くつろぎの家族
麗山温泉から帰った蓮たちは、永嘉坊の王府でくつろいでいた。
丸い寝台で、蓮、珠珠、かつ、三人で遊んでいた。
蓮は、自分が親にしてもらったように、布にかつを乗せ、珠珠と二人で跳ねあげていたのである。
もう、疲れたわ。
じゃ、一休みしよう。
温泉、付いて行く方にしたら、一ト月は長いわね。
おい、おい、滅多なこと言うもんじゃない。
三人はひっくり返り、話はじめた。
でも、宮殿と変わらないのね。
陛下のおいでになる建て物、まあ、中心は温泉だから、陛下用の温泉二つと、玉環様用の温泉が中心だけど。
こら、太子湯もあるだろう。
我々も、父上の恩恵で、家族で楽しめているだろう。
今、云おうとしたところだったのに。
温泉や、陛下の宮殿の周りには、土塀で囲まれているけど、夾城になっているのね。
高くしとかなきゃ、安心出来ないだろう。
毬場も、大きいのと小さいのがあって、本当に宮殿なのね。
上の方には、老君殿も梨園もあるし、下の方には教坊もある。
お寺なんかもね。
だけど、孫は成長するし、次々産まれるから、手狭になったと云っていた。
百孫院を造るって。
十六王宅もね。
皇帝が出かけるのには、施設を整えなければいけないから、大変なんだ。
朝廷が移動するわけだからね。
だけど、陛下だって、近くにお祭りがあるからといっても、出かけられないんだ。
警備の人に、
なにかあったらいけませんから。
って、断られたって。
かつ、温泉行くの、好き?
うん、いろんな人に会えるから。
かつは、言葉が早かったね。
父上は、さ、し、す、せ、そが言えなくて、丹丹の方が早かったくらいだ。
だけど、父上も母上も気にせず、見守ってくれたと思う。
かつが、順調に育ってくれて、うれしいよ。
蓮なら、かつが、言葉が遅かったら、心配したと思うよ。
珠珠、好き好きしよう。
止めて、
かつが、逃げだした。
蓮が、かつを抱いて、
逃がすものか、
珠珠と、自分の間にかつを挟み、珠珠がかつの右ほほに頬っぺを当てるのを見ると、左ほほに自分の頬っぺを当て、
好き好き、と
言って、顔と体で両側から、かつを抱きしめ、ゆさぶった。
笑う蓮と珠珠に、
くたびれた。
と、かつは云って、二人の間にひっくりかえった。
二人は、かつをはさんで寝そべり、
川の字だ。
と、云った。
丹丹の部屋に丸い寝台があったわ。
あれは、父上と母上の寝台だ。
これは、丹丹からの婚姻祝いだって、云ったろう。
思い出があるから、いらないなら私が使うと云って、丹丹が貰ったんだ。
他の妻への婚姻祝いは、ありきたりの物だった。
だから云ったろう。
丹丹は珠珠が好きなんだって。
私、幸せなのね。
そうだよ。
小姑が、味方なんだから。
だけど、この前言っていたけど、陛下が、
楊家の年頃の男子、誰がいいかって、丹丹に聞くって。
ここだけの話だけど、珠珠だから、言うんだけど、陛下、武后様に似てる気がする。
武后様も、武家の人を李家の人と、婚姻させたがっていた。
丹丹だけじゃないんだ。
公主も、楊家の男子と婚姻をさせたがってる。
陛下は、玉環様を気にいっている。
最期を見取って欲しいと思っている。
だから、貴妃にするんじゃないかな?
ちゃんと身分を得たら、あの一族、ますます巾をきかすだろうな。
我が家も紫玉が牛耳っている。
珠珠にも、辛い思いをさせているのは、わかっている。
でも、子どもはいい子よ。
ばくは、今はいい子だ。
まだ、寝るばかりの赤子だからな。
ばくの字、かつがしんにゅうのついた字にしたから、しんにゅうのついた字だ。
これから産まれる男子は、皆、そうなる。
ばくの意味知ってる?
フツ、フツ、
遠い、って意味。
さあ、な何から遠いんだろうね。
あの子も、母親を見て育つと、どうなることやら。
義母も、遠慮がなく、我が家同然で召使いたちに主人面して。
皆にも、
悪いが、我慢してくれ、と
云っている。
だが、一番の被害者は、珠珠だ。
かつがいるから、気に食わないんだ。
蓮蓮がわかってくれているから、いいのよ。
なるべく、笑って、聞き流すようにしてるから。
珠珠の笑顔は、強烈な武器だからな。
むこうは“暖簾に腕押し”だな。
蓮蓮だって、珠珠には勝てない。
珠珠は最強だ。