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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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長安脱出

玄宗は、延秋門を出た。

長安城には、延秋門が二つある。

一つは、北に位置する禁苑の中の周りの城壁、隋の文帝が倹約のために使った、漢の城の城壁の西側にある門である。

それと、これも、大明宮の東側の禁苑にある、左羽林軍の一番西にある門である。

明け方、何キロもある、まして女子供を連れては、漢の廃城までは行かない。

当然、禁軍の軍営であり、居住地である、大明宮東、左羽林軍の西の端の門・延秋門であろう。

だが、大明宮から、どのようにして、延秋門に着いたのか?

玄宗は、軍営のある禁苑にくわしい。

韋后誅殺の折り、玄宗は、禁軍の者たちと親しく付き合った。

あらゆる事を想定して、禁苑をどう使えるか、調べたはずである。

だから、後宮から禁苑に、玄武門か左銀台門を使って出たと考えられる。

脱出時、他人に見られるのは、困る。

だから、前日、六軍を整理させたのである。

親征を口実にしたかどうかは、わからない。

だが、女子供を連れての移動は、赤子は泣くであろうし、子供はむずかるであろう。

だから、供をしない兵士に、そこに居られては困るのである。

賜り物を厚くして、あわてて決めた任地に赴任して貰ったのであろう。

厚い賜り物に、兵士は急な移動にも、快く応じたであろう。

供は、追って来る賊軍に立ち向かうため、(蜀での食料事情も考えて)数千人程にしたようだ。

延秋門を出た玄宗は、左蔵庫の前を通りすぎた。

兵士たちは、後続であろう。

楊国忠が、左蔵庫を焼くように請うた。

賊軍のために守ることはありません。

玄宗は、しょんぼりと言った。

賊軍が来て、得るものがなければ、必ず百姓から、集め取るであろう。

与えるわけではないが、我が民を重ねて、困らせたく無い。

玄宗の考えは、正解であった。

理由は、どうであれ、焼くと宮中の皆が、起きて騒ぎ出す。

皇帝陛下にも、報告がされるであろう。

不在が発覚するところであった。

焼かずに、正解であったと言える。




この日(六月十三日)

文武百官のうち、まだ、参内する者がいた。

宮門にきたら、水時計の水の滴る音が聞こえ、儀仗兵が厳めしく立っていた。

門が開かれると、すぐに宮人が乱れ飛び出してきた。

皇帝が居るところがわからない。

宮殿の内も外も、騒ぎ乱れた。

ここにおいて、王族も貴族も、武士も庶民も、逃げ隠れた。

山や谷に住む貧民が、宮中や王族、貴族の屋敷に争って侵入し、金や宝物を盗み取った。

宮中の上殿に、驢馬に乗り入った者もいた。

侵入者は、左蔵庫、大盈庫を焼いた。

崔光遠、辺令誠は消火の指揮をとった。

それから、府を統率する者を募った。

県の役人を、その地を守らせるため、各地に置いた。

宮殿のように、治安が悪くなるといけないと、考えたからである。

見せしめのために、十数人を殺した。

すると、ようやく収まった。

崔光遠は、息子を東(洛陽)にいる安祿山に会いに遣わした。

辺令誠も、宮殿の鍵を安祿山に献上した。

長安城は、代理の者によって、投降したのである。

唐の都、長安城は、主が安祿山に替わったのである。


玄宗は、便橋を通りすぎた。

この橋は、開元十年(722年)、春になると雪どけ水の増水で、毎年流される浮き橋に、腹を立てた玄宗が、流されない橋の建設を命じてできた、橋である。

雄牛の形をした鉄の錨と鉄の鎖で、橋とした物である。

対岸に鎖を渡し、二本の鎖の上に板を置いて、橋にしたのだろう。

いわゆる、吊り橋である。

(雄牛は、当時の中国で、水を鎮める力を持つと信じられていた。)

雄牛一頭、平均長さ三メートル、高さ一、五メートルの四頭が、二頭ずつ岸に置かれた。

最大の物で、一頭七十トンもあった。

この鉄の牛は、どれも、芸術に置ける彫刻として、誇れる物であった。

荒れ狂う水に対抗するように、勇ましい姿の雄牛たちであった。

シルクロードを通ってきた異国の人が、唐の文化の高さを最初に実感出来る作品であった。

道端に置かれる物とは思えない芸術作品である。

楊国忠がまた、橋を燃やすように言った。

玄宗は、

武士や庶民は、各々、賊軍を避け、生きることを求めている。

何で、その道を絶つのだ!

高力士をそこに残し、橋を壊してから、来るように言った。

この二人のやり取りを聞いた時、兵士たちは、この行軍の意味を悟ったであろう。

自分たちは、皇帝の逃避行に付き合わされているのだと。

自分たちは、逃げられない。

“上意下達”、自分たちは縛られていると。

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