表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
292/347

杜甫、生活の援助をされる

永泰元年(765年)

春、正月、

永泰と改元した。

一月十一日、

天下に、恩赦を施した。


一月十六日、

陳鄭節度使、澤ろ節度使の李抱玉に、鳳翔節度使、隴右節度使の役職を加えた。

その従弟の殿中少監・李抱真を澤ろ節度副使とした。

李抱真は、山東地方に変事があった時、上党の為、護衛兵となった。

乱の余波で世の中は荒れ、土は痩せ、民は困っていた。

軍からの助けは、何も無かった。

戸籍の民は、三人に一人、血気盛んな者が選ばれ、その租税、夫役は免除され、弓矢を渡され、農作業の合間に矢を射つ練習をさせられた。

年の暮れには、都で試験がなされ、結果により、賞罰が行われた。

当然、いい成績をとれば、いい賞品が貰える。

貰った賞品を横から覗き見た者は、羨ましかったであろう。

そう云う品が選ばれている。

廻りの者たちは、家族を喜ばしたいと、発奮した。

だから、皆、ますます腕を磨いた。

節度使とすれば、この三年で、二万人の精鋭の兵士を得た。

すでに、官吏の給料での支払いでは無かった。

節度使の方で給料を支払ったのであろう。

官吏の給料より、多くして。

官吏でいるか、私兵か、当人に給料を見せ、聞いたかもしれない。

節度使の私兵と云うことである。

この時点で、怪しむべきであった。

ただ、安祿山に学んでいる者は、立ち廻りが上手い。

学んでいるから、節度使の倉庫には宝物が満ちていた。

その弓による巧みさに、山東地方では、遂に、他の節度使の者を見下すようになった。

これゆえ、天下は、澤ろ節度使の歩兵は諸々(もろもろ)の節度使の中で最たる者と云われた。


一月二十三日、

高適が死んだ。

宮廷を去ったばかりの李白と杜甫と一年、河南地方を巡った事で、刺激を受け、いい年で科挙を受け、合格した男である。

李林甫の科挙合格者嫌いの影響を受け、税金を払えない民を鞭打つような仕事をさせられたりして、やりがいを感じず、一時、辞任していた。

哥舒翰に見出だされ、再び、任官した経緯けいいを持つ。

後は、出来る男として、順調に出世した。

成都に赴任した時は、杜甫を援助した。

若い時から、仁義に厚いとされた男子である。


一月二十六日、

剣南節度使の厳武に、検校吏部尚書の役が加えられた。

杜甫は、半年前から、厳武の推薦で、節度参謀・検度参謀・検校工部員外郎となり(この時、緋魚袋を賜っている)、役人として勤めていた。

が、あまりに、時間にしばられ無い、自由な暮らしを長くしていたため、体がつらく(厳武の紹介の勤めだから、きつい仕事では無かっただろうが)、正月、五十四才の杜甫は職を辞している。




代宗は、あれから、都合のつく限り、華陽の泳ぎの練習に付き合っていた。

今では、スイスイと楽しそうだ。

ある日、浴堂殿に行くと、一番大きな浴槽が出されていた。

上に、板が渡されている。

華陽は聞いた。

これ、何をするの?

今日は、遊びにいって、橋の上から落ちた時の練習。

華陽のことだから、何かにぶつかって転げ落ちることもある。

そんな時のための、練習だ。

父上は、何があっても、華陽が水で死なないようにしておきたいのだ。

まずは、高い処から、自分で落ちたらどうするか、やってみよう。

どういう風に落ちようと思う?

別に。

華陽は泳げるの。

いつも通りでいいと思う。

そうか?

じゃあ、やってごらん。

いいよ~、

華陽は、板を渡っていた。

お~い、そろそろ落ちなさい。

は~い。

代宗は、湯桶に入った。

華陽が落ちてきた。

華陽は、水の中でモゾモゾしていた。

代宗が助け出した。

どうした?

思っていたのと違ってた。

どうしたらいいの?

じゃあ、底に着いたと思ったら、足で底をりなさい。

浮くから。

もう一度やってごらん。

父上の助言が、良いか、良くないか、試してみて。

父上が助けるから、安心して落ちなさい。

何か変なの。

落ちなさい、なんて云う、父親。

板を渡りながら、華陽は、独り言を云った。

いくよ。

ドボ~ン。

華陽は風呂桶の床を蹴った。

顔から先に浮かんだ。

ち~上、上手く出来た。

華陽だから、出来るのは分かっていたよ。

泳げるからと、いい気になってはいけないよ。

また、明日、別の課題を考えとく。

今日は、深い処で泳ぐ練習だ。

側にいるから、好きにしていいよ。


華陽、おいで。

水泳は今日で終わりにしよう。

なんで~。

父上は、兄上のかつ、昇平にも泳ぎを教えた。

二人いれば、それだけで、早さを競ったり潜ったり楽しそうだった。

最後の課題を終えたら、終わりにしよう。

その前に、動物たちも、泳げるのを知っているか?

馬も犬も象たちも、泳げるのだ。

草原の遊牧民は、川や池があまり無いので、水に慣れてなくて、泳げない。

戦の時、敵に追われて、川まで来た。

黄河の支流の、小さくはない川だ。

多くの人が死んだ。

だが、僕固懐恩は、馬の首につかまって、川を渡った。

知恵は大切だ。

だが、今、云いたいことは、それではない。

馬は、どんな風にして、走る?

足、四本の足で走る。

そうだ。

その四本の足は、前後にしか動かない。

人間の足もそうだ。

だが、馬の前足に当たる、人の手は、横にも動く。

だから、華陽も、水の中では、手を前後、左右に動かしてみてごらん。

どうしたら、体が浮くか?

試してみて。

絶対に泳げる。

橋から、落ちる練習で池に落ちたら、底を蹴ったら良いと云った。

だけど、池の底はぬかるんでいて、蹴れずに足をとられるかも、しれない。

沈んだりして、立てないだろう。

そんな時、手も足も前後にかいたら、体が浮いてくると思う。

色々やってみよう。

側にいて助けるから。

安心して、やってごらん。

橋から、華陽は、また、落ちた。

床を蹴りそうになったけど、手足を動かすようにした。

だんだん、上に浮かんだ。

すごいな、華陽!

それから、どうする?

陸にい上がる。

でも、登っていく岩にこけがはえていて、ツルツルすべる。

華陽、どうする?

登れるまで、頑張る。

頑張らなくても、楽なやり方があるとすれば?

父上に、耳元で、教えてと頼む。

よろしい。

教えてしんぜよう。

華陽、水の中で、そのまま上を向いて。

楽な姿勢でね。

このままだと、沈むから、手足を横じゃないよ。

水に対して、上下に動かしたらいいよ。

時々でいいからね。

下に行かないように、手足で水を押すように動かすのだ。

これなら、しばらくは、助けが来なくても、大丈夫。

橋から、やってみて。

ち~上、いきま~す。

がんばって。

どぼ~ん。

代宗は、湯桶に入った。

華陽が、浮かんできた。

目を開けて、代宗を見た。

代宗は、

ここに、いるからね。

と、声をかけた。

華陽は、寝ながらうなずいた。

二人で、百まで数えた。

華陽ってすごいな。

ご褒美の先渡しで、ちょうど良かった。

ち~上、

華陽、水の中では、死なない気がする。

大きな川の渡り方も教わった。

知恵ね。

馬の首ね。

華陽は、代宗に抱きついた。

代宗は、華陽を抱いたまま、浴槽から出て、乳母に華陽を渡した。

後でね。

明日からは、学問だ。

二人で楽しもう。





二月十五日、

宮殿から、宮女を千人出した。

これで、経費が少し、減らせる筈だ。

品官六百人で洛陽宮を守らせるようにした。


二月十六日、

党項が富平に侵入した。

そして、雍州富平の西北にある、定陵・中宗様の陵の宮殿を焼いた、


二月十八日、

儀王・すいが、亡くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ