十王宅の計画
兄上、ありがとう、
もう、なにも言わないでくれ。
よくわかった。
母上のことまで言われたら、恥ずかしいよ。
高力士が、
陛下、お酒のご用意ができております。
いつ、お声がかかるかと、随分待ちました。
兄君がおいでなのに、お酒をお出ししないのは体調がお悪いのではと、心配しました。
高力士は、本当に好い側仕えだなあ。
私も、身内として、そなたがいたら安心できる。
兄上のおっしゃる通りです。
今日、忠王様がおいでになっていましたが、顔付きが変わりましたね。
随分、穏やかそうに見受けられました。
そなたも、そう感じたのか?
朕も、いつもと違うと思った。
陛下、忠王の失言は“のろけ”だったのかもしれません。
かもな。
上陽宮の時も、
王府では妃が輿入れするから、身分が低い分、気を使うので腹の子に良くない。
王府には置けないし、宮城では興味津々で覗かれる。
気を使わせたくないのだ。
相手の身分がわからないと、オロオロするだろうし、気を使わなくてよい場所はないだろうか?
との事で、上陽宮をおすすめしたのです。
ちょっと、高力士らしくなく、笑いをこらえた顔をして言った。
忠王様も、こと、好きな女子の事になると、普通の人なのですね。
侍女も、掖庭宮の者で気の置けないものがよい。
あの者に選ばせてほしいのだが。
との事で、まあ、いたれり尽くせりでしたよ。
気のきかん朴念仁だと思っていたが、意外だったなあ。
今日、おいでになったのはと、言いにくそうに、
「上陽宮の宮女は、気がおけなすぎて、こちらの気持ちを汲まない
宮女として、見ざる、言わざる、聞かざる、基本の教育を頼む。」と、言われました。
忠王様も変わられました。
陛下も、変わられたのでは?
蓮のように美しい張兄弟、
男がなにが美しいだ。
化粧なぞしおって、気色が悪い。
なにが蓮の方が似てるだ。
と、嫌っていらっしゃったのに。
幼名だといって、許されるなんて、
まあ、佳い子を産んでくれたからなあ。
褒美だと、いわれれば、どうにもならん。
ああ、せっかくの機会だから、兄上に頼みたいことがある。
俶を宮中で育てたくないのだ。
武恵妃の例も、ある。
もちろん、王府でもだ。
長男と言う事で、女子供に嫉妬されるだろう。
それに、朕自身が側にいて、育児にかかわりたいのだ。
興慶宮を拡げて、朝廷と私生活を興慶宮で営みたい。
あそこは、朕にとって縁起のいい場所だ。
兄弟の屋敷が側にあるので、地所を讓ってもらいたい。
代わりの地所は希望通りにしたいと、思っているのだが。
無理をいって、申し訳ない。
隣接する地所に俶の屋敷を構えたいと、思っている。
扉一つで、行来き出来るようにな。
俶の屋敷のことは、内密にたのむ。
表向きは、今年亡くなった岐王の王府としてもいい。
あ、家族には一応ことわっといてほしい。
他にいい案があればお委せしたい。
陛下、岐王の死は最近です。
それよりも、申王の死は二年前、家族の者とも疎遠になり、最近行来きがありません。
申王府の者の方が、話しがつきやすいと思われます。
わかった。
それで、いこう。
それと“蓮”という幼名なので、邸内に池か川がほしい。
頼めないだろうか?
それと、えらく差をつけるようだが、親王たちの出閤をやめ、一か所に集めたい。
我々が、興慶宮に五人で住んだようにな。
興慶宮の通りの、北の端の坊の、北と東の道も取り込み囲って、夾城からしか出入りができないようにしたい。
安全性もたかまり、それだけ、護衛兵が節約できる。
我々が、五王宅、と呼ばれたように、十王宅、として、作りたいのだ。
後々、入った人数にあわせて、命名したらいい。
朕たちは、一緒に住んだから仲が良いと思われている。
だから、一緒に住んで仲良くしなさい。
と、名分はたつ。
そんな目をしないでくれ。
なんて、酷い父親だという顔だ。
わかっている。
酷いことは。
だが、子供の数が多すぎて、費用が大変なのだ。
月俸は今まで通りだ。
忠王も、入れるつもりだ。
変に、優遇するのも、おかしいだろう?
子は屋敷を構え、父親は雑居生活ですか?
嫌みを言わんでくれ。
周りの城壁に夾城を作り、宦官たちを居住させれば、無駄な、館は建てなくて済む。
それと、興慶宮の方も城壁まで広げて、夾城から大明宮まで行けるようにしてほしい。
十王宅から、大明宮へも興慶宮にも、人に見られる事なくいけることになる。
兄上だから、頼めるのだ。
十王宅、興慶宮を広げること、夾城を作ること。
完成したら、長安に帰る事にする。
この機会に、兄上たち兄弟の屋敷も、好きに変えてくれ。
どうせ壊さなければならないのだから。
朕は、俶を育てるのが楽しみでならない。
手元で、じっくり育てた子はいない。
朕の、すべてを伝えたい。
ああ、今度の正月には、俶を“嫡皇孫”として、発表するつもりだ。
かつて、高宗様は孫の重照を“皇太孫”としたが、皇太子の中宗様(当時)がいるのにおかしいと反対され、結局実現しなかった。
朕は認めさせるつもりだ。
高宗様のようにはならない。
朕は自力で、皇帝になった。
そして、俶は生まれながらの皇帝だ。