第十一章 モエ視点 真実への茨道
日が過ぎたとしても
消えないモノだって存在する
私もそうだけど、キセキちゃんのダメージも大きかった。医師から詳しく話を聞いたけど、聞いただけで袋が欲しくなる程、だいぶ悲惨な状況を彼女は目の当たりにしてしまったんだ。
彼女の病室まで様子を見に行ったけど、やっぱり相当ショックを受けていた。仲が良かった入院仲間というのは、彼女や弟にとって家族の様に親しい関係だったと思う。その相手が目の前で突然血まみれになれば、現実逃避したくなる気持ちも十分分かる。
でもキセキちゃんは強かった、翌日また彼女に顔をあわせた時には、いつもの優しい笑顔で迎えてくれた。
でも、私が「無理しなくてもいいんだよ」と言いながらキセキちゃんの頭を撫でると、まだショックが残っているのか、悲しそうな顔をしている。
彼女の心のケアも、病院側がしっかり受け持つと看護師から話を聞いた。その日たまたま彼女のカウンセラーと病院で居合わせたから、事情を説明した後に深々と頭を下げた。カウンセラーの人は私を見て、「貴方は大丈夫?」と聞いてくれた。
話を聞くと、病院と心理カウンセラーは切っても切り離せない仲。この病院に精神科は入っていないけど、大概どの病院にもカウンセリングをする職員や、精神的に患者との時間を設ける事もあるらしい。この治太海病院に派遣された心理カウンセラーは、キセキちゃんの他にもあの場に居合わせてしまった人のカウンセリングも行なっていた。
看護師達の話を聞く限り、あの場に居合わせたのはキセキちゃんだけではなく、この病院に入院している患者数十名が目撃してしまったんだ。幸い小さい子供は居合わせなかったけど、それでもショックだった事に変わりないだろう。
改めて私は申し訳ない気持ちになり、病院を歩く事が気不味くなってしまった。私はとりあえずキセキの病室に避難して、辛いとは思うけど、当時の様子を聞く事にした。病院側からも大体の説明を受けたけど、とても信じられなかった。
退院間近で、前日まで健康だった弟が、急に多量出血で亡くなるなんて、まるで弟が通り魔に襲われた様な感覚だ。しかもその通り魔の名は「病気」ではなく、「突然死」という事で片付けられた。
容疑者がはっきりしないまま迷宮入りしてしまった親族も、きっとこんな感情なんだろう。泣いていいのか、悔やんでいいのか分からない、この複雑な感情。
私は何度も医師に聞いた、弟の死因は一体何なのか。でも医師が説明してくれた内容は、まるでファンタジーの様だった。突然全身の脈が切れ、身体の穴からその血が溢れてしまうだなんて。理由になっていない。
しかも医師の話によれば、出血の酷さも異常としか見られず、未だに医師や看護師の頭を悩ませている。専門家が頭を悩ませる状況なら、素人の私はもっと頭を悩ませていた。
一応両親にはちゃんと連絡したけど、死因についてはうまく説明できずに、「病院に来たら医師が説明してくれるよ」と言ってしまった。こんな状況じゃ、両親を納得させる死因なんて誰も説明できない。
でもキセキちゃんの話を聞く限り、やっぱり死因は多量出血でほぼ間違いはなさそうだった。キセキちゃんが嘘をつく様な子じゃない事はちゃんと分かっている。説明したくても、どう説明すればいいのか分からず、身振り手振りで表現するキセキちゃんを見れば、嘘ではない事がすぐに分かった。




