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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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裴冕

武将に成り立ての頃、哥舒翰は高麗人、王思礼と、“王忠嗣”の旗をいっしょに押し立てていた。

今、哥舒翰は、隴右節度使になり、王思礼は、兵馬使・河源軍使である。

哥舒翰が九曲の地を攻撃した時、王思礼は、遅れてきた。

哥舒翰は、罪に問い、まさに斬ろうとした。

だが、止めた。

再び呼んで、赦した。

王思礼は、言った。

即ち、斬る。

遂に、斬る。

今度は、本当に斬られると思ったよ。

何度も呼んで、何だよ!

王忠嗣は、兵たちを大切にした。

旗を持つ。

“旗”は、祖先の霊が宿り、守護霊として、導く。

だから、軍旗を奉じて、行動するのだ。

そんな大切な物を、王忠嗣は、翰と王思礼に預けた。

信頼してくれたのだ。

節度使として、周りの者に対して、キツく接していたと、思った。

甘くすれば、つけあがる。

だが、王思礼は、そんな男ではない。

それは、自分がよく知っている。

簡単に殺してはいけない人物なのだ。

王思礼のことを、これから気にかけよう。

王忠嗣が信じた人物なのだ。


楊国忠は、自分を軽んずる安祿山を排除しようと考え、哥舒翰と、厚く結び付こうと考えた。

恩を売ろと、哥舒翰を河西節度使にするように上奏した。

九曲の地を奪い返すなどの、功績を上げているので、異論はなかった。

河西節度使は、安思順が節度使をしている処である。

少しは、安祿山をガッカリさせたかと思うと、気分がよかった。

だが、安思順は、まだ朔方節度使ではある。

八月三十日、哥舒翰は、西平郡王の爵を賜った。

玄宗からは、他にも楽団と、田園を賜った。

玄宗が音楽を賜ったのは、哥舒翰が音楽を好んだのを、知っていたからだろう。

宴会で哥舒翰が、お酒をのみながら、楽団の曲にあわせ、拍子をとっているのを見たのである。

河西節度使になった哥舒翰は、裴冕を河西節度使の行軍司馬とした。

哥舒翰は、裴冕が王きょうを葬った話を聴いた時から、欲しいと思っていた人物なのである。

丁度、楊国忠と親しく話すことがあったので、裴冕を使いたいと、人事の交渉をしたのである。

裴冕は、驚いたであろう。

朝廷の文官の仕事から、地方の武官の仕事である。

実は、哥舒翰は、裴冕の噂を聞いた時、人となりを調べたのである。

仕事が出来る人は、多い、

だが、信用出来る人は、なかなかお目にかかれない。

だから、調べていたけれども、採用にあたり、二人で話をした。

哥舒翰は、聞いた。

河東の冠族の出、だって?

裴冕は、ちょっと戸惑ったふうだった。

誤解されています。

あの裴家は、私の家の主なのです。

その縁で名前を頂いたのです。

私は、あの裴家の出ではありません。

ガッカリさせて、申し訳ないです。

冕殿は、正直だな。

冕殿が、そう言うのは分かっていたよ。

王きょうが亡くなった時、王家には、百人以上の賓客がいたという。

悪く言えば、“居候”だな。

タダで食住の面倒を見てもらって恩を受けていても、主に不幸が起きると、皆、クモの子を散らすように、居なくなった。

冕殿だけは、違った。

なかなか、出来ないことだ。

いえ、私は、王きょう様に、お世話になったのです。

何をしてくれたのだ?

恥ずかしながら、私は、学がありません。

ただ、一生懸命、周りの人を見て、見よう見真似でやるだけです。

しばらくすると、ヘマはしなくなります。

私の一生懸命を王きょう様は、認めて下さいました。

判官から、監察御史にして下さいました。

そして、殿中侍御史に、

私は、学がないので、知識に基づいた判断が出来ません。

私の判断は、ただ、世間の常識と、心に問うだけです。

そして、決めたら、実行するのみです。

王きょう様は、それでいいと、おっしゃって下さいました。

すべて委すと。

だから、王きょう様は、恩人なのです。

私が、ここにいるのも、王きょう様のお陰だと、思っています。

冕殿、冕殿は、私の欲しい人だと、よくわかった。

冕殿には、今度任じられた河西節度使の行軍司馬をお願いしたいと思っている。

行軍司馬は、節度副使より位は上に当たり、節度使の補佐のようなものだ。

つい、最近まで、安思順が節度使をしていた。

どんな人か知っているか?

いいえ、朝廷にばかり居て、地方の方はよく知りません。

安思順は、陛下が、他の人を河西節度使にしようとしたら、

河西節度使の担当の蛮族は、耳は切り裂く、顔を傷つける。

と、言ったのだ。

翰が、初めて入ったのが、河西節度使だ。

だが、それから、今まで、そんな話は聞いた事がない。

むしろ、耳を切り取ったのは、河西節度使の武将・宋青春だと言う。

馬に乗り、矛を振り回し耳を切り取るものだから、蛮族の者に怖れられたと、言う。

今、気付いたのだが、顔を傷つけるのは、耳を狙ったのが、顔に当たったからかもしれない。

少し、話が違うようだ。

安思順をどう思う?

あいつは、安祿山の従兄弟だ。

その方のことを、よく思っていらっしゃらないのですね。

でも、陛下に平気でウソをつくのには、驚きました。

耳を切り取る話を知っていたから、話を変えて、つい、言ってしまったのですね。

でも、陛下が、問題にされたら、耳が裂かれ、顔に傷がある人が何人か現れるでしょう。

すると、その方は、ウソつきでは無くなります。

安祿山が、身内を守るためにも、やるでしょう。

その方が、犯行を出来ない、場所や時間に。

冕殿は、随分、先を読むのだなあ。

驚いた。

私の仕事は、なんだったか、お忘れですか?

役人の犯罪を調べるのが、仕事です。

だから、冤罪なんかも、わかります。

上の人が顔を出し、調査に熱心な時は、嫌になります。

心が苦しいです。

呼んで下さって、感謝しています。

翰の恩人が、安祿山の処で、大量の武器を見たのだ。

節度使には、不必要な程のな。

陛下に進言したが、相手にされなかった。

安祿山はお気に入りだからな。

翰は、王大夫を信じる。

安祿山は、必ず謀叛を起こす。

安思順は、間者だ。

他の場所にいて、その地の情報を伝える。

翰は、何らかの形で安思順を排除したいと思っている。

もし、翰の話が、おかしいと思うなら、協力はしなくていい。

だが、安思順の様子がおかしいと、思うなら、その時は、力を貸して欲しい。

もしもの事を心配して言っているのだ。

この話は、二度とする事はない。

それまで、よく考えたらいい。

上役だからと、無理強いはしたくない。

楊国忠のようにな。

あの方、宰相の礼儀を身に付けてないと、いろいろ言われています。

あの方も、私と同じで学がないのですね。

出身も、名のある家ではないようです。

だから、名門の出身の方なら、成長過程で身に着けるような立ち居振る舞いを知らないようです。

普段は、必要なくても、いざ大切な儀式の時なんかの、足の運び方、手の動きなどが、ありますから。

あの方を見ていると、私のような者は、あまり出世しない方がいいのだと、つくづく思います。

話は戻るが、安思順が、怪しい行動をしなければ、問題ない事だ。

そしたら、何もしなくていい。

じゃ、河西節度使に行って、行軍司馬、宜しく頼む。

大夫、喋りませんから、心配しないで下さい。

そんなの、わかっているよ。

翰も、王大夫と同じ、すべてを委すよ。

じゃ、




この時、中国は、勢いが盛んで、長安城の西側の北の端の開遠門から、唐の領土の西の端まで、一万二千里あった。

村の入り口にある門から、他の村の門まで、お互いよく見え、その間は桑や麻が野を覆い、天下の人は、隴右地方の庶民ほど、豊かな者はいないと言った。

哥舒翰が他の民族の侵入を許さなかったからである。

哥舒翰が、玄宗に書状を奏する時は、いつも、使いの者は白いラクダに乗り、日に五百里進んだという。


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