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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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王忠嗣の想い

天宝八載(749年)

二月、

玄宗は、百官を引き連れ、左蔵庫を見て回った。

粟米は、皇宮の左蔵外庫に置かれているので、わざわざ行かなかった。

大明宮では、左蔵東庫、左蔵西庫と呼び、外に、朝堂庫がある。

太極宮にも、左蔵庫はあるが、東西と言わず、もう一つは右蔵庫である。

左蔵東庫、左蔵西庫に、地方や外国からの銭錦金銀の貢上品が収納されていて、それを見に行ったのである。

太極宮の恭礼門の東に、左蔵東庫があり、安仁門の西に左蔵西庫があるのである。

朝堂庫は、大明宮にあるが、皇帝個人の物を入れるようにしていたので、紫宸門の北、内侍省の西にあった。

内侍省が管理した。

両左蔵庫には、天下の調などの、税として集められた物も、収められている。

玄宗は、そこから帛などを百官それぞれに賜った。

帛は手工芸品なので、どうしても仕上がりに差がでる。

この時、州県はとても豊かで、倉庫には粟帛が積まれ計算すると、巨額であった。

楊しょうは、

穀物を売って軽い物に変えて、租の粟米も布帛に変えて、都に運びたいのですが、

と、上奏した。

金蔵は満ち溢れていた。

だから、玄宗は、臣下に見せたのである。

唐の繁栄を感じてほしかったのである。

自分の功績でもあるからである。

楊しょうは賞され、高官が着る紫の衣と、金魚袋を賜った。

玄宗は、国の予算が豊かで、溢れていると思った。

だから、金帛をあまりありがたい物と思わなかった。

寵愛する者の家には、賞を賜り、限りがない程であった。


三月、

朔方節度使の張斉丘が中受降城の西北五百余里の木刺山に横塞軍を造った。

そして、振遠軍使である、鄭の人、郭子儀を横塞軍使とした。

郭子儀は、武后様が作った武官のための科挙、武挙に受かった武将であった。

四月、

咸寧太守、趙奉璋が李林甫の罪二十余りを書状にして、告発しようとしていたが、まだ届け

ていなかった。

李林甫は、察知して、御史にほのめかして逮捕させ、妖言を吐いたと杖死させた。


昔から、折衝府では皆、銅の魚の割り符を持ち、朝廷の勅書で必要な物を徴収していた。

だが、都督、軍府の者がいても、府兵は死んだり、逃亡したり、日に日に居なくなっていた。

五月、

李林甫が、

折衝府を止め、今後は官吏のみとするよう。

上奏した。

折衝府(銅の割り符)は廃止された。

府兵関係官のみとなり、府兵制は終わった。

機能しない制度や、形だけの機関は、あっても意味がない。

李林甫も、たまにはいい事を言う。

残された官吏たちは、辞めさせるわけにはいかないから、そのまま残した。

折衝府勤務が長くて、その仕事しか出来ない、いわゆる、潰しがきかない者たちなのだ。

今まで働いてくれたのだから、最期まで面倒を見ようとしたのであろう。

いずれ、老いて働けなくなる。

なにも、わざわざ辞めさせなくとも、時間が解決してくれるのだ。

天宝以後、こう騎の法で兵士を募ったが、皆、街の行商人や、ヤクザな者の子弟だった。

訓練はしなかったが、時は久しく平和で、問題なかった。

多くの者が、

中国の兵は消えた。

と、言った。

これより、普通の人が兵器を持つのが禁じられた。

取り締まる者がいないからである。

武術を身に付けない、武具だけを身に付けた男子に、皇帝は守られていたのである。

皇帝は、そんな現実を知っていたのだろうか?

子弟が兵士になった父兄は、身内と見られるのを嫌った。

偽兵士を、恥だと思ったのである。

猛将精鋭は、皆、西北に集まった。

隴右節度使、河西節度使、朔方節度使、にで、ある。

西域攻略のため、補充する良い兵士を確保しようとしたのである。

攻める事ばかり考えて、守る事はおざなりであった。

中国は、無防備であった。

六月、

隴右節度使、哥舒翰は、隴右と河西および、突厥、阿布思の兵、朔方、河東の兵、合わせて凡そ六万三千人で、吐蕃の石堡城を攻めるように、玄宗の命を受けた。

石堡城は、三面が険しい絶壁で、ただ一面、上に登れる小さな道があった。

吐蕃は、ここを数百人で守っていた。

食べ物は多く蓄えられていて、下から登ってくる者を防ぐために落とす石や木がたくさん積まれていた。

唐兵は、前後からたびたび攻めたが、うまくいかなかった。

哥舒翰は、数日攻めても落とせなかった。

副将である高秀厳、張守瑜に罪を問うて、斬ろうとした。

二人は、

三日の間に落とします。

と、懇願した。

そして、期間内に落とした。

三日以内で落としただなんて、今までの働きはなんだったのだ。

力を出し惜しみしていたのか?

命じたから、皆、力いっぱい戦うとは、限らないのだな。

よく、分かった。

今回の戦はいい勉強になった。

吐蕃の鉄刀悉じゃく羅ら四百人を捕らえた。

唐の兵は、数万人が死んだ。

果して、王忠嗣が言った通りであった。

今年に入って、王忠嗣が急死した。

四十五才であった。

玄宗には、

「弔い合戦のつもりでやれ。」と言われた。

実は、亡くなる前に呼ばれて、会いに行ったのである。

見るからに弱っていた。

自分で死期が分かっていたのだろう。

安祿山に注意するように言われた。

それと、探るつもりでも、親しくしないように。

誰が見ても、仲が悪いと思われるように。

あの者は、同じ蛮族だからと、そむく時、必ず声をかける。

だから、二人の間にはっきりと、線を引くように。

同士になろうと声をかけられ、断ったら、命を狙われる。

だから、声をかけさせないような関係にしておくように。

陛下は、巧言令色、旨いこと言われて、すぐ騙される。

少なし仁、その通り。

なにが、腹の中は、真心のみだ。

どれだけの武器を持っているのだ。

忠嗣は二つの罪で調べられた。

二つはきつかったが、忠嗣は陛下を恨んでいない。

忠嗣は、宮中で育てられた。

忠王様と一緒に育てられた。

忠王様と皇后様は、いい親子だった。

後で、義理と知って驚いたくらいだ。

忠嗣の父親が武将と知って、兄上である王守一様に兵法の本を頼んでくれた。

とても仲の良い兄妹であった。

双子だということであった。

男子と女子ということで、あまり似てはいなかった。

皇后様は、兵法の本なのに、時々、本のことを質問した。

兄上の勉強の後で一緒に遊ぼうと待っていて、授業を聞いていたそうだ。

だから、女子なのに、兵法の知識があったのだ。

韋后誅滅の折りも、謀議に参加して献策したという。

皇后様を廃そうと玄宗様が相談した相手が、王守一様に注意するよう、漏らしたのは、そこらあたりの事情を知っているから、皇后様の肩を持ったのであろう。

皇后様は、忠嗣にまで気を使ってくれた。

いい御方だった。

陛下は、忠嗣を見込んで軍営に送った。

忠嗣は陛下の心が分かっていたから、頑張った。

陛下は忙しい御方だ

試しに送った忠嗣の事を忘れた。

忠王様が忠嗣の事を心配して、普段行き来のない陛下に、忠嗣を帰すように頼んでくれた。

帰った時の、忠王様の顔が忘れられない。

あんな顔は二度としてもらいたくない。

天涯孤独な忠嗣を心配してくれる御方がいる。

嬉しかった。

身分も違うし、畏れおおい。

だけど、家族だと、思えた。

忠嗣は李家の犬だ。

家族団らんの時に、外の物音に耳をそばだてて、足元で寝そべる犬だ。

そう思ってくれて、結構。

こんな話をしたのは初めてだ。

忠嗣の大切な思い出なのだ。

翰殿には、忠嗣の思いを託したい。

命を救って貰ったのに、まだ、お願いをするなんて、厚かましいな。

だが、なんと思われてもいい。

陛下のことをお願いする。

そのためにも、自分を大切に。

翰殿は、長だ。

危ないことは、部下に委せるように。

その時は、安祿山に親しい者を使ってくれ。

あいつは、調子のいい事を言っているが、必ず叛く。

本当は、忠嗣が忠王様をお守りしたかった。

だが、忠嗣には、もう無理だ。

陛下は、忠王様に皇位を讓られる。

それは、確かだ。

だから、陛下をお守りしてくれ。

年上の翰殿に、いろいろ注文をつけて悪いな。

もう、会うこともないだろう。

宜しくお願いする。

それと、あの者に気を付けろ。

あいつは間者だ。

立場上、さぞ、大事そうにささやかな情報を伝える。

こちらの情報は漏れなく伝えられているだろう。

まあ、間者はあの者だけではないがな。

だが、あの者が、一番質が悪い。

安祿山と同じで、今に、真心のみと言いそうだ。


哥舒翰は、この度の戦で、兵士として義務を果たしてない者を選別した。

高秀厳、張守瑜を見て、働きを評価することが必要だと、考えたからである。

問題のない兵士は、赤嶺の西で田を開墾するようにした。

罪があると思えた兵士二千人には罰を与えず、龍駒島を守るように命じた。

ただし、自主的にそれぞれ訓練をするようにと言った。

寒くなり、湖が凍った。

吐蕃が多勢でやって来た。

守っていた者たちは、皆、死んだ。

吐蕃の兵士と、戦ったのだ。

哥舒翰は思った。

皆、今回は、自分を守るために戦った。

二千人いたのだ。

吐蕃に少しかもしれないが、痛手を与えただろう。

祖国、唐のために義務を果たしたのだ。

お国のために戦ったのだ。

そなたたちの働きに、感謝する。


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