた最高の日だ。
玄宗は忠王の手をとり、立たせた。
朕にとっては、つらい話だ。
そなたには、いつも申し訳なく思っていた。
さあ、過去の話ではなく、これからの話をしよう。
この四、五日、宮中に変わったことはなかったか?
特に、何も気がつきませんでしたが。
朕も、どこが違うのか、目を凝らしたが、わからん。
実は、あの占い婆さんが
宮中に天子の気がみちている。
と、早馬を如州の朕のところに寄越したのだ。
俶のことだ。
俶は天子の運命を持っている。
かつて、天子の気を持っていると言われたのは、あの劉邦だ。
漢王朝を開いた、あの劉邦だよ。
忠王は驚きのあまり、固まっている。
俶は皇帝になる運命を持っている。
運命は受け入れなければ。
劉邦は田舎の小役人だった男だ。
その男が皇帝になった。
俶は皇帝の孫だ。
劉邦のように、刀で皇帝にならなくてもいいのだ。
だから、朕の跡を継ぐのは、忠王、そなただ。
そなたが皇帝になり、俶に跡を託すのだ。
そなたが、俶を皇帝にするのだ。
だから、そなたを皇太子にするつもりだ。
ただし、10年は待て。
その時には、今の皇太子は、必ず廃されているだろう。
皇太子になりたい者、いや、我が子を皇太子にしたい者が、必ず事をおこす。
今の皇太子は、嵌められるだろう。
だから、今は皇太子にはさせられない。
嵌めようとする者は、皇太子しか見てない。
その間に、そなたは少しずつ経験をつんで、力を蓄えなさい。
朕が、それなりの役職に着くように、手配する。
今の皇太子は即位させた時から、暫定のつもりだった。
あの子では、皇位につく時にもめるだろう。
母親が妓女では、本人がよほど抜きん出ていなければ、外戚が黙っていない。
だから、本命を隠して、今の皇太子に盾になってもらう。
狙う方も、危険を犯すわけだ。
“夷をもって、夷を制す”
中華の伝統だよ。
身内を夷と言うのは、少し気が引けるが、譬だ。
双方には、頑張ってもらわねばな。
皇太子位が空かねば、そなたが、皇太子になれない。