戦闘狂とめんどくさがり屋Ⅴ
なぜ続くのか?
何故か私が書いてしまうからです!
何でか続く短編シリーズ。いい加減にしろよと思った方、すみません。
前回: https://ncode.syosetu.com/n3694gb/
一回: https://ncode.syosetu.com/n2784gb/
禁忌武具にも強さの差というものがある。
妖刀はヴェルディにしてみればチャチなものであった。高々、敵を選ぶというだけでヴェルディには何の意味も為さず、ただの切れ味の良い剣でしかない。だからこそ、ヴェルディが認めたミズキであれば任せても大丈夫だと判断した。
ただ、ヴェルディも迂闊に手を出すことのできないものがあった。
アクア帝国の海を挟んで北側に位置する、ラクス王国の現在の国王陛下は、その証としてある一つの槍を手にしていた。
それが神話の武器の再現ともいえる神槍グングニール。
ただ、それは恐ろしい能力を持つとされているが、未だにその全容を知るものは担い手たる王以外に存在していない。
そして、永仙国の隣国たる、明兆国は既に北のニクスにより、侵略されてしまった。それと同時に明兆国が強大国家とされるにふさわしい禁忌武具も徴収された。
そして、ヴェルディもその名を知っていた。
偉大なる大槌、天裁。
その名の通り、振り下ろすだけで天の裁きとも形容されるであろう一撃が広範囲を襲う、本当の意味での戦略兵器だ。
記録として、ニクスの侵略戦争の際に振るわれた時はその軍隊を壊滅にまで追い込んだ。空中の魔法攻撃部隊をも、だ。ただ、他軍の別方面からの攻撃により、明兆国は敗北を喫した。
「今回は、別件だな」
散々と、禁忌武具の話をしてきたが、今回は別の話だ。
別件、と言っても彼は魔王討伐或いは、禁忌武具の回収ばかり行っている。
ただ、今回はそれのどれとも違う。どうにも、魔王とは比べ物にならない、魔神を名乗る存在がアクア帝国、その隣に位置するルクス公国、ラクス王国近くの海面に突如浮上した巨大な城に現れた。
ヴェルディは千里眼でその城と、その魔神の威容を見たのだが、成る程、確かに、と納得した。
二足歩行の人間と似たような見た目だが、体の色は鮮やかな銀色。目は真っ黒な宝石を埋め込まれているようで、額には赤い綺麗な宝石が血のように輝く。
ただし、その大きさは異常だ。
彼、と言い表しても良いものかヴェルディには悩ましいが、兎も角ソレは、巨大であった。その巨体は流石に城に収まる程度ではあるが、人間で巨漢と呼ばれる男、数十人ほどの大きさがある。
『傍聴しているものが居るな』
玉座に座す魔神はつまらなげにそう言うと、指を鳴らした。
ヴェルディは確かにその様子を見ていたが、特に何の問題も起きなかった。
ただ、ヴェルディは千里眼でその瞬間に起きたことを見ていた。
大地が裂け、飲み込んだ。或いは風がその首を攫った。
それがこの世界で彼の存在を見ていたものを襲ったのだ。ただ、ヴェルディは例えそうなったとしても生き残る事はできたであろう。
「全く、メンドウなこった。ただでさえ、戦争だとか禁忌武具だとか、魔王だとかでも面倒だってのに、魔神ね」
今まで散々、不死身の敵は面倒だとヴェルディは言い続けていたのだが、伝承ばかりを鵜呑みにして不死身であった相手などいたこともない。
「ま、ソル・サティスじゃねぇ分、まだマシか……」
現在の世界最大宗教、ソル・サティス信仰の主神が出てきては些か、いや、ヴェルディでも面倒を通り越すと感じるだろう。
ヴェルディは神に関してはそれなりの知識を持っていた。ただ、彼自身は無神教であったが。
海に浮上する城。
そして巨大な銀の体。
その事からだけでも魔神の正体は見破ることができた。
巨神ベルラトール・モルス。
主神ソル・サティスに反旗を翻した、地上の戦神にして、死の強調。ソル・サティスが侵略、勝利を司ると言うのなら、ベルラトールは戦争全般を司る。
ただ、ソル・サティスはベルラトールからこの権能を奪った可能性も考えられる。
神話の中ではベルラトールは悪の神として『天と地を別つ大戦』にて、海底に沈められた。
それもソル・サティスの手ではなく海と難航の神マーレ・ヴォルの手によってだ。
『俺は未だ本調子ではないが、徐々に力を手に入れよう』
ただ、巨神ベルラトールであるのならば、だが、目的は分かっていた。
『そして、今度こそソル・サティスを撃ち、俺が天に立つ』
彼の目的はソル・サティスの討伐。だが、それをすると、この世界は荒れ果てるだろう。今の本調子でない時を狙い、再び海に沈めるのが最もの判断だ。
ただ、それを出来るものが居るのかと言う事だが、今回もヴェルディは重たい腰を上げた。
「アクア帝国なら、水を操る剣があったよな。確か、禁忌武具だったか」
今回ばかりはアクア帝国は禁忌武具を持ち出しの許可を出してくれるだろう。ただ、ルクス公国とラクス王国が協力するかと言われたら、答えはもう出ていた。
協力はするが禁忌武具、グングニールもルクス公国の最大ともいえる禁忌武具、ソルグラディオも出てくることはないだろう。
ヴェルディもアクア帝国のアマミ程度にしか期待は抱いていない。
「ま、善は急げってな」
流石に放置していては世界が滅ぶために、ヴェルディも悠長にしていられなかった。
「アマミを貸してくれないか?」
無礼千万な口の聞き方、本来であれば投獄されてもおかしくなかった。だが、ヴェルディは今まで何度もアクア帝国を救ってくれたがために皇帝も感謝すれど、責めるようなことは出来なかった。
「構わんが、何故だ?」
「あの城の主人は多分だが、ベルラトールだと思う。と言うか、十中八九そうだ」
でなければソル・サティスを撃つなどと言わないだろう。
「だから再び海に沈めると……」
「一応、禁忌武具も魔導武器だ。オレの魔力なら、海水もかなり自在に動かせる。あのベルラトールも沈められる」
「ふむ……。許可するが」
するが。
何か条件が付けられるのだろう。ただ、それもヴェルディは考えていた。
「貴殿が倒したのであれば、我が国の栄誉とせよ」
「その程度なら構わねぇよ」
「こちらもいつも貴殿がいて助かっている。流石に要求がいきすぎてはこちらの胃がもたない」
皇帝は少し苦そうな表情をして、地下監査員にアマミの持ち込みを伝達するように側近に伝えた。
「外に出ておると良い。すぐにアマミが渡されるだろう」
その言葉に感謝して、ヴェルディは皇帝の間を後にする。
皇帝の言葉通りヴェルディは十分程でアマミを手にしていた。
水色の波打つような剣身。
「オレがまさか禁忌武具を握るとはなぁ」
いつもヴェルディは禁忌武具を回収する立場で、振るうなどと言うことはなかった。
そして、今回もアマミを握った瞬間にその能力を理解する。
水分を自在に操り、状態操作が出来る。昇華も可能と、水の魔導武器の中では確かに恐ろしいものだ。
何よりも恐ろしいのは、アマミは担い手の魔力量により、操作範囲が変動する。
今回、アマミを握るのは魔力量が桁違いなヴェルディだ。この世界に広がる、海の四割は支配下に置いたと言っても過言ではない。
「さて、始めるか……」
フライとエンチャントを重ねがけして、高速飛行でベルラトールの根城に向かう。
今回はこの世界の神話を出してみました。適当な設定ですが。この神話は随時、更新されます。面白そうだと思った方が居ましたら、適当な神話を考えてください。使用させて頂くかもしれません。