天宝元年
新しい年が訪れた。
玄宗は興慶宮の勤政務本楼で朝賀を受けた。
天下に恩赦を出し、改元を宣言した。
佳き名を考えるように、命じた。
六日、范陽節度使から分かれて、新たに作られた平盧節度使に安祿山が任じられた。
李林甫の読み通りであった。
元号が決まり、“天宝”、となった。
新しい年は、天宝元年となった。
陛下、なんでしょうか?
おお、俶はどうしている?
珠珠が身重なもので、用事がなければ王府にいます。
困ったことになった。
玉環と話をしていたら、朕が、
俶に子が産まれるから、唐はこれで安心だ。
と、つい言ってしまったのだ。
その時は、なんでも無かったのだが、二、三日後、姪の紫玉が俶をしたっていると言うのだ。
俶に嫁ぎたいと。
俶はどう言うだろうか?
俶は、珠珠に夢中で、他の女子の処にはほとんど行きません。
私は、自分のことを思い出すと、なにも言えないのです。
俶に悪い手本を見せた気がします。
俶にこの話をすると、喜ばないでしょう。
だが、玉環が
想い人と結ばれるのは幸せです。
陛下もお分かりですよね。
と、言うのだ。
そんなふうに言われると、朕は、なにも言えんのだ。
玉環の喜ぶ顔が見たい。
「うれしい、」「ありがとう、」と抱きついてほしい。
忠王、どうにかならんか?
今は、珠珠の腹の子になにごとも起きないようにしなければなりません。
新しい婚姻は、珠珠に衝撃を与えるでしょう。
朕は考えたのだが、高宗様は、太宗様が皇帝の時のお子だ。
あの頃、高祖様のために建てていた大明宮が、まだ出来ていなくて、高祖様は、皇帝の居所におられたのだろう。
だから、太宗様は東宮に住まわれていたのだろう。
高宗様は、東宮でお産まれになったのだ。
二人の兄上の誕生は、太宗様がまだ皇太子にもなっていかった頃だから、多分、宮城で産まれていないだろう。
三男の高宗様が唐の後継者となられたのは、東宮で産まれた縁があったのではないか?
と、朕は思っている。
俶は跡取りだ。
俶の子は、縁起を担いで、東宮で産むべきだと思うが、そなた、どう思う?
そう言うふうにおっしゃられると、心が動きます。
妃選びはしなくて、ただ玉環たちと訪問したら、二人が似合いだったから、朕が、紫玉を下賜したと言うことにするのは、どうかな?
珠珠は東宮で子が産まれるまで、居るようにしたら、いいだろう。
侍医もいるから、いつ産気ずいても、大丈夫。
東宮には、俶の部屋もあるから遠慮はいらんし、丹丹もいる。
退屈することもないだろう。
俶に言ってくれ。
朕は、玉環の望みを叶えてやりたい。
紫玉は、楊一族だ。
美人だぞ。
それと、丹丹も、“婚姻”そろそろ考えなくてはな。
楊一族の男も、男前揃いだ。
太華公主も、玉環の甥の一人に嫁がせるようかと考えている。
丹丹は、難しいです。
郡主に封じていただきましたが、婚姻なんて考えてもいないようです。
年頃なんだし、ああ、それに、そばに珠珠がいるのだから、刺激を与えてくれたらいいのだが。
いずれにせよ、珠珠が東宮に移ったら、紫玉を連れて王府を訪れるようにするからな。
逃れられんぞ。
それと、紫玉は正妻にするからな。
玉環に言われたのだ。
私は、なんの身分も持っていません。
ただ、陛下の情だけを信じて生きています。
せめて、姪だけでも、肩身の狭い思いをさせないで下さい。
ちゃんとした身分を与えて下さい。
と、涙ぐまれたのだ。
ところで、玉環様、どうなさるのですか?
今、皇后待遇だからな。
推して、測るべし、だ。
ただ、寿王のことがあるから、ほとぼりが冷めるまでは、表に出せないのだ。
だが、悪いようにはしない。
だから、身分のことを言われると、願いを叶えたくなる。
俶には、ちゃんと伝えてくれ。
他の女子は“よう”、側妻となる。
俶にも、珠珠にも納得させてくれ。
親子と言えども、臣下だからな。
断るなんぞ、許されんぞ。
断るならば、それなりの処罰を覚悟するのだな。
頼んだぞ。
そんな~