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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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吉温

高力士は、うつむいていた。

玄宗に会見した者が退室する時、慌てて見送った。

そして、待っている者が居ないのを確かめて、玄宗に声をかけた。

陛下、お時間、よろしいでしょうか?

ああ、なんだ?

陛下、実はさっき、宮殿で会うべきでない人間を見たのです。

どういう事だ?

陛下、ご存知のように、私は武三思様に仕えていました。

そして、この話は、武承嗣様に仕える者に聞きました。

同じ武氏に仕える者として、従者同士、会えば情報交換します。

特に、気を付けるべき人物などのことです。

その時、武承嗣邸に出入りしていた、悪たれ坊主が成長して、今、この宮殿にいるようなのです。

今日、薛嶷様と歩いているのを見たのです。

そなたが、そう言うのなら、碌でもない人間なのだな。

はい、あのような人間は宮中に出入りするべきでないのです。

吉ぎょくをご存知ですか?

あの天官侍郞の吉ぎょくか?

そうです。

武后様の時代の天官侍郞です。

あの者は、中宗様を配流先から洛陽に呼び戻すのに力を尽くしたとか。

はい、あれは張易之、張昌宗の兄弟が武后様の年齢を考えて、こん後、どうやれば自分たちが生き残れるかを吉ぎょくに相談したからです。

中宗様が都に帰れるように武后様を説得したと、恩を売れば大丈夫との、助言に従ったからなのです。

だから、あの吉ぎょくが動いたのです。

唐の将来を思ってのことではないのです。

吉ぎょくは、科挙に受かっています。

しかし、吉ぎょくの父親が事件に連座して、罪に問われたのです。

だから、そんな父親が、将来の妨げになると、武承嗣様に妹二人をさし出したのです。

武承嗣様は歓び、父親の書類を書き変え、吉ぎょくを龍馬監に任命したのです。

吉ぎょくの弟、二人の妹の弟の子が、私が今日見た、吉温なのです。

あの者は、二人の伯母に会うために、よく武承嗣邸を訪れていたそうです。

人当たりがいいけれども、気を付けるようにと、言われたのです。

訪問するのは、勿論、お金をせびるためです。

二人ですから、結構貰えたようです。

だけど、案内して、吉温が帰った後、通り道に置いてあった物が、時折りなくなるそうなのです。

そして、嘘ばかり言うとのことです。

伯母からすこしでも多くお金を貰うために、嘘を言うのです。

その者も部屋の外で聞き耳をたてていたわけではありませんが、武承嗣様がお帰りになったと伝えに行きますと、部屋での話し声が聞こえるそうです。

それで、吉温が嘘つきだと知ったそうです。

私は、このような人間が宮中に存在する事を憂慮します。


高力士、よくぞ、教えてくれた。

薛嶷は東宮の文学だ。

東宮の人事にまで普通、目配りはしない。

すぐに、調べよう。


しばらくして、薛嶷が

東宮の新しい文学です。と、

吉温を連れてきた。

玄宗は吉温を、ついジロジロと見た。

玄宗は、

これは、良からぬ男だな。

朕には、いらない人間だ。

と、言って、横をむいた。

それで、終わった。

高力士が柱の影から出てきた。

長安でも、人気者だということだ。

薛嶷も騙された。

そなたのお陰だ。

人当たりがいいからな。

忠王も、騙されただろう。

お役に立てて幸いです。

高力士は、ニッコリ笑って、おじきをした。





李適之と李林甫は、同じ宰相として意見が合わず、溝が出来ていた。

李適之は兵部尚書も兼ねていた。

その副官は、忠王の妹の寧親公主の夫、張説の息子張きであった。

李林甫はそれも気に入らなかった。

だから人を使って、兵部の悪いことをしそうな役人を選んで訴えさせた。

役人六十人以上が、長安の牢獄で取り調べを受けた。

数日したら、その情報は得られた。

長安の長官、蕭けいは牢獄の役人、吉温に尋問させたのである。

温は部屋に入るなり、まず、中の役人を出し、囚人に二つの聞き方をするのである。

杖を使うか、腕で締め上げるか、

聞くに、耐えないような、泣き叫けぶ声が聞こえるのであった。

言うとおりに書きますから。

と、紙を乞うのであった。

そして、証文を書いた。

兵部の役人はもともと温が残酷だと、聞いていた。

温は、皆を服従させ誣告させた。

だから、罪が証明された。

あとで囚人が翻意することもなかった。

六月、

副官、および兵馬使たちの責任を問うところであるが、“許す”との、陛下の勅、命令が下された。

当然、以後こういうことのないように、との意味が含まれている。

いずれにせよ、兵部の管理はできてない。

長官の李適之は無能だとの証明がされたわけだ。

これで、李適之も張きも陛下の信頼が揺らいだな。

李林甫は、情報網から、玄宗が李林甫に政事を委せたいと思っていることを知っていた。

次は、確実に仕留めよう。

陛下は、私を信頼して、安心して委せるだろう。

李林甫は、ご機嫌であった。

蕭けいは、長安の長官であった。

そして、温の人物を探った。

温は、高力士と知り合いだと言ったので、蕭けいは高力士が我が家に帰る時を狙って、会うように仕向けた。

そして、影から、伺った。

高力士は、いつも、玄宗の側にいるようにしていたので、家に帰ることは滅多になかった。

そんな時、吉温が現れたのである。

二人は、手をとり、親しく話した。

高力士は、吉温を“吉七”と幼名で呼んだ。

吉温の言葉が証明された。


蕭けいは、李林甫から、優秀な獄卒を探して欲しいと、頼まれていたのである。

李林甫は、自分に従わない者を排除したいと望んでいた。

だから、捜すよう頼んだのである。

蕭けいは、吉温を李林甫に引き会わせた。

李林甫は、大歓びした。

また杭州出身の羅希せきという者も腕ききの獄卒と、いうことで選ばれた。

二人は、御史台の主簿から、殿中侍御史となった。

李林甫の引きによる出世である。

二人は李林甫の欲に付き合い、腕を上げていった。

世の人は二人を“羅鉗吉綱”と呼んだ。

羅希せきは首かせでの拷問が得意で、吉温は綱での拷問が、得意だったのである。

吉温は野生の虎でも、綱で縛ることが出来ると豪語した。

そして、首かせは、大きさが何種類もあるということであった。

そして、その首かせには名が付けられていたという。

これで、牢獄に入ってからの心配はないな。

後は、楊慎矜の報告待ちだな。

李林甫は、楊慎矜に韋堅の身辺を探るように命じていたのである。

東宮ゆかりの楊慎矜が、東宮の叔父である韋堅のことを聞いても、怪しまれない。

李林甫は、蜜の顔で、ほほえんだ。


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