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トリノ巣病院  作者: 花道
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第十九章 キセキ視点 後日談

その日はソウボの実家に泊めてもらい、次の日に向かったのは、昨晩話していたモエさんの職場。だいぶお客が渋滞していたから、予約表に名前を書いて待っていたら、だいぶ慌てた勢いでモエさんがカーテンから出てきた。

本格的な衣装と小道具を身につけているモエさんは、まさしく占い師そのものだった。でもモエさんは自分の姿をあまり見られたくなかったのか、私たちの顔を見るとすぐにカーテンで体を隠してしまう。

でもその姿があまりにも綺麗だったから、どうにか説得しての場で一緒に写真を撮った。周りの人達はだいぶ私の事を変な目で見ていたけど、別に気にしない。

そしてお店の閉店時間になるまで、私と父は久しぶりのショッピングを楽しんだ。私が入院している間に流行もだいぶ変わっていて、まるで別の国に来た様な新鮮な気分になってしまった。でも、自分で自由に歩いて、自分で自由に商品を手に取れる事が、私にはすごく嬉しかった。

何よりも、父や周りの人にに気を使わせなくてもよくなった事が、私には嬉しく感じている。車椅子を使っていたり、ギブスを体に装着していると、どうしても周りが心配したり、父が定期的に私を見て心配そうにしていた。私にとっては、それが一番申し訳なく思う事でもあったし、一番苦しいと思った。

大怪我をしているとはいえ、あれこれと面倒を見てもらわないと生きていけない自分の体が嫌になる事だってあった。でもそんな思いを振り払って、前向きにリハビリに専念すれば、お世話になる事にあまり抵抗はなくなった。でも、怪我が回復したら今度はお世話になった人達の助けがしたいと思っていた。

でも父の場合、私ができる事はドジをカバーする事かもしれない。目的地ではない階のエレベータボタンを押しそうになったり、値札を見間違えたりと、やっぱり父は相変わらずだった。でも父のそんな姿を見ると、ようやく前の日常が戻ってきた事がしみじみと感じられる。

むしろ私がいない間、変な事をしていないか若干心配になった。けどショッピングの休憩中に、喫茶店で父はマンションでの暮らしを色々と話してくれた。父は私がいない間、自分の友人達がよくマンションを訪れて、自分のドジに喝を入れてくれた話を聞いてほっとした。その後、お世話になった父の友人達の為に、お礼の品も買い揃えた。

そしてモエさんのお店が閉店すると、私と父をお店の中に入れた。カーテンで仕切られているから部屋とは言いずらいけど、カーテンには様々な有名人の色紙が飾られている。中には最近結婚を発表したお笑い芸人のサインまであった。

モエさんのお店が閉店する時間は夜の九時。とりあえず私達三人は、モエさんのお店の隣にあるレストランで食事を済ませて、再びお店の中に戻ると、机の上に弟の写真が飾られている事に気付いた。

お客さんには「自分の弟です」とは説明しているけど、亡くなっている事に関しては話していないらしい。でもモエさんは、仕事の合間に弟の写真を見ると妙に気力が湧いてくるらしく、ある意味その写真はモエさんにとってのパワーアイテムだった。

ソウボは、亡くなったとしても家族にとってはかけがえのない存在である事に変わりはない。それだけでも彼は十分幸せ者だと思う。モエさんは肘を机につきながら、一粒の涙を浮かべながら、こう言っていた。


「しばらく病院には行きたくないから、今は健康面を重視して生活しているの。

 きっと私、どの病院に行っても、『彼』を探してしまうかもしれない。それじゃ私も院長さんの二の舞 になって、あの病院で起こった悲劇が繰り返されるかもしれない。


 ・・・・・そうなる事は、『ドウブツ』だって望んではいないと思うし。」


「・・・・・まぁ、健康面を重視した生活は、今回の悲劇とは関係無しに良い習慣だよ。私の事故    は・・・・・防ぐ方法が無かったに等しいかも・・・・・ね。」


「・・・でもキセキ、ボーッとしながら歩く事だけはやめようよ。事故よりももっと大変な事が起こりか ねないよ。」


「それはお父さんもおんなじ。

 それにお父さんにも、車を運転している時には、『命に関わっている』っていう自覚を持ってほしい  な。 大げさかもしれないけど、そう思った結果、今回の大事故に繋がっちゃったんだから。

 人の軽はずみな思いは取り返しのつかない事態を引き起こすし、人の強い思いは、『あんな存在』を生 んでしまうほど、万能且つ恐ろしいモノであるの。


 でも、『思い』そのものを否定するわけではないけどね。実際に院長さんは過去の強い思いで、あの病 院を立派にさせたんだし。今回の件は、『強い思いの副産物』だったのかもね。」


「・・・・・私も気をつけよう・・・・・。」

そう言いながら、モエさんはスマホの中にある院長さんとの2ショット写真を眺めていた。沢山の染みやシワが付いているその白衣にも、きっと院長さんの『強い思い』が込められているのかもしれない。

でも、それは決して『悪い思い』ばかりではないと思った。


悲劇を忘れないために

記憶や思いを抱えて、生きる。

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