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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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李泌の提言

李泌は、

臣は、受けた恩を返しただけです。

また、人としての交わりができます。

何と、楽しいのでしょう!

粛宗は、言った。

朕は、先生と同じ憂いを積年持っていました。

今は、同じように楽しめます。

何と、急に欲が無くなったことでしょう!

李泌は、

臣には、陛下の側に留まれない五つの理由があります。

願わくば、陛下、臣の死を免じて、臣が去ることをお聞き入れ下さい。

粛宗は、言った。

何を言っているのだ。

対して、李泌曰く、

臣は、陛下にとても早くお逢いしました。

臣は、陛下にとても重く用いられました。

臣は、とても深く可愛いがられました。

臣は、とても高く功績を認められました。

また、とても優れているとされました。

これが、お側に留まれない理由です。

粛宗は、言った。

本当に、眠いのだな。

違う日に、話し合おう。

対して、李泌は、

陛下、今、臣は長椅子に臥せています。

でも、お願いするのを、止めません。

まして、違う日、香炉を乗せる台の側の皇帝の御座のところでは、なおさらです。

陛下は、臣が去るのを、お聞き入れ下さいません。

それでは、臣を殺して下さい。

粛宗は、言った。

急に、卿は朕を疑っている。

どうして、朕が卿を殺したいとするのか!

これでは、朕が句践こうせんになるじゃないか!


句践、春秋時代の越王、

呉越同舟ごえつどうしゅ”の故事があるように、北隣の国・呉と、仲が悪く、“仲の悪い者同士が同じ舟に乗り合わせた時、暴風に遇えば助け合うこと左右の手のごとし”と、暴風に会わなければ協力することなど考えられないと、たとえられる程、仲の悪い間柄。

呉の王・夫差ふさとの戦で敗れ、越王・句践は“臥薪嘗胆がしんしょうたんまきの上に寝て、苦いきもをなめた。仇を討つため、自身の体を苦しめ、志を励まそうとした故事成語を持つ。

この時、句践は、賢者・范蠡はんれい、大夫・文種ぶんしょうの協力を得た。

遂に、越は呉を滅ぼす。

范蠡は、句践は共に戦うのは良いけれども、国が安定したら一緒に居ない方がいいと、財産をまとめ、一族郎党と舟で海に去ったと、云う。

しかし、すぐに去らなかった文種は、句践に殺された。

余談として、句践から夫差に“西施”が贈られた。呉が滅んだ原因の一ツとされている、傾国である。


李泌曰く、

陛下は、臣を殺そうとなさいません。

だから、臣は去りたいのです。

もし、殺したいのなら、臣は安心して、再び言います。

そして、臣を殺す者は、陛下ではありません。

“五不可”なのです。

陛下は、今まで、臣をこのようにもてなされました。

臣は、わざわざ言う者ではありません。

天下は、すでに安らぎました。

でも、臣は、あえて言います!



粛宗は、久し振りに、機嫌良く言った。

卿は、朕が、北伐の謀り事のことで、卿に従わなかったからそう云うのか!

対して、李泌は、

そうではありません。

何も言わない者は、建寧王・たんのみです。

粛宗は言った。

建寧王・たん、

朕の愛する子、

優れた決断力、

苦しい時に、功績を残す。

朕に、どうして知らないと云うのか!

ただ、小人によると、後継を謀って、その兄を害しようとしたと云う。

朕は、国家の大計を思って、排除せざるを得なかった。

卿は、理由の細かい事までは知らないのだろう?

対して、李泌は言った。

もし、建寧王・たんを疑う心を持っているのであれば、広平王・俶はまさに陛下を怨みます。

広平王・俶は、いつも臣に、その冤罪を言います。

いつも、声をあげて泣き、涙を流します。

臣は、今、職を辞して、陛下のもとを必ず去ります。

だから、云い始めるのです。

粛宗曰く、

害しようと思って、広平王・俶の落ち度を手探りで捜している者がいるのだな。

李泌曰く、

その者たちは、その口でデタラメをいうのです。

建寧王・たんは、よく父母に仕え、兄弟仲良くて、聡明でした。

その通りでしょう!

それと、陛下は、昔、建寧王・たんを天下兵馬元帥に用いようとなさいました。

臣が、広平王・俶を用いるようにお願いしたのです。

建寧王・たんに、もし、自分が元帥になりたい気持ちがあれば、まさに、臣を深く恨みます。

けれども、臣には忠実でしたよ。

ますます、親しく仲良くしました。

陛下、その建寧王・たんの心に気付くべきでした。

粛宗は、泣いて言った。

先生の言葉は、おっしゃる通りです。

すでに、過去のことです。

咎めないで下さい。

朕は、もう聞きたくありません。



李泌は、言った。

臣が云う者は、すでに終わった事なので咎めません。

陛下は、利用されないように、将来、注意深くするだけです。

昔、則天武后様には、四人の皇子がいらっしゃいました。

長子は、太子で、弘とおっしゃいました。

武后様は、皇帝に代わって、政務を執らせたりしました。

でも、その聡明さを嫌って、その長子・弘様を毒殺されました。

次の子、雍王・賢様を皇太子に立てられました。

賢様は、心に憂いと怖れを持っていました。

武后様の実の子でないとの、噂があったからです。

実の子が殺されたのだから、自分も殺されるのではないかと、恐れたのです。

“黄台瓜辞”の詩を詠みました。

その詩に込めた想いを、武后様に知って欲しかったからです。

しかし、武后様は、お聞きになりませんでした。

賢様は、死を賜り、黔中で亡くなりました。

“黄台瓜辞”の辞は、

種瓜黄台下

瓜熟子離離

一摘使瓜好

再摘使瓜稀

三摘猶為可

四摘抱蔓帰!

黄色の瓜の種が台の下に落ちている。

熟した瓜の種はバラバラに離れている。

好きな種を一つ摘まみ取る

次は珍しい種を摘まみ取る

三度目は適当に摘まみ取る

最期は蔓を摘んで抱えて帰る

今、陛下は一つ、摘まれました。

再び、摘まないように慎んで下さい!

粛宗は、驚いて云った。

卿は、この言葉を書き留めて下さい。

朕は、忘れないように、大帯の垂れ下がっている部分に書き付けます。

対して、李泌は云った。

陛下は、ただ、その心を分って下さい。

何で、形が必要でしょうか!


この時、広平王・俶には、長安を取り戻したという大功があった。

張良ていは、これを忌々しく思っていた。

だから、根も葉もない噂を作り、密かに流していた。

だから、李泌は、ここまでしつこく云ったのである。

李泌は、広平王・俶を守ろうとしたのである。

自分が長安を去る前に。

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