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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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金魚

二月十日、

郭子儀は、汾州に着いた。

そこでは、僕固懐恩の兵士たちが、皆、帰って来ていた。

郭子儀を見て、皆、涙を流したり、励まし合ったりした。

喜びが来て、悲しみが終った。

代宗は、汾州別駕の李抱真の云った事は、本当だと思った。

(顔真卿と同じ提言である。)

李抱真を殿中少監とした。

ただ、顔真卿は、云い過ぎると思った。

朕にとって、要注意人物かも知れないと。

注視する必要を感じた。



代宗は、陝州に避難していた時、李光弼は、ぐずぐずして、陝州に行かず終わってしまった。

代宗は、李光弼と互いに信じ合えず、気持ちに隔たりがあるのではと恐れた。

その母親が河中節度使にいた。

かなりの年令であろうと、何度か、宦官を見舞いに遣わした。

吐蕃が去った。

李光弼は、東都(洛陽)の留守を免じられた。

代宗はその進退に注目していた。

僕固懐恩の例もあるから、李光弼の考えを知りたかったのである。

李光弼は、江・淮の食糧を運ぶ仕事も辞め、兵を率いて徐州に帰った。

この仕事は、やり方によっては金になるのである。

いさぎよく手放したことに、不正は感じられなかった。

洛陽にも、執着しなかった。

その母親を長安に呼んだ。

厚く持てなした。

李光弼の弟・李光進を使い、禁軍の兵士を掌握させた。

弟も、厚く遇したのである。

李光弼の忠誠心を見たからである。

良い待遇を得ると、たちまち図に乗る者を多く見た。

代宗も、慎重に成らざるを得なかったのである。

二月二十日、

天下に、恩赦を施した。


代宗は、僕固懐恩に会いたかった。

話したいことが、あったのである。

もし、この話をしなければ、自分は卑怯な気がしたのである。

僕固懐恩の二人目の娘の事である。

僕固懐恩の領地は、官軍に掌握された。

だが、一族はそのまま、住まわせている。

その時、懐恩の母親と娘を確保させた。

他の家族は、そこにいるだろう。

ただ、母親と孫娘の次女は、僕固懐恩の話を聞くからと、長安に呼んだ。

先帝(粛宗)が、回鶻に嫁がせた寧国公主が顔に七筋の刀傷を付けて帰ったのを見て、悔やんで泣いた。

代宗も、寧国公主に会った。

粛宗に、次の皇帝として、寧国公主の将来を託されたのである。

直視出来なかったし、公主も顔を反らして見せなかった。

華陽を育て始めてから、もし、公主を嫁に、と云われたならば、どうしよう。

時々思い出しては、苦しんだ。

今の唐は弱い。

とても断れない。

昔は、当時の皇帝の嫁にやった娘(公主)の子を、孫なのだが、さも公主のように見せて、蕃族の可汗に嫁がせたものだった。

だが、何か政変がある度、殺されたりしていた。

華陽は、どんな事があっても手離せない。

だが、娘の数は少ない。

代理を確保しなければ、安心出来ない。

華陽を、唐の犠牲などにするものか。

僕固懐恩からの書状に、“二人の娘”とあるのを見た時から、代宗は下の娘を手に入れようと考えたのである。

上の娘は、回鶻の可汗の皇后である。

下の娘も、出自は同じ。

そして、公主として育てられているならば、同じ蕃族の者なら、文句は云えない筈である。

だから、懐恩の母親を長安に呼んだのである。

孫娘を同行して、と。

懐恩の母親は、息子を呼び寄せるために死んだ。

(何か、毒を持っていたようであった。)

娘には、公主と見間違えるような衣をまとわせ、礼儀作法を身に付けさせ、楽器を習わせ、教養、知識を身につけさせると約束する。

だから、娘を譲って欲しいと。

その話を断り、謀反人の娘と云う事になれば、掖庭宮に入り官奴婢となる。

代宗は、僕固懐恩に一言云っておきたかったのである。

同じ娘を持つ、父親として。

その娘の献身に対して、朕は、宣言しよう。

僕固懐恩は、謀反人ではないと。

そなたの濡れ衣も晴らすと。



安史の乱が終わってから、べん水は埋もれすたった。

漕運をする者は、揚子江、漢水から、漢水の支流・洋水、それと、長州から杭州までの江南運河にある梁渓から、険しい場所を迂回して労力を費やし、大変な思いをしていた。

三月十二日、

太子賓客の劉晏が、河南、江、淮地方の転運使に任じられた。

卞水を(浚渫して)開くよう議論した。

三月十三日、

代宗は、劉晏に諸道節度使の納税と役使は、公平できちんとするように、命じた。


戦いは終わり、長安も地方も、農民が働いていなかったので不作が続き、食糧不足で、都では米一斗千文もした。

百姓は、禁軍の兵士に食べさせるため、手で穂を抜き取り、禁軍に渡した。

宮殿の台所は、予備として倍用意している米が積まれていなかった。

劉晏は、卞水を浚うように上奏した。

宰相・元載の書状がのこされている。

それには、具体的に漕運の利害が述べられている。

長安、その他の地の大臣に、対応するように命じた。

これより、毎年、数十万石の米を長安に供給するために運ぶ者を推薦するようにした。

推薦された者は、劉晏が一番であり、後に続く者は、皆、そのやり方を守るようにとの事であった。



華陽が生まれてから十一か月、もう、転びそうに前につんのめりになりながらも、走ったり、歩いたりする。

飢饉の時なので、代宗は、ちゃんと理由わけを話しながら、種類の少ない食事を一緒に取った。

長安に帰ってからも、華陽は、器の金魚をよく眺めていた。

代宗が、饅頭の皮をちぎって、金魚にやった。

金魚は、群れて、音をたてて食べた。

それを見ていた華陽が、代宗に飛びかかって来た。

ようも!

ようも!

華陽を胡座あぐらをかいた膝に乗せ、饅頭の皮を渡した。

上手に千切ちぎれない華陽は、そのまま投げ込んだ。

金魚は、我先にと、団子状態になり、争って食べた。

もっと!

もっと!

華陽、金魚さんは、食べ過ぎると体に良くないのだ。

華陽だって、これ以上食べれないって云うだろう。

だけど、金魚さんはそれがわからないんだ。

金魚さん同士で競争するから、なお、なんだ。

また、明日。

・・

わかった?

・・ぅ~ん。

沢山食べたら、金魚さん、ウンチするよ。

金魚さんのウンチ、なが~いんだ。

知ってる?

見た事ある?

ううん。

そうだ、

桜が金魚のウンチで水が汚れないように、毎日、水換えしてるからね。

だから、華陽は、見たこと無いんだね。

今日は、水換えをしないように言っておく。

見ててごらん

華陽、驚くよ。

華陽は、器の横から離れない。

代宗は、朝議に行くので、着替えていた。

華陽、見送ってよ。

華陽は、忙ちいの。

金魚さん、そんなに早くウンチしないよ。

あった。

寝台に登る階段を上がり、華陽は、代宗を見た。

横から見て、もう一方の横から見て、

ち~、

髪、見せて。

代宗はかしずき、見せた。

いいよ。

ち~、

代宗は、華陽を抱きしめ、

いつも、ありがとう。

華陽が、父上の出で立ちを見てくれているから、いつも、格好良くいられる。

ありがとうね。

抱いたそのまま、代宗は歩き出した。

今日は、何て声掛けしてくれるかな?

ぎゃんばってね。

分かった。

金魚さんのウンチの事、父上にも教えて。

華陽、

金魚さんに餌、勝手にやってはダメだよ。

ち~、

お見送りちます。

いいだ。

代宗は、金魚の側に華陽を降ろした。

代宗は、華陽が夢中になり、器につんのめり水に落ちないか心配になり、梅に、

目を離さないように。

と言って、朝廷に出かけた。


帰った代宗に、華陽は金魚のウンチの話をした。

金魚上の方にいるのに、ウンチ、下に着いているの。だのに、まだちてるの。

金魚、ちいしゃいのに、ちゅご~く長い。

びっくりちた。

一つ、華陽は賢くなったね。

次の食事から、華陽は、必ず、饅頭を手から床に落とした。

あっ、落ちぃた。

そして、皮を側の乳母に剥いて貰った。

あとは、ようが食べる。

今は、飢饉なので、食べれない人が沢山いるから、餌にはあまり使えないよ。

と云ってある、

金魚のための芝居だ。

饅頭の皮を、金魚にやるのは楽しかったみたい。

父親に頼むのは、気が引けたのだろう。

乳母たちに、聞いた。

どうした物かね?

華陽様は、賢いのです。

そなたたちは、華陽の味方なのだな。

食べ物を大切にする事を、教え無くてはな。

だが、自分の物を少し譲るだけだ。

一時いっときの事だ。

代宗は、乳母たちが華陽の賢さを褒めるのを聞きたかったから、質問したのである。

華陽は賢いか。

代宗は、ニンマリした。

褒められるのが、少ないだ。

だから、我が事のように嬉しかった。

華陽の賢さを、目立つようにしなければな。


三月二十七日、

盛王のきが亡くなった。


党項が同州に侵入した。

郭子儀は、開府儀同三司の李国臣を使って、討たせた。

いわく、

胡人は、時間があれば、盗みに出てくる。

官軍が着くと、すぐに山に逃げ込むだろう。

疲れ弱った胡軍が前にいたら、疲れた振りして誘い襲い、強い胡の騎馬兵が後ろにいたら、一同、急に振り返り襲え。

忠告を得た李国臣は、澄城の北で戦った。

党項を大破した。

捕らえた虜、千人以上の首を斬った。



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