戦の予見
安祿山は、潁川郡へ出兵させた。
潁川の城の中は、兵士は少なく、蓄えられている物はほとんどなく、そんな状態であったが、太守・薛愿、長使・ろう堅は力を尽くして降伏を拒み、城を守った。
城の周りに、ぼろ家が百里程あったが、材木が皆取り尽くされていた。
寒い時期なので、暖を取るために使ったのだ。
まる一年、助けは来なかった。
安祿山は、阿史那承慶を使い、兵を増やして攻撃させた。
昼夜、死闘十五日、遂に城は墜ちた。
薛愿とろう堅を捉え、洛陽に送った。
安祿山は、洛水の岸の氷の上に縛ったまま二人を置いて、凍死させた。
粛宗は、李泌に問うた。
今、敵はこんなにも強い。
いつ頃、平定されるだろうか?
対して、李泌は言った。
臣が見るところ、賊は、得た女子、金、絹、総て、范陽に運んでいます。
これは、天下に志を持つ男のする事ではありません。
今は、蛮族の大将が動いているだげです。
中国の人間は、ただ、高尚たち数人だけです。
皆、脅されて従っているのです。
臣が推察しますに、二年、過ぎることはありません。
天下に、国外から侵入して来る敵は、居なくなるでしょう。
粛宗は言った。
どうして?
対して、李泌は言った。
賊軍の勇敢な将軍は、史思明、安守忠、田乾真、張忠志、阿史那承慶たち、数人にすぎません。
今、もし、李光弼に太原から土門に出るように、また郭子儀にふう翊から河東に入るように命じたなら、則ち、史思明、張忠志はあえて、范陽、常山を離れません。
安守忠、田乾真はあえて長安を離れません。
両軍を繋いでいるのが、四人の将軍だとわかります。
安祿山に従う者は、阿史那承慶だけです。
お願いします。
郭子儀には、華陰(長安と洛陽の間にある、潼関の西の地)を取らないように命じて下さい。
長安、洛陽の二つの都を繋ぐ道を常に通して下さい。
そして、陛下は、扶風で徴兵をして下さい。
その兵を、郭子儀、李光弼に与えて下さい。
郭子儀と李光弼を、長安、洛陽の二つの都に各々置いて下さい。
賊軍は、二つの都の城にいます。
守ろうとするでしょう。
郭子儀と李光弼を、交互に出兵させるのです。
奴らは、首を救おうとして尾を撃たれ、尾を救おうとして首を撃たれます。
賊軍は、数千里を行ったり来たり、忙しく駆け回り、疲れてしまいます。
我々は、常に安全な場所にいて、遠くから来て疲れ果てた賊軍を待ちましょう。
賊軍は、着くと、我らの先鋒を避けるでしょう。
去れば、その贈り物(両都の間の通じている道)に騙されるでしょう。
城を攻められないし、道を絶ち切れません。
来年の春には、建寧王・たんを范陽節度大使にして、北の出口を塞ぎましょう。
李たんは北から、李光弼は南からと、各々の地から攻めて、范陽を取りましょう。
逃げ道は、閉じましょう。
賊兵は、退いても、帰る所がありません。
留まっても、捕まらない安全なところはありません。
しかる後、大軍で、四方から攻めましょう。
かならず、捕まります。
粛宗は、悦んだ。
この頃、張良ていは、粛宗の側仕えの李輔国と助けたり、助けられたりの、持ちつ持たれつの、親しい関係であった。
李輔国はいつも粛宗の側にいるので、張良ていに情報をもたらした。
張良ていは、寵愛されているので、李輔国に都合がよいように、粛宗を動かした。
そして、二人して、李泌を悪く言っていた。
建寧王・たんは、李泌に言った。
先生は、このたんを、陛下に推挙してくださったそうですね。
たんは、手柄を立てそうです。
でも、恩には報えそうにはありません。
ただ、先生を害する者を除くことをお許し下さい。
李泌は、言った。
どう云うことだ。
李たんは、張良ていが云った悪口を伝えた。
李泌は、言った。
このようなことは、人の子が言う事ではない。
お願いするが、建寧王の義理の母御のことはこれで終りにして、もう、その以上は言わないで欲しい。
だが、建寧王・たんは、従わなかった。