蓮蓮
陛下、今日はお願いがあって参りました。
実は、俶のために、妃選びをしていただきたいのですが。
俶に好きな女子でもできたのか?
いえ、丹丹に、姉上になってもらいたい女子ができたのです。
俶に確かめますと、一人、姉上用の妃を娶ると約束したとのことだそうです。
丹丹のことです。
まだか、まだかとうるさく言われそうな気がするので、早早にまいりました。
ほう、あの娘の好みは厳しいのに、姉上になってもらいたいとは。
そうなんですよ。
名を聞くと、呉興の沈氏とのこと。
あの沈氏です。
丹丹が、そんな深窓の令嬢をなんで知っている?
元宵節の夜に宝飾店で会ったそうです。
それが、陛下がおっしゃるように、あまり深窓の令嬢っぽくないようで。
父親にすぐにくっつくので、離れなさい、と、何度も叱られていたそうで、
私たち父娘より仲良しだったと。
あんなに仲の良い親子、初めてだったと。
ほう、なんか、好感がもてるな。
だから、早く娶って欲しいと。
呉興の沈氏か。
言われてみれば、いい縁組みだ。
冠族だな。
だが、娘は冠族らしくない。
ちっとも、鼻が高くない。
いいことだ。
三月に妃選びをしよう。
それまでに、家柄の良い年頃の娘のいる家を調べて、通知するように。
そなたの時と同じように、あと何人か、選んだらいい。
他の皇子たちの妃も、この機会に選ぶとよい。
妃選びは、何度もするものではないからな。
朕もちょっと覗いてみよう。
そうだ。
何人か選ぶなら、武門の家の娘も、一人入れておくとよい。
太平の世が長く続いたので、今時、武官は流行らんがな。
だが、なにか有った時は、頼りになる。
選んだら、婚姻を早くして、と丹丹が言っていました。
そりゃ、決まったのであれば早いに越したことはない。
まるで、丹丹の嫁取りみたいだな。
俶が婚姻をして、男子を生めば、朕の役割は終わりだな。
唐の将来に道はつけた。
朕は、玉環に専念できる。
姉たちを呼んだが、玉環が喜んでくれてな。
また、その姉たちが三人とも美人揃いなのだ。
従兄弟の兄たちも、ささいな官職につけたら、感謝されてな。
気分がいい。
楽器は巧みだし、踊りは朕を見ながら笑うのだ。
最近は毎日が楽しくてな。
あまり、朝議に行く気がしない。
陛下、なにをおっしやっているのですか?
陛下は、この唐の皇帝なのですよ。
仕事は山積み、よろしくお願いいたします。
そなたには、言ったはずだ。
朕の年を考えなさい。
過労死させる気か?
ひ孫の心配をする老人をいたわれ。
わかったか?
はい、はい。
でも、陛下より年上の寧王様は生きておいでです。
陛下だって、恋に落ちたりして、まだまだお若いです。
お仕事、お励みください。
では、失礼します。
へ、へ、
にいにいの画室、相変わらず母上だらけだ。
にいにいの心を読み解くカギは、画の中にあり、だ。
最近の作品はどれかな?
丹丹は、パラパラと、重ねられた紙をめくってみた。
やっぱり、見られていいものなら、こんなに端っこの場所の重ねた真ん中辺りに置いたりしない。
見られる心配をしてのことよね。
にいにいのこと、お見通しよ。
私の勘は的中。
一応、確かめにきたの。
もし、違っていたら、あは、違っているわけない。
にいにいの専門家だからね。
丹丹は、宇珠が振り返った時の、顔が描かれた紙を手に取った。
本人よりも、美しく描かれていると思った。
“蓮蓮”って、呼んであげてね。
画に向かって声をかけた。