武后様の治国
ところで、前に兵士に費用がかかると言ったであろう。
なぜ兵士が、足らなくなったと思う?
人が増えて、土地が足らなくなったからでは?
まあ、均田制からいえばそうとも言える。
だが、太平公主や安楽公主がやった売官・売度が大きいと、朕は考えている。
売官は武后様が始めたのだ。
何故か?
武后様は、自分の勢力を拡大するために、即ち、自分の意のままになる下級役人の数を増やすために、李義府に売官をさせたのだ。
そして、次は重臣候補を得ようと、科挙を利用したのだ。
武后様は文学はわかる。
だから、文学の能力を問う進士科を重視したのだ。
そして、最終試験を殿試にすることによって、そう、殿試とは、皇帝みずから試験をすることを言う。
だから、受験生一人一人と、話すことによって良いところを褒め、受験生それぞれに自分が、そなちたたちを認めていると伝えたのだ。
受験生は感激して、武后様に忠誠をちかう。
武后様の思う壷だ。
そして、そういう才能ある者たちを身辺において詔勅を起草させたり、列女伝・臣軌・百僚新などを編集させ、実績をつませ、時の政事について語らせるなどして、朝政に参加させていったのだ。
そして、関隴系貴族でしめられている重臣たちに対抗させたのだ。
これが、北門学士と呼ばれる者のはじまりだ。
正門でない、北の門から出入りしたから、この名が付いた。
武后様はこのようにして、朝廷を手に入れたのだ。
科挙は売官と関係ないが、つい話がそれてしまった。
まあ、武后様が始めたことのついでだ。
売官は三十万文で売られている。
誰が買うと思う?
士・農・工・商、で買える金を持つ者は商人だ。
だが、法では、商人は、科挙は受けられない。
だから、士にはなれない。
でも、商人は農と違い田は与えられてないから、兵役はない。
資格があって、買えるのは、大土地所有者だ。
課役は兵役と納税だ。
身内の一人が官吏なる事で農の身分が士となり、兵役も納税も免除になる。
大土地所有者は、当然、金持ちだろう。
その金持ちが税を払わずにすむなんて、可笑しいだろう。
士となると、多くの特典がある。
まず、最低の従九品で長安なら二百畝、ちょっと田舎にいくと二百五十畝
年録・米五十二石、料銭千九百文
罪を犯すと死刑以外は銅を納入することで実刑を免除
などなど、
位があがると、身内の者まで特典にあずかれる。
だが、役人に土地が支給されたら、農民に渡せる土地がますます減ることになる。
これも、弊害だ。
売度は僧尼になる度牒、免許書だ。
僧になると、課役は免れる。
まず兵士にならなくてもいい。
そして、税を払わなくていい。
ああ、これは三万文だ。
だから朕は即位して、すぐに売度は取り消した。
売官で役人になった者も辞めさせたいが、役についているのを辞めさるわけにはいかない。
形だけの役人は、辞めさせたがな。
どれだけの人が兵士にならずにすませていると思う?
武后様の時からだから、たくさんの人だろう。
科挙では、張説も武后様の時に受かった。
首席合格だったが、何年か首席がいなかったので、二位ということになったという、
いずれにせよ、優秀な者は受かるということだ。
武后様が科挙の合格者の道を開いたというのは、結果はそうかも知れないが、もともとは、勢力を伸ばそうとした、武后様の欲なのだ。
多くの兵役離脱者がいるということは、しわ寄せを受けた者がいるということだ。
払うお金がないから、しかたなく、回りに頭をさげ家族の事を頼み、兵役にいく。
すると、終わったはずなのに人が足りないからと、あと三年いてくれと言われる。
逃げたくもなるだろう。
これが売官、売度だ。
売官で、どれだけの俸録が支払われて、唐に損害を与えているのか?
考えただけでも、気が滅入る、
武后様の時、きまりは公主三百五十戸だったのに、太平公主に、三千戸をお与えになった。
そして、中宗様が府を開くことを公主にも、許された。
だから、公主たちが、王府の者を徴収に遣るようになったのだ。
親王、公主などに与えられた封戸も、
本来は封家とその地方の役人が徴収にいくようになっているのに、勝手に行って、
役人が止めても、武一族は自分の地位が高いからと、言うことを聞かなかったりしていた。
武周時代、武氏は皇親になっていたからな。
皇親とは、皇族の事だ。
李氏は、外戚だ。
だから、朕は封家の直接徴収を禁止して、
封家と封戸の関係を断ち、
食実封の祖、庸、調を中央におさめてから、
国が封家に支給するようにした。
すこしでも、農民の苦しみを減らすためにな。
何故、こんなことを言うのか?
ちゃんと、仕組みと影響を考えて行動してもらいたいからだ。
中宗様が売官、売度の書類に、安楽公主の顔をみてニコニコしながら署名したというから、一言いっておきたくてな。
安楽公主といえば、父親に愛されていてやりたい放題。
奴婢が足りないと、封戸の家へ行って娘を連れかえった、という。
後で返さされたがな。
混明池をねだったが、断られて、もっと大きな池を民に掘らせた。
賃金もなしにな。
韋后誅殺の時、安楽公主も中宗様に毒まんじゅうをすすめたという事で、殺された。
さらし首にされたが、民が目をほじくったという。
恨まれていたのだ。
売官によって、大土地所有者、農が士となる。
身分の変動が、身分制度を崩していくのではないか。
心配だ。