蓮茶の準備
今日は何かあったのですか?
俶のところに直行なんて、
びっくりしました。
杏は忠王に近づき、腰に両手をまわした。
そして顔をのぞきこみ、眼で尋ねた。
気が弛んだのか、眼が潤み、鼻声になった。
そなたがうらやましいよ。
母が、実母が病だと聞いていたので、お見舞いにいってきた。
親子だというのに、話が続かないし、噛みあわない。
妹が二人いて、楽しそうにしているけど、どちらが、上の妹か下の妹かも、わからなかった。
そうそうに退散したよ。
一緒に育たないと、家族じゃない事を実感したよ。
私、なにも言えない。
慰める言葉なんて、そんなもの、どこにもない。
私が出来ることは、傍にいて、あなたの心をなだめ、暖めるくらい。
泣きたければ、泣いて、心に任せたらいい。
私のしあわせな話ばかりして、ごめんなさい。
惨めな気持ちに、なったと思う。
杏は近くの長椅子に忠王を導き、座って、隣に座る忠王の頭を膝にうけた。
椅子に置いてあった薄手の布団をかけた。
温かくして、すこし眠るといいわ。
俶と、どちらがよく眠るかな。
父親なんだから、負けないでね。
眠ると、忘れられるわ。
と、鼻をつついた。
なんか、しあわせが寄ってきた気がする。
王府には帰る気がしなかった。
本当だね。
心のままでいいんだね。
我慢するのが当たり前だったけど、
そなたの前だと、泣ける気がする。
忠王の唇に、“シイ”と、言って、指をあてた。
お眠の時間です。
耳元でささやいた。
なんか、迷惑をかけた気がする。
恥ずかしそうに、忠王が、声をかけてきた。
疲れていたのね。
気持ち良さそうに、よく寝てたわよ。
父上の勝ち!
俶はおっぱいを飲んで、また眠ったわ。
気分はいかが?
いいと思うよ。
じゃ、今のうちにお願いしていい?
今度は、忠王が両手を杏の腰にまわした。
私に出来る事ならね。
母の棺の話、覚えてる?
私ね、ずうっと蓮茶を飲んでいるの。
母が冬用に作って、くれていたの。
私、自分の棺用に蓮茶を作ってもいい?
飲む分もね。
そんな話、聞きたくない。
そんな事いっても、虹橋の話をきいたから、私も、母の様に準備しなきゃ、って思ったの。
だって、蓮茶なんて、どこにも売ってない。
だから、自分で用意してたら安心だと思ったの。
殿下が、私をその気にさせたのよ。
死は突然やってくる。
その時、冬だったら、あわててだって作れない。
炭は心配してないけど。
蓮茶が、急に心配になって、
嫌な話でごめんなさい。
でも、そうしたいの。
お願い、