帝王家の婚姻
侍女が扉を開けた。
中にはいると、
下がっていろ。と、
声をかけ、杏を寝台においた。
怖いもの言いだけど、やさしく扱ってくれるのね。
見ると、杏の衣の胸の二点にシミがあり、ひろがっている。
視点が動けなかった。
そう、蓮のオッパイの時間なの。
あの子、お腹をすかして、泣いているわ。
早く、つれて来て。
来るときは、抱いているから、転ばないよう気をつけて、
忠王はあわてて、二部屋となりの子供部屋へ、かけこんだ。
蓮は、泣き疲れたのか、声が小さくなっていた。
そして、しきりに自分の指をしゃぶっていた。
忠王は、
遅くなってごめんよ。と、
言って抱き上げた。
そして、ゆっくりとした足どりで、寝台に向かった。
早く、渡して、
杏は胸を拭いて待っていた。
指をしゃぶって、我慢してたのね。
蓮に、オッパイをふくませた。
大きくなったのね。
力強く飲むから、痛いくらいよ。
忠王は、杏のとなりに座り、涙を流しながら、黙ってみていた。
もう、いい?
両方のオッパイ飲んだけど、足りてるかな?
滲み出た分、足りなかったかも。
損しちゃったね。
ごめんね。
張ってきたから、わかっていたのに、蓮の事を優先しなくて、ごめんね。
寝台の上に蓮を寝かせて、話し続けた。
もう片方からは、忠王がのぞきこんでいた。
忠王は、涙が止まったものの、時々鳴咽した。
蓮は、二人に挟まれ、顔を左右に振っては、父と母を見た。
ねえ、今日から三人でこうやって寝ない?
杏が言うと、
そなた、嫌じゃないか?
ここは、そなたの寝台だ。
私が寝るのは、嫌だろう?
“好き、”って、言わなかったから、すねてるのね。
かわいい蓮の父上のこと、嫌いだと思う?
“言え、”って強要されるのが嫌なだけ。
そなたを怒らせたけど、他の妃たちも、下賜されたのだよ。
皇帝が選んで、皇子に賜ったってこと。
そなただけ、下賜された訳じゃないんだ。
これからも、皇帝が勝手に私の妃を決め、事後承諾で婚姻させるだろう。
それだけは、わかって欲しい。
たくさんの妃を持つようになるだろう。
嫌な思いをすることもあると思う。
でも、私の心はそなたに渡してある。
悪いが、我慢してくれ。
蓮も、多くの妃を娶るだろう。
蓮の場合は、後ろ盾が必要な分、有力者の娘が選ばれるだろう。
向こうも、より次の皇帝の地位に近い者と、関係を持ちたいのだ。
だから、本人の気持ちより、相手の立場が重要なのだ。
娶る方も、娶られる方も、計算の上の婚姻だ。
子が生まれたといっても、好きだからじゃないんだ。
蓮とは違う。
蓮は、そなたに生んでもらいたくて、生れた子だ。
妃たちの子は、婚姻の関係をより強くするための者だ。
子供がいると、向こうも安心する。
お互いの利益のためなのだ。
杏との関係とは、違うとわかってくれた?
妃がウン十人になっても、気にしないで。
そんなにはならないか、
父上と違って、体がもたないよ。
皇帝になると、多分、蓮も二十人以上の妃を持つことになるだろう。
帝王家とは、そういう所なのだ。
一緒の寝台で寝ていいのだね?
じゃ、明日もっと大きな寝台に変えるよ。
そなた一人が寝ていた寝台に、あと一人と、小さな一人が割り込むのだからね。
考えただけで、ワクワクする。
蓮に、兄弟が出来るかも、
怒った?
ううん、殿下の言うとおりだと、思う。
殿下の婚姻の話を聞いて、蓮には安心できる味方が必要だと思った。
兄弟がいた方が、蓮は生き易いと。
蓮には、幸せになってほしい。
それと、愛に満ちた人生であってほしいと。
二人に挟まれて、ごきげんさんで、寝ちゃったね。