代宗と華陽
この頃、華陽の首が座った。
毎朝の散策の時、華陽は、代宗の腕の中で、あっちを向いたりこっちを向いたりで、大忙しだった。
その度に、
あれは、烏が鳴いているのだ。
華陽は、あ~ん、あ~ん、と泣くけど、烏は、かあ~、かあ~、と鳴くんだ。
とか、話しかけた。
池には、必ず立ち寄った。
座った膝に乗せ、泳ぐ魚を見せた。
鯉は、大きくてスッキリしている。
赤いのや、黒いのもいる。
金魚もいるね。
赤くて、ヒラヒラしている。
華陽は、どのお魚さんが好きかな?
華陽は、あう~とか云いながら指さし、代宗の膝で、飛び跳ねた。
女子で良かったよ。
男子なら、そんなに飛び跳ねたら、おっことすところだ。
華陽は、池で金魚をみるのが、好きだったのだ。
前に一度、池を通り過ぎたことが、あった。
華陽は、大きな声をあげて、代宗の髪を引っ張り、無茶苦茶にしたのだ。
髪の毛も何本か、抜かれた。
部屋に帰った時の、周りの反応が見ものだった。
髪を振り乱した皇帝陛下が、何事も無いように帰って来た。
何事があったのか?
皆、呆気にとられた。
犯人は、あの方しか、考えられない。
皆、下を向いて笑いを堪えた。
以後、池には必ず立ち寄った。
空を指して、
雲の流れが早いな。
風が強いのだ。
もう、帰ろう。
腕の中で、キョロキョロする華陽を高めに抱いて、帰るのであった。
華陽、楽しかったか?
あ~、あ~
と、答える華陽に、
華陽が笑うと、可愛いな。
頬に頬を当て、好き好きをした。
華陽、父上を見たら、笑っておくれ。
笑ってくれたら、父上は嬉しい。
なっ、頼んだぞ。
毎朝の二人の習慣であった。
部屋に入ると、
華陽、ギッコン・バッタン、するか?
寝台にいた華陽に、声を掛けた。
父上は、父上にして貰った。
だから、華陽にも伝授しよう。
寝台に座り、背持たれを当てた。
腹の上に華陽を乗せ、立てた膝に華陽をもたれさせた。
華陽の手を握り、だんだん膝を伸ばしていった。
華陽は、座っている姿勢から、だんだん寝ている姿勢になってきた。
バッタン、といって、動きを止め、ギッコンといって、元の座った姿勢に戻ってきた。
もっと、するか?
華陽は、代宗の腹の上に座り、ピョンコ、ピョンコ跳ねた。
華陽、父上にご褒美だ。
笑って。
もう、笑っているか。
じゃ、いくぞ。
はい、ギッコン・バッタン。
ピョンコ、ピョンコ、
はい、ギッコン・バッタン。
ピョンコ、ピョンコ、
はい、ギッコン・バッタン。
・・ああ、疲れた。
華陽は、元気だな。
良いことだ。
父上は、お仕事だ。
仕事か終われば、また遊ぼう。
代宗は、華陽の顔を両手でくるみ、
約束だぞ。
と、じっと目を見た。
華陽は、美人だ。
華陽の目は、確かに小さい。
だが、賢く輝いている。
見てくれだけ大きいのより、父上は、その方がずうっと好きだな。
華陽は、良い目をしている。
その目で、笑ってくれたら、父上は、とても嬉しい。
華陽を抱き上げ、
好き好きしておくれ。
と云った。
六月一日、
礼部侍郎である、華陰の楊かんが、代宗に上奏した。
古から、役人は必ず事実を取って選びます。
最近では、文章の言葉がもっぱら貴ばれます。
隋の煬帝(科挙は文帝から始められた)が、進士科を置きました。
官吏登用の試験は、辞めようとしましたが、躊躇われました。
高宗様の時に至り、学業を試験する員外郎の劉知立が、進士科に雑文を加えるように上奏しました。
明経科には、帖が加えられました。
この長年の弊害に従って、昔からの風習が変わったのです。
皇帝の命令を待って用事をなす役人をもって、朝廷の公卿とするのです。
家の長老をして、その家の子弟を教え導くのです。
その明経科では、則ち、帖を唱え、偶然の幸いを求め、一纏めにするのです。
また、科挙を受ける人は、皆、自らに応じて、“牒”を投げ込むように命令されるのです。
このように、素直で飾り気がない心、心が清く正しく、よく人にへり下ろうとしたのです。
しかし、何の得がありましょうか!
刺史が試験を考える。
その省は、栄える。
それぞれに一経を調べるように任す。
朝廷は、儒学の士を選びます。
経義二十條を問う。
対策に三つのやり方があります。
科挙の成績、上位の人は、官職に任じる。
中位の人は、その者の出身地で職を得させる。
下位の人は、辞めさせ帰す。
また、地方区分で、国を治めさせません。
道教の科挙では、国を治められません。
望与教と道教の進士は、一緒に止めましょう。
代宗は、各々の長官を通じて議論するように、命じた。
給事中・李栖いん、左丞・賈至、京兆尹・厳武と、楊かんである。
楊かんは、五経に秀才科を置くように代宗に請うた。