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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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李輔国と元載

鳳翔府の馬坊の役人が、公金を掠め取ったとして拘束された。

鳳翔府の天興県の尉・謝夷甫に、罪人として、役人は殺された。

その妻は、濡れ衣・無罪を訴えた。

李輔国は、元々、宮中の馬を担当する家の出身である。

監察御史の孫?に罪を問い正させた。

濡れ衣は無いとした。

又、御史中丞の崔伯陽、刑部侍郎の李曄、大理卿の権献に罪を調べさせた。

孫?と同じく、濡れ衣では無いとした。

だが、李輔国は不服であった。

又、太平の侍御史・毛若虚を使って、罪を問い正させた。

この毛若虚は、おべっか使いで、李輔国の気持ちを汲んで、無罪の者を殺したと謝夷甫に罪を着せた。

崔伯陽は、怒った。

毛若虚を呼んで、問い詰めようとした。

上奏して、弾劾しようとしたのである。

毛若虚は、すでに、粛宗のもとに自ら出かけていた。

李輔国の口利きがあったのであろう。

気軽に訪ねられる相手では無い。

粛宗は、毛若虚を御簾の下にかくまった。

崔伯陽は、探し回って、粛宗の処に来た。

そして、毛若虚は、こじつけの上手い宦官だと、云った。

罪を取り調べるに当たって、正直でないと。

粛宗は怒った。

出て行くようにと叱った。

崔伯陽は、御史中丞から 高陽の尉に落とされた。

権献は、大理卿から桂陽の尉に落とされた。

刑部侍郎の李曄と、鳳翔尹の厳向は、嶺南の尉に落とされた。

嶺南は、広東省にある。、

あの島流しの地の近くである。

孫?は、播州、あの夜郎のあった地の近くに流された。

流された地の遠さから、粛宗の怒りが伝わってくる。

宰相・李げんが、

崔伯陽の責任は大きく重く、職に忠実です。

崔伯陽は無罪です。

と、云った。

粛宗は、それを聞いて、

そなたたちは徒党を組んでいる。

と、した。

徒党を組むのは、よく謀反の温床になるので、禁止されている。

五月十六日、

宰相・李げんを貶めて、蜀州刺史とした。


右散騎常侍・韓擇が参内した。

粛宗は、云った。

李げんが勝手気儘をしたから、今、蜀州に貶めている。

朕は、大きく寛容なやり方を身に着けようと思う。

対して、韓擇は、

李げんは、正直です。

好き勝手ではありません。

陛下は、穏やかな方です。

益々、立派な徳を敬うのみです。


毛若虚は、崔伯陽の官職が空いたから引き継ぎ、御史中丞となった。

そして、朝廷を威厳を持って闊歩した。








以上の話は、馬坊の役人が公金をくすねた他愛のない話のように、見える。

だが、この事件を利用して、李輔国は再び、皇后と同じ力を持つようになったのである。

粛宗は、皇帝として決定権を持つ。

その力を使うために、李輔国は、皇后に服従していたのである。

李げんに、李輔国の専横を上奏されるまで、李輔国は皇后に匹敵するまでの力を持つようになっていた。

粛宗は、毛若虚を、自ら匿った。

それまでの経緯を、(李輔国に都合のよい経緯を)聞いていたからであろう。

粛宗と、時間を構わず話せるのは、李輔国しかいない。

粛宗は、勝手に会いに行ける人物では無いのである。

李げんは粛宗に、李輔国の専横の事を上奏した。

だから、李輔国は、粛宗の信頼を失った。

恨みに思う李輔国は、ずっと復讐の機会を探っていたのである。

そして、粛宗の気持ちの中で、李輔国の価値を元のように上げ、李げんの価値を下げたいと、思った。

馬坊の話を聞いた時、運が巡って来たと思えた。

鳳翔まで人を送って、徹底的に調べさせた。

李輔国なりの質問もあった。

馬坊の知識を生かした、物語が作られた。

それをもとに、罪有りとして終わったものを、李輔国は、罪無し、冤罪えんざいと、くつがえして上奏したのである。

再上奏のきっかけとなる、妻の無実の訴えも、李輔国の勧めであろう。

その時、毛若虚も李輔国に協力して覆した上奏をした。

馬屋出身の李輔国は、馬に関する専門的な話を、時々挟んで、大変な仕事なのに、疑われ罪を得たと、粛宗に訴えたのだろう。

粛宗は、怒ったと云う。

粛宗は、李輔国の説得力ある話に共感し、自ら、協力したのである。

だから、毛若虚を部屋に通し、匿ったのである。

この事件をきっかけに、粛宗には、李輔国は弱き者を助ける善人に見えたであろう。

思いがけない李輔国の姿を見たと、思ったであろう。

李輔国の計画は、上手くいったといえる。

玄宗が李林甫に対した如く、粛宗は李輔国に全幅の信頼を置いたに違いない。

かつては、妻が夫(皇后が皇帝)に頼む時に、李輔国は自分の出世など、便乗して頼んで貰っていたと考えられる。

持ちつ、持たれつと云っても、立場は弱かったのである。

もう、皇后に頼まなくても、李輔国は粛宗の名前で好きなように出来るのである。

李げんの上奏前にもまして、粛宗の権力を使えるようになったのである。

この時から、李輔国は、皇后の敵になったのである。

粛宗の決定権を使える二人の利害が合わない時、お互い遠慮はなかった。

この二人の争いで、粛宗は、悩み、体を悪くしたと云われている。


面白い話がある。

あの元載、粛宗に気に入られ、戸部侍郎、充度支、江淮転運使になっていた。

当然、気に入られるだろう。

粛宗の意に反する考えを言わないのだから。

ある日、京兆尹の職が空いたので、李輔国が元載を用いようとした。

だが、元載は断った。

固く固辞した。

理由は、唐の都と言えども、地方の役所。

地方の役人になるからだ。

都知事は、嫌だと云ったのである。

朝廷で国の仕事がしたい、と。

京兆尹、かつて、裴耀卿が務め、韋堅が同じ江淮庸転運使で、京兆府の西半分の長安県の県令となり、喜んだ。

決して軽くない官職である。

元載の野心が、垣間見える。

最初から、朝廷での活躍しか、考えていない。

そんな元載に、李輔国は、次の日、同中書門下平章事を授けた。

目の前に“宰相”が、ぶら下がっている。

そんな状態である。

元載は、願ったり叶ったりの人生を歩んでいるように見える。



蓮は、最近機嫌が悪い。

珠珠が、時々、遣ってこないのである。

他人に見える訳がないから、誰かといるとも思えない。

部屋に入っても、いない。

つまらない。

頬っぺたを捻って、とっちめられないし。

形の無い者だから、どうしたらいいのか?

ため息が出た。

すると、“どうしたの?”と、声をかけられた。

珠珠がいないと、つまらない。

居たら楽しい。

居るだけで楽しい。

蓮蓮はいいわよ。

あっちやら、こっちやらに、女子がいて。

珠珠、最近、好きな人が出来たの。

いいでしょう。

おい、どんな男なんだ?

名前は、かつだろう。

良かった。

こんな珠珠に、嫉妬してくれて。

平気だったら、珠珠、つらい。

あのね。

これからも、遅くなったり、来なかったりするから、云っておくわ。

珠珠ね、

蓮蓮の母上と、知り合いになったの。

義母上も暇だし、珠珠も暇だから、楽しく時間を過ごせている。

義母上から、蓮蓮の小さい時の話を聞けるのが、嬉しい。

陛下に大切にされたって。

毎日、陛下、くたくたになるまで、一緒に遊んでくれたって。

いつも、東の門(春明門)のお墓のところでまで行って、お邪魔しているの。

母上の棺、素敵だった。

綺麗な方だったのね。

顔なんか、お肉も落ちずに頬っぺたが丸いの。

自慢出来る母上よ。

それで、思ったんだけど・・

珠珠も、あんな棺欲しい。

自分専用の横たわれる棺が。

じゃあ、この部屋に置こうか?

ここは、嫌。

多分、侍女が掃除の時、覗くわ。

本当は、義母上の棺の隣に置いて欲しい。

そうしたら、寝ながら話せるでしょ。

それは無理だな。

母上が眠っているのに、理由も無く、お墓は開けられないよ。

そうなんだ。

珠珠、死んでいるのに、棺、持ってないんだ。

我が家も持たない、無宿者なんだ。

珠珠は。

おい、おい、

そんな、情け無い事云うなよ。

父上と、相談してみるよ。

ああ、無理かも、

近頃、父上、体調が悪いんだ。

まあいい、考えとくよ。

出来るだけ、珠珠の希望に沿いたいから。

蓮の母上と一緒なら、いいんだ。

母上も、退屈だろうから、一緒に過ごしたらいい。

珠珠は死んでも、蓮を喜ばせてくれるんだね。

ありがたいよ。

だけど、今宵は、蓮の側にいて。

寂しくてたまらないから。

珠珠といたら、心底暖かい。

珠珠と出逢えて良かった。

蓮は、珠珠が側に居てくれるだけで、幸せなんだ。

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