春望・一
杜甫は、寒さが和らいだので、出歩くようになっていた。
囚われていると言っても、あまり偉い人のようでないので、束縛はされなかった。
わりあい自由に、させてもらえた。
暇な分、長安の街をウロウロした。
曲江池にも、行ってみた。
玄宗様の時代なら、とても入れ無い場所であった。
ここは、曲江池と芙蓉園が東西にならぶ園である。
李白なら、玄宗様に従って、訪れたこともあったであろう。
だが、こんな時だから、我のような下っ端役人でもやって来れるのだ。
池には、蓮の茎が立ち枯れていた。
誰も手入れしないものだから、枯れ草がそのまま地面を覆っている。
蓮の花の盛りの頃は、さぞ美しかったであろうと、思われた。
周りを眺めると、葉が落ちてしまった裸の木に、新しい芽がそっと蕾になろうとしていた。
ああっ、
声が出た。
そうなんだ。
季節が巡って来たのだ。
春が訪れたのだ。
この気持ちを温めて、形にしようと思った。
大事に大事に、温め育てよう。
時間はうんとある。
尹子奇は、また、大勢の兵を引き連れ、すい陽を攻めに来た
張巡は、将軍、兵士たちに言った。
我は、国に恩を受けている。
だから、命を掛けて守ろうと思っている。
だが、そなたたちが、命を捨てたら、体は野の草の肥料となるだけだ。
褒美は、報いられることはないだろう。
この前の時も、貰えなかった。
それを思うと、心が痛い。
だが、将士たちは、皆、励ましあい奮いたった。
張巡は、遂に、牛を殺した。
皆で、大宴会をした。
食べ尽くすと、出陣した。
賊軍は、遠くから見て、兵士が少ないと笑った。
張巡は旗を取り、統率する将軍たちは、賊軍の列に、臆することなく突き進んで行った。
賊軍は、大いに敗けた。
将軍三十人余り、兵士三千人以上を殺した。
数十里、退けた。
次の日、賊軍は、また、合流して城下に来た。
張巡は、出陣した。
昼夜、数十回撃ち合った。
たびたび、前軍を阻んだ。
だが、賊軍は、前のように逃げることなく、城を囲んで攻めて来た。
三月二十三日、
安守忠を将軍とした、二万の騎兵が、河東節度使に侵入して来た。
郭子儀は、すぐに対応して、これを撃った。
八千の首を斬り、捕虜五千人を得た。