睦まじい二人
陛下、今日はためになる話、ありがとうございました。
私も、そろそろお暇させていただきたいと、思います。
ああ、ところで、寝台はどうした。
戸棚寝台は、周りを木でかこっているから、掴まり立ちをはじめると、掴まるには低すぎて、かえって危ない。
前に、つんのめるようになるからな。
どういうようにした?
おっしゃるように、枠のない、丸の形の寝台を作りました。
部屋の真ん中においています。
掴まり立ちするようになったら、寝台の周りを歩くようにさせたらいい。
転んでもいいように、周りに布団を敷くようにしたら安心だ。
はいはいができるようになれば、寝台から転げ落ちても、大丈夫なようにな。
わかりました。
杏も、同じ事をいっておりました。
そちの家は夫婦円満のようじゃな。
大きな寝台で、親子三人、川の字で寝るとは、
皇親では、あまり聞かんぞ。
私があまり両親の愛情になれていないもので、私自身楽しんでいます。
ちらりと、嫌味をみせたな。
父上、杏を賜り、ありがとうございます。
今までの、埋め合わせをしてもらっている気がします。
今、私は毎日笑ってくらしています。
幸せです。
陛下のおかげです。
照れもせずによく言うわ。
王府の方にはちゃんと帰っているのだろうな?
不満を持たれないようにしないと、後で、杏の方に当たられるぞ。
今、三人の妃は懐妊中で、私はいなくて、大丈夫。
時々行っては、優しい声をかけるように。
韋妃なぞ、金持ちの家の出だから、いざという時は頼もしいぞ。
ははは、
父上の配慮、痛みいります。
それでは、失礼いたします。
忠王は部屋の扉に手をかけ、侍女に下がるよう、小声でいった。
扉をそっとしめた。
部屋では、寝ている蓮の側で、杏が下をむき寝そべり、足を上下に振っていた。
そして、枕に顎をのせ、しきりに両手でなにかを、いじっていた。
鼻歌まじりで、機嫌がいい。
杏の鼻歌なんて、初めて聞いた。
ただいま、
体を杏の隣に滑りこませてから、顔を覗きこんで、言った。
なに、してるの?
杏は、反射的に忠王の居ない方の脇腹に隠した。
私は、杏が右手にもっているものが見たいな。
ダメ?
いいけど、汚ないから怒ると思う。
蓮に触れる時は、手を洗ってからにするようにしてるから、心配しないで。
見たくて、たまらない。
わかった。
起きあがり坐り直して、向かいあっている忠王に、両手を差しだした。
手には汚ないと言った通り、汚れた布の塊があった。
ただ、細い幾本かの布を見た時、ハッとした。
それがなにかわかったからだ。
怒らないよ。
まだ、持っていたんだね。
ウン、
殿下は、過去の物はすべて捨てておいで、と、言って下さったけど、これだけは、掖庭宮の知りあいに頼んで、持って来てもらったの。
女の子が産まれたら、そっくりさんを作ろうと思って、
あっ、蓮の妹を産む気になったってこと?
ううん、
悪いけど、考えたの。
授乳中は私の体のすべてを母乳に使いたいの。
体の中に、胎児がいると、体の中の大切なものを、胎児にも、使わなければならないから、母乳の質が落ちると思うの。
だから、胎児のためにも、授乳が終わってからで、いい?
胎児にだって、私の体の中の必要なものをすべて使って欲しい、から。
杏は、いろいろ考えているんだね。
杏の言う通りだと思うよ。
その人形、もう隠さなくていいからね。
私にも、見せてよ。
イヤ。
なんでだよ。
怒ってないからって言ってるだろう。
反対されたら、かえって見たくなる。
実力行使して、みようか?
私の体力を教えてあげようか?
“しぶしぶ” と言いながら、手渡してくれた。
フウン、
と言ったあと、急にゲラゲラと笑いだした。
この子、男の子になるところだったんだね。
だから母上が、ううん って言ったんだ。
どういう風に説明しようか、悩んだんだね。
杏の言うとおりにしてたら、頭のくくったところと、体のくくったところ二ツのくくったところができて、頭のくくったところが首になると、体のくくったところが、股の所にいくところだったんだ。
杏って、楽しい女の子だったんだ。
母上がそれで、ううん って、云ったんだ。
困ったんだ。
杏が忠王に跳びかかった。
そして、口を押さえようとした。
忠王は、待ってました、といって抱き込み、
そなたは、ウブだったんだ。
と、言って口づけをした。
もう、からかわない。
ますます、惚れたよ。
そなたの気持ちは尊重するから、安心して。
意地の悪い殿下なんて、嫌い!
嫌いになったら、もっと意地悪になってやる。
だから嫌いにならないで。わかった?
こら、返事しろ!
ヘエ、
したよ。