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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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鉤の管理

かつて、粛宗は、長安を少しでも早く手に入れたいと思っていた。

だから、回鶻と約束をした。

城を手に入れた暁には、土地と人は唐の物とし、金絹等、女子供は回鶻の物とすると。

ここに至り、葉護は約束通りにしたいとした。

広平王・俶は、葉護の乗っている馬の前で、立ったまま拝礼をして、

今、長安を手に入れたばかりで、もし戦利品をあわただしく奪い取れば、洛陽の人は、それを見て、賊軍を守るでしょう。

そうなれば、洛陽を再び、取り戻せないでしょう。

約束ごとは、洛陽でお願いします。

葉護は、驚いて、馬から飛び降りて

拝礼を返した。

広平王・俶の足を、跪いて捧げたのである。

葉護は言った。

まさに、殿下の洛陽を取りに行くやり方ですね。


僕固懐恩は、回鶻西域の兵士たちを率いて、長安城の南、安化門、明徳門、啓夏門を過ぎて、東南の角を北に進み、延興門、春明門、通化門と、城の外側を巡り、“さん水”の東に着いた。

百姓、軍士は、賊軍の捕虜を見て、広平王・俶に拝礼した。

皆、泣いて言った。

広平王・俶は、誠に中華、蕃族の主だ!

粛宗は、これを伝え聞いて喜んだ。

朕は、俶には、とても及ばない!

広平王・俶は、入城するので、兵士を整列させた。

百姓、老人、幼子は、道を挟んで歓び叫び、感極まって泣いた。

広平王、俶は、三日間、長安に留まり、人心を安定させた。


そんな日、広平王・俶のもとに、柳潭が訪ねて来た。

ハッとした。

同行している、男女の女子の方が珠珠を思わせるたたずまいであったからだ。

柳潭は、近づき、

内密な話です。

と、言った。

そして、触れるほど近づき、

女子は、丹丹が、姉上に似た方と云って捜しました。

替え玉に使えるのでは、と。

男は、俶兄上の声を作れます。

背格好も、似ていますから役に立つでしょう。

しばらく、傍に置いて下さい。

口調を覚えるためです。

物言い、癖など、驚くほどソックリに演じます。

それは、武恵妃の死で証明されています。

女子は、舞台に立ったりしていたので、旨く化粧で化けます。

だから、顔より、体つきで選んだそうです。

洛陽に行く時、お伴させて下さい。

とんぼ返りは体にこたえます。

二人を洛陽で使って下さい。

丹丹は、責任を感じているので、少しでもお役に立ちたいのです。

断らないで下さい。

丹丹の気持ちですから。

と、帰っていった。


三日が過ぎ、広平王・俶は、洛陽に行くため、大軍を率いて長安城の東から出発した。

そして、太子少傅・かく王・巨を長安の留守とした。



九月二十九日、

戦勝報告書が鳳翔に着いた。

多くの役人が、祝福のため、宮殿を訪れた。

粛宗は、顎の方まで、涙と鼻水で濡らした。

その日、中使・啖庭瑶を蜀の上皇・玄宗に戦勝を上奏させるために、遣わした。

左僕射・裴冕を、廟を祀るため、百姓を労るため、長安に遣わした。

粛宗は、長安にいる李泌(参戦して、長安にいたのである)に駿馬を遣わし、召した。

やがて、着いた。

粛宗は言った。

朕は、上皇様が蜀から東に帰って来たら、上奏して、お願いしようと思っている。

子である臣の官職として、再び、東宮に返ろうと。

李泌が云うことに、

過去に遡って、上奏するのですか?

粛宗曰く、

随分、たったな。

李泌曰く、

上皇様は、帰って来ませんよ。

粛宗は驚いて、

何故か?

と、問うた。

自然の成り行きです。

粛宗曰く、

どうするのだ?

李泌曰く、

今、臣下たちがお祝いを上奏しています。

馬嵬で、玄宗様に、皇帝に留まるようにお願いしたのに、霊武で陛下は皇帝になりました。

そして、今、長安を取り戻すことに成功しました。

上皇様は、朝晩、長安に恋焦がれていたでしょう。

親孝行をしたいので、出来るだけ早く、長安にお帰りいただきたいと、お願いするのです。

これなら、いいでしょう。

粛宗は、すぐに、李泌に下書きを書かせた。

粛宗は、下書きを読んだ。

泣いて、言った。

朕は、真心を尽くしてお帰りを願い、天子の政務を始める。

今、先生の言葉を聞いて、見失っていたものを悟りました。

天命を全うするために、上奏文を奉る中使を、蜀の上皇様に遣わした。





李泌は長椅子で寝ようと、酒を飲んだ。

李輔国が来て、李泌に戸締まりをお願いした。

広平王・俶が、天下兵馬元帥になった時、李泌と広平王・俶が、あらゆる戦地からの報告書を受け取り、関連する役所に速やかに指示を出すために、夜、閉じている門を開けるため、すべてのかぎを、李泌は管理していたのである。

だから、戸締まりを頼まれたのである。

李泌は、鉤の管理(戸締まり)に、これからは李輔国を使うように、粛宗に頼んだ。

粛宗は、これを許した。

李輔国が鉤の管理をするようになってから、宮中の権限が李輔国に集まった。

李輔国の専横のきっかけであった。


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