杏の怒り
殿下、悪いんだけど、牛とヤギの乳持ってくるよう言ってくれる?
補給しとかなきゃ。
次のオッパイの時、お腹一杯飲ませてあげたいの。
いいよ。
二杯頼んで。
お酒じゃないけど、付きあって、
殿下、白ヒゲがはえてる。
杏だって、はえてる。
私がとってあげる。
杏は、両手のひらで忠王のほほをはさみ、上唇の上をなめまわした。
すこし離れて見て、
まだ残っている。
もう一度、
と、言って、顔を寄せたとたん、急に泣き出した。
腹がたって、たまらない。
いつも、蓮の側には、侍女をはべらすようにしていたのに、何で、あの子が一人で声が出なくなるまで、泣かなきゃいけなかったの?
どうして、オッパイの時間です。
って、連れてきてくれなかったの?
小さいけれど、今は、蓮がこの上陽宮の主よ。
主だとは思わなくても、赤ん坊が泣いているだけでも、気になるのが、普通じゃない?
ほほに当てた手は忠王の肩に移っていた。
頭を忠王の鎖骨にあて泣いていた。
今まで、明るく振る舞っていた分、激しかった。
忠王の両手が杏の体を抱いた。
忠王の右手が背中を慰めた。
どうして、ちゃんと世話をしてくれないの?
いる意味がないじゃない。
一体、何をしていたの。
殿下、宮女たちの交替、頼めるかな?
もう、顔も見たくない。
罰してやりたい位、あの人たち、ここでの仕事ぶりだと、どこにも通用しない。
甘やかした私が悪いのだけど、まさか、蓮にああいう形で手抜きする、とは。
許せない。
知り合いだから、少しでも楽させてあげようと。
ちゃんと出来ていなくても、あとは私がするから、って
うるさく言わなかったの。
裏切られた気分よ。
どうせ、あの人たち、部屋の前でたむろして、聞き耳たててたのね。
蓮を放ったらかしにして。
替えれるものなら、全員替えて!
わかった。
私も腹立たしかった。
でも、杏の知り合いだから、悪く言うと、杏が嫌がると思って、何も言わなかったのだ。
私の腹立たしさの分、杖刑十回、いいかい?
杏はうなずいた。
杏、そなたは動揺している。
今日は、疲れただろう。
蓮の側で、すこし休むといいよ。
忠王は杏を抱き上げ、蓮と並べた。
大と小か?
私がはいると、大、中、小。
笑って一人言をいった。
真ん中で寝ていた蓮をすこし寄せ、
杏が寝返りをして、まわりの木枠で体を打ったら痛いおもいをするから。と、
布団をかけた。
あのね、
杏が声をかけた。
ん、何?
顔を寄せてきた忠王の両耳をつかみ、引き寄せ、唇をあわせた。
唇を離して、
今の私の気持ち。
口づけって、口を合わすだけじゃなかった気がする。
どうやるか、わからない。
乱暴なやり方ですね。
突然で驚きました。
御主人様からの口づけは、耳から血がでても大歓迎、
私にお任せください。
忠王が唇を重ねた。
しばらくして、
御主人様、部屋から出たくなくなりましたが、先程の件、どういたしましょうか?
蓮に関することは、優先して。
後は、お願い。
杏、蓮よりもたくさん眠るんだよ。
蓮の母上なんだから、
鼻をつついて、出ていった。




