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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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行き過ぎた繁栄

五、六年前になるであろうか。

かつて、李林甫と息子李岫は、庭を散策しながら、こんな話をした。

李岫は、すこぶる怖がっている様子で、庭で作業をする庭師を指差し、

父上は、久しく国政の中心になる宰相をされていますが、怨みを抱く者が、天下に満ちています。

一度、災いがおきれば、公で使われるべき職人を、こんな風に私的には使えません。

と、言った。

李林甫は、浮かぬ顔をして云った。

勢いで、こうなったんだ。

どうしたことか。

息子も、行き過ぎた家の繁栄に、怖れを抱いているのである。

また、多くの人を踏み台にしての繁栄なのは、息子である李岫には、わかっているのである。

その当時、李岫は、将作監であった。

将作とは、宮殿等の造営を司る仕事である。

地味な仕事である。

李林甫の息子なら、もっと派手で見栄えのする仕事を選べたはずである。

だのに、この仕事をしているという事は、目立ったり、他人と競ったりするのを好まないたちなのであろう。

李林甫が、人生のツケを支払う事になるであろう将来を、息子はどうしようもなく、憂いているのである。

父親の仕業とは言え、子供は運命共同体なのである。

李林甫には、男女合わせて、五十人の子供がいた。

自分が招いたとはいえ、悪業を思い出しては、恐怖に駆られたであろう。

子供たちの将来を想像すると・・・

突然、頭をよぎった。

天網かいかい、疎にして漏らさず

天網恢恢 疎而不漏

(天が悪人を捕らえるために張る網の目は、あらくて大きいが、見逃すことはない)


昇平、頭を動かさないで、頼むから。

美人に書けないよ。

父上なら、大丈夫。

昇を変に書くわけない。

そんなこと言うのなら、楊貴妃ふうに、昇平を美人に書くから。

嫌な、父上、

じゃ、あと、少しだけよ。

わかった、早くするから。

昇平、父親が娘を書くなんて、そんな父親、どこにもいないわよ。

外の姉妹には、云わないでね。

外の人に云ったら、父上、皆の顔を書くはめになり、忙しくて遊んでもらえなくなるから。

顔を書いてもらえなくてもいいし、遊んでもらえなくてもいいのなら、云ってもいいけど。

皆にも、平等にしたいから、父上、絵師に頼んで、皆の顔を一年に何度か、書いてもらっているのよ。

でも、かつと昇平は、父上が自分で書きたいって。

昇平の顔を書きながら、ここが母上に似てるって思いながら、書くのが楽しいって。

だから、父上孝行だと思って。

珠珠、丹丹、このごろなんか言ってない?

陛下が、楊国忠の屋敷に行幸したりしているから、楊国忠、ますます、態度が大きくなった。

その分、丹丹にしわ寄せが行くだろう。

あんまり、辛い想いをさせたく無いんだ。

もし、柳家を出るとしたら、東宮に帰るようになるのかなあ。

父上も、楊貴妃の手前、東宮に、引き取れるかなあ。

だって、皇子は十王宅、公主、郡主は礼会院と、決まっているから、外の公主と同じにしなくてはと、云われそうで。

いずれにせよ、丹丹が出たいと云えば、出来るだけのことをしたいと、蓮は思っている。

我が家に引き取ろうかとも。

珠珠も、そのつもりでいて。

わかってる。

丹丹は、私と蓮蓮との縁結びの神様、“時の氏神”様だから。

だから、珠珠だって、いつも、丹丹の味方よ。

それと、話は変わるけど、安祿山が謀叛を起こす話、誰にもしないで。

他の妻たちにも、云ってないから。

云ったのは、珠珠にだけだ。

分かった。

父上は、王忠嗣から、随分前に、雄武城に多量の武器、あんなに必要ないだろうと思える量の武器を保管しているのを見た、と聞いた。

“謀叛”を、疑って、哥舒翰と李光弼にどう思うか、尋ねたら、やはり、最悪の事態に備えて当然“謀叛”を、考えるべきだと、答えたそうだ。

疑わしいことが、多々あって、王忠嗣が、陛下に進言してからも、他の人たちが安祿山のことを“謀叛では?”と云ったら、陛下、怒って、殺すんだ。

蓮は、王忠嗣を信じる。

だけど、陛下は、安祿山のことを好きだから信じていて“謀叛”なんて、口にするだけで殺すんだ。

珠珠も、決して、安祿山の話には、関わらないで。

陛下に嫌われるだけだから。

腹をたてられ、罰を受けても困る。

子どもたちが悲しむ。

国のことを心配して、殺されるかもしれないのに、やっとの思いで、進言してくれた人に、申し訳なくて。

やっぱり、陛下は、容赦なく殺すから。

ただ、安祿山、楊貴妃との噂もあるし、謀叛なんて、父上の噂の時は、一応、確かめたりしたのに、安祿山のことは頭から信じて。

蓮だって、“陛下、おかしい、”と思う。

お年のせいも、あるんだろうな。

いずれにせよ、安祿山のこと、心に留めといて。

一切、他人とは話題にしない。

そして、係わらない。

頼んだよ。





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