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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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藩鎮の出現

平盧節度使の侯希逸は、し青節度使も治めていた。

猟りの遊びが好きで、塔(仏骨を収めるために高く築いた建物)や寺を経営していた。

軍もその州の役所も、侯希逸は節度使の仕事はしないし、猟りで田畑を荒らすので、苦しんでいた。

兵馬使の李懐玉は、侯希逸から離れた兵士たちの心を得た。

侯希逸は、李懐玉を嫌い、何かある度に兵馬使の職を辞めさせようとした。

侯希逸と、巫(占い師)が、城の外に留まった事があった。

将士たちは、城の門を閉じて、侯希逸を城に入れなかった。

そして、“帥”の位を、李懐玉に捧げた。

侯希逸は、滑州に走った。

代宗に、城を奪われた罪を待つ、上奏をした。

代宗は、詔で許し、京師(長安)に召し還した。


秋、七月二日、

二男である、鄭王・げいを、平盧節度大使、し青節度大使とした。

そして、李懐玉を、節度使の留守役とした。

そして、李懐玉に、“正己”と名前を賜った。


その頃、承徳節度使の李宝臣、魏博節度使の田承嗣、相衛節度使の薛嵩、盧龍節度使の李懐仙は、安祿山、史思明の残党を手に入れ、各々(それぞれ)数万の強い兵士を持っていた。

それらの兵士たちを治め、城を整え、将士たちを文官、武官に割り当て、職務を遂行させた。

そして、朝廷には、貢ぎ物も租税も収めなかった。

地方の節度使が中央から独立し、軍事も行政も我が手で行う、小さな独立国家、藩鎮はんちん(節度使の別名)が出現したのである。

山南東道節度使の梁崇義と、最近、名前を賜った李正己は、皆、お互い婚姻を結び、陰になり日向ひなたになり、助け合った。

朝廷は、安史の乱の後始末の時、もっぱら、間に合わせのやり方をした。

再び、もとの制度には、戻せなかった。

名のある藩臣と云えども、繋ぎ止める事は出来ず、(馬のおもがいと牛の鼻綱といわれる)羈縻きび政策は終わった。

朝廷に、節度使が税金を納め無くなったので、またしても、唐はお金に困るようになった。

とは云え、元々、范陽節度使は、契丹、奚などの蕃族対策で作られた節度使である。

莫大な軍事費が投じられていた。

その軍事費は、その地方の税金で賄ってくれれば良いとする考え方もある。

住んでいる藩鎮の者にとっては、侵入される事に対して、我が事だから、懸命に戦うであろう。

唐は、藩鎮に、東北地方の蕃族対策は、丸投げしたようなものであった。


八月十一日、

代宗の愛女・昇平公主が、郭子儀の息子である、郭曖と婚姻をした。

代宗は、一時でも、手離した娘に対する謝罪の気持ちから、多くの嫁入り道具、持参金を持たせた。

何かあったなら、何時でも来なさい。

昇平の味方だから。

言葉も、添えた。

代宗は、郭子儀にも、

昇平を宜しく

と、云った。


皇太子の母親、(代宗の妻であった)沈氏は、呉興の良家の人であった。

安祿山が長安を落とした時、捕らわれ洛陽に送られた。

代宗は、洛陽を手に入れた時、会ったが、表向きは、長安に連れ帰っていない。

その後、思史明が、洛陽を再び手に入れた。

そこで、沈氏を見失った。

と、した。

沈氏(珠珠)は、見つける事なぞ出来ない。

すでに、この世には、いないのだから。

代宗は、即位をしてから、使いを各地に遣わし、探し求める振りをした。

事情を知らない皇太子の為にも、周りの者たちの為にも、捜す形は、取らなければならない。

代宗にしても、生きているなら、こうしたであろうと、思えるやり方で探した。

すでに、この世の人ではないのにだ。

当然、見つからなかった。

八月十六日、

寿州の崇善寺の尼・広澄が、皇太子の母親と偽り名乗っていると云う事であった。

役所が、詳しく調べた。

大明宮に少陽院があり、皇太子がそこに居た事があった。

そこに居た、乳母であったと分かった。

珠珠の名前をかたって、いい思いをしていたのかと思うと、代宗は、腹が立った。

他人の不幸に付け込んで、と思った。

その乳母を鞭で、打ち殺すよう命じた。

毎朝、代宗は、華陽に、まだ暗い内に起こされた。

華陽は、誦と遊ぼうとして、代宗を起こすのだった。

いつも、その日、付き添った乳母の背中で眠って帰って来た。

眠りこけて起きない。

見ると、泥んこなのに風呂にも入らない。

食事も食べない。

それからは、眠っていても、乳母たちが風呂に入れた。

風呂の後、食事をさせた。

動き回って遊んでいるのでお腹を空かせ、上品さに欠ける食べ方で、美味しく頂いた。

食べる量も増えた。

今日、何をしたかを聞くのが、代宗の楽しみであったが、帰ってきた代宗が見るのは、パクつき、眠りこける華陽であった。

代宗が、“可愛いねっ”と、抱くと、“だぁいちゅ~”と、答えて、そのまま眠ってしまう華陽であった。

だが、代宗は、そんな華陽を見て幸せだった。

華陽が喜んでいると、思えたからだ。

その日のことは、付き添った者と、呂に聞いた。


誦と、遊ばせるに当たって、かつに云った事がある。

我は、母上が女子だから、弟たちと同じように遊ばせて貰えなかったと云って、丹丹には蓮と同じに扱って欲しいと、父上に頼んだのだ。

だから、丹丹は、女子の衣の(スカート)は踏んで転ぶからと、朕のお古の男子の衣を親には黙って着ていた。

そして、我の馬に毎日リンゴをやり、手なずけ、自分の物にしたのだ。

男子の衣は、馬と過ごすのには、丁度良かっただろう。

だから、一緒には、あまり遊んではないといえる。

丹丹は、何時も、馬と一緒だったからな。

我は、華陽は、誦と遊ぶことによって、木に登ったり、魚を取るなどしたら良いと思っている。

その為に、実は、そなたたちの時も、呂に子どもたちが木に登る時は、下に厚い布を落ちた時のために用意させる等、怪我をしないよう万全を尽くさせたのだ。

この度も、呂に、そなたたちの時と同じ様に、誦たちの安全に気を配るよう命じている。

だから、そなたも誦が危ないと思えても、大丈夫だからやらせてくれ。

当人が嫌がるようなら、しない方がいいが。

だが、当人がやりたがったら、させてくれ。

大丈夫だから。

華陽は、誦と遊ぶ事によって、世界が広がるだろう。

男子の足衣を脱がすような真似もしなくなるだろう。

学問も、誦がする時は、部屋に一緒にいさせてくれ。

色々、刺激を与えたいのだ。

鏡を覗いて、美しさだけを考えるだけの女子にしたくないのだ。

華陽は、そんな後宮の女子とは違う。

そんな狭い世界にいれば、華陽はそこでの価値観に苦しむだろう。

見てのとおり、華陽は、宮中の女子の感覚では、美しいとはいえない。

我は、華陽を、そんな価値観から解放したいのだ。

だから、華陽には、好奇心を持ち、毎日を新しい発見で、楽しく過ごさせたいのだ。

こんな胸の内をさらけたのは、そなたが、息子だからだ。

話したのは、昇平だけだ。

誦の事で、必要な物があれば、何でも云ってくれ。

出来る事はする。

それと、華陽には、顔の話はしないで欲しい。

気にしないように見えるが、嬉しい話ではない。

華陽が産まれる前、独孤氏の子なら、美しいと決まっていると話しましたが、意外な結果でしたね。

誦に、いじめてもいいなんて云ってましたのに。

あの父上が、華陽のために心を砕くとは。


華陽は、早く寝るので、朝が早くなった。

暗い内から起きて来て、皇太子のいる東宮に行きたがった。

だから、連れて行って貰おうと代宗を起こすのである。

華陽に合わせて、代宗も早く眠るようになった。

でないと、体が持たない。

そんなに、早く行ってもまだ眠っているよ。

と、云っても、気がせくようであった。

代宗には、華陽との散歩の時間が無くなった。

華陽には、庭なんて、もう珍しく無いのである。

ただ、代宗には、ベタベタした。

一緒の時間が減ったのだ。

千字文は、代宗に抱かれて読んだ。

誦の部屋にも、千字文が張られていたのだ。

もう一度、

と、自分から、云うようになった。

前より、熱心になった。

刺激を受けたのだ。

覚えている量は、どっちもどっちらしい。

だから、競争のようになっているようだ。

い事だ。

代宗が朝廷に出掛ける時、華陽は手を引かれ一緒に東宮に行くのである。

華陽は、飛び跳ね、代宗を引っ張った。

手を引かれているのは、代宗の方だった。

華陽も幸せだが、代宗も幸せだった。


九月一日、

資聖寺、西明寺、二つの寺に、百尺(二十二メートル)の長さの一段高い、高座を作った。

仁王護国般若波羅蜜多経の意義を説き明かす説法を講じるためである。

唐代の仁王経は、不空の新訳が尊ばれていた。

この経を護持する時は、七難起こらず、災害生ぜず、万人豊楽であると云う。

唐には、藩鎮、吐蕃の侵入など、悩みが多かった。

確かに、仁王経は、雨乞いには効果があった。

神頼みである。

宮中から、二巻の経典が、天子の輿に乗り、出てきた。

もって、人は菩薩となり、神の様であった。

輿に乗った経典は、音楽に導かれ、光順門の外で百官に迎えられた。

百官は、経典に従い、寺に着いた。




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