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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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謀叛の疑い

天宝十四載(755年)

正月、吐蕃、蘇毘の王子・悉諾邏が帰順して来た。

二月二十二日、

安祿山の副将・何千年が

三十二人の漢人の将軍を蛮族の将軍に変えて頂きたい。

と、求めてきた。

玄宗は、安祿山の願い通り進めるように命じ、辞令書を賜った。

韋見素は、楊国忠に云った。

安祿山は、久しく謀叛の心を持っています。

今、また、これは、明らかに謀叛のための要請です。

明日、この韋見素が、出来る限り説得します。

陛下は、まだ許していません。

楊公、見素に続いて説得して下さい。

楊公は、安思順から、安祿山の謀叛の話をお聞きになったそうですね。

安祿山と安思順は義理ですが従兄弟、身内です。

他人が云うのとは、重みが違います。

我々には、証拠があるのです。

それでは、続きを宜しくお願いします。

楊国忠は、承諾した。

“宰相を換えてよかった。”と、思った。

陳希烈なら、何もせず、座視するだけであっただろう。

次の日、二月二十三日、

楊国忠と韋見素は、朝廷に参内した。

玄宗は、

卿ら、安祿山に邪な心があると、疑っておいでかな?

と、云った。

韋見素は、

安祿山の謀叛は証拠があり、安祿山の願いは、許すべきではありません。

と、言葉を尽くして云った。

不機嫌になっていく玄宗に、臆せず、韋見素は堂々と話した。

顔を見ながら、言葉を小出しにはしなかった。

いかにも、宰相であった。

玄宗の顔は、不機嫌、そのものになった。

いつもの、人当たりのいい笑みは、どこにもなかった。

楊国忠は、玄宗のその様子を見て、迷い、結局、何も云わなかった。

云いなりになるはずの韋見素が、口火を切り、理路整然と、説得したのだ。

いつもは、口達者な楊国忠が、

これ以上云ったら、雷を落とされるのは、自分だ。

と、計算が働いたのだ。

玄宗は、ついに、“安祿山の願いに通りにした”、格好をした。

すでに辞令書は発行されていたのだ。

楊国忠らの反対に腹をたて、いつわったのだっだ。

だが、不機嫌の原因は、指摘された証拠にあった。

安思順は、特に挙げるような功績はない。

だのに、節度使にまで出世している。

安祿山に頼まれたのだ。

二つの節度使になった時、安祿山は、幼い頃から一緒に育った、年上の安思順に、我が功績を分かちたいと。

陛下に配慮をお願いしたいと。

それから、少しずつ出世をさせた。

そして、何年か後に、節度使にさせたのだ。

安思順にだって、分かっているはずだ。

たいした働きのない自分が、なんで節度使になれたのかを。

その安思順が、安祿山の謀叛を楊国忠に告げたのだ。

胸騒ぎがして、不安が徐々に心を覆った。

別の日、楊国忠は玄宗に、言った。

(韋見素と、相談の上での提言であった。)

臣には、安祿山の謀を無くする考えがあります。

今、安祿山を宮廷に召し、同平章事(宰相の位)の官職を授けます。

そして、賈循を范陽節度使に、呂知かいを平盧節度使に、楊光かいを河東節度使になされば、おのずと、勢力は分けられます。

(推薦した三人は、当然、楊国忠の息のかかる男たちであった。)

安祿山を、朝廷で仕事をさせるのです。

これで、心配は無くなります。

玄宗は、“そうだな。”と云った。

三人を節度使にする辞令書を起草させたが、玄宗は、留めて、発令しなかった。

そして、珍しい果物を、安祿山に賜わるようにと、中使の輔ろう琳を遣わした。

そこで、安祿山の様子に変わりがないか、密かに探らせた。

安思順の証言の背景を調べなければ、この不安を払拭出来なかったのである。

輔ろう琳は、安祿山から、例の如く、厚く賄賂を受け取った。

帰ってきて、

安祿山は国に忠誠を尽くして、二心(謀叛)はありません。

と大袈裟に、云った。

玄宗は、楊国忠、韋見素に云った。

安祿山は、朕を助け、推しいただいている。

輔ろう琳の云う通り、まず、謀叛の心は無いだろう。

東北の二つの胡族、突厥と奚は、安祿山が遮り、おさめているのだ。

朕が、請け合う。

そなたたちが、憂うことはない。

二人は、それ以上、云えなかった。

事は、うやむやに終わった。

蓮は、考え込んでいた。

遂に、丹丹が、

家を出たい。

と、言って来たのだ。

前に聞いた時とは、丹丹の置かれている立場が違う。

柳家の義母・秦国夫人は、去年亡くなっている。

今では、柳家は両親も無く、一人の兄も、すでに亡くなり、夫である潭一人になっていた。

妃は、丹丹だけで、気持ちは楽になったと、思われた。

だが、とんだ伏兵がいた。

かく国夫人が柳家に、君臨したのだ。

三人目の男の子を産んだ丹丹は、例の如く、母乳のことで、激しく口撃されたのだ。

秦国夫人どころではなかった。

夫・柳潭は、一族の中で、世話になる立場なので、何も云え無いのだった。

これからの毎日が、想像できて、我慢が出来ないと、云うのだった。

丹丹のことを考えると、認めざるを得なかった。

だが、柳家を出るのはいいが、これから住む所を考えると、困ってしまった。

親王が、王宅に住むようになってから、帝王家の女子は、婚姻の時、家を貰え無くなった。

蓮は、嫡皇孫ということで、幼い頃より、王府を賜っている。

だが、他の親王の皇子たちは、王宅のような造りの百孫院に入るようになっている。

当然、王宅より、小振りだ。

だが、郡主の丹丹には、自分の家がないのだ。

蓮の王府で、一緒に住んでもいいのだが、正室の崔氏が、快く受け入れてくれるとは思えない。

楊一族、韓国夫人を母に持つ崔氏は、丹丹が、楊家から出たことで、反感を持っているだろう。

婚姻まで住んでいた、東宮に帰れたらいいのだが、陛下が何と云うかが、心配だ。

それに、丹丹の姉に当たる寧国郡主は、離縁しても、東宮には、帰っていない。

寧国郡主は、礼会院に宮殿を一ツ貰って、住んでいる。

最悪の場合でも、礼会院ということで、話をしなければ。

丹丹の場合、相手が楊一族だから、すんなりとはいかないだろう。

父上に相談しよう。

昔のように、王府や公主宅があれば、死ぬまで住む所の心配はなかったのに。

珠珠が、声をかけてきた。

丹丹のことね。

ここに住んで貰いましょう。

珠珠と一緒に。

だが、崔氏が正室だ。

家の管理は、正室の監督下になる。

あいつ、楊一族だからな。

文句を言うのが上手いぞ。

丹丹に、嫌な思いをさせたくない。

子供は、どうなるの?

三人いるが、柳姓の子だ。

置いてこなければならない。

今、楊国忠は、朝廷を牛耳っている。

かく国夫人は、意気揚々だ。

丹丹は、押さえつけられるのは、我慢が出来ない筈だ。

帰れとは、云えない。

蓮が崔氏をチヤホヤしないから、楊一族は、丹丹に当たっている所があるかもしれない。

今日は、珠珠に、丹丹を頼めるかな?

いいわよ。

でも、家の子を見たら、思い出して、辛いでしょうね。

先は、長いのだ。

仕方ないよ。

東宮に行って、父上に会ってくる。

少しでも、気持ち良く住める所を探してあげてね。

分かっている。


どうだった?

楊一族に上手くやられたよ。

父上と、陛下に会いに行ったけど、

丹丹は、躾がなっていない。

と、反って叱られた。

すでに、楊一族に丸め込まれている。

いずれにしても、しばらくは、我が家にいて貰おう。

陛下は、柳家に帰って欲しいのでしょうね。

楊一族は、公主たちと息子を婚姻させて、子どもをいっぱい産ませて、陛下になにがあっても、李家の血で、楊一族を守ろうとしているのだ。

陛下にしても、楊貴妃をそんな形でもいいから、守りたいのだ。

私たちでは、どうしようもない。

楊一族が、もっといい人たちだったらよかったのに。

本当だな。



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