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トリノ巣病院  作者: 花道
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序章 ???視点 

病院で検査結果を聞いた時、両親はもちろん、私も愕然とした。だが病気に侵されてしまった当の本人は、だいぶ落ち着いている様子だった。よく医療ドラマで、病気を発症した患者の家族や友人、恋人などが泣くシーンが多いが、それはただの演出などではなく、真実らしさを演出する為だと思う。

医療ベッドを満喫する私の弟に、若干姉である私は呆れてしまう。危機感を感じられない自分の弟は、昔から能天気で明るい性格、それが長所でもあるのだが、今この場では逆に異様に見えても仕方がない。

弟の目に異常が現れたのは数ヶ月前だが、弟は病院に一切行かず、そのまま部活にのめり込んでいた。あと少し検査が遅くなれば、両目を失明してしまう可能性だって考えられた。けれど、弟に病院へ行く事を促さなかった私達家族にも責任がある。

父と母は一旦家に戻り、今頃弟の荷物をまとめている、私は弟の側にしばらく居てあげる事に。弟は自分の入院する病室を見て、「俺の部屋より広いじゃん!」と、テンション高めでウロウロする。

当たり前だ、我が家はマンションなのだから、部屋の数も広さも限られている。幼い頃は部屋の問題をめぐって二人でよく喧嘩していたが、今私は別のマンションで生活しているので、実質今実家の弟の部屋は、弟専用の完全な個室となった。

それなのに、弟が喜んでいた期間はほんの数ヶ月のみ。私が一人暮らしをして一年も経っていないのに、私のスマホに弟からのメッセージで「寂しいお」と絵文字付きのメッセージが届いた。父も母も一緒なのに、情けない。

元々弟は人一倍寂しがりやな性格なので、学校でも塾でも友人を引き連れている、その姿を私は何度も見ている。だが実家の近くにある病院では、弟の病気の治療や手術ができる施設がなかった。

なので実家から離れたこの治太海じだいかい病院に入院する事にした。実家から一番近く、弟の病気を治療できる病院が治太海病院だったのだ。

それでも実家から病院までは車で3・4時間はかかる。夜行バスや新幹線を利用すればもっと早く行き来ができるのだが、頻繁にお見舞いに行けるほどのお金を両親持ち合わせているわけではない。

それに加えて、両親は共働きをしているので、安易にお見舞も行けないのだ。弟の入院をきっかけに、母はパートを辞めると言い出したのだが、私の仕事がちょうど区切りがつきそうだったので、私が治太海病院近くのアパートを借りて、弟の様子を随時メールで両親に送る事に。

幸いアパートはすぐに借りる事ができたし、敷金も礼金も問題なく払えた。今の仕事を始めてからあまり休みを取っていなかったので、良い機会として考える私。

弟も弟で、「お見舞いはたまにでも良いよ」とは言っていた。弟も両親や私の事を気にかけているのだ、それでも弟の孤独感が病気に影響するのかもしれない。まだ弟は一七歳、これからまだまだ未来があるのに、その未来をないがしろにするわけにはいかない。

もう一度弟が楽しそうに学校に行く姿が見たい、いつか見られる弟のスーツ姿を拝みたい。それが私達家族の望みなのだ。

弟は入院道具を段ボールから出している間にも、高校で使っている教科書やノートを握りしめ、悲しげな顔をしていた。やはり弟は、病気に関する恐怖や不安を押し殺しているのだ。

私は一旦弟の持っている教科書やノートを取り上げて、病院に来る前に買っておいた新刊の漫画を弟に渡す。弟は私の気持ちを察したのか、パラパラと漫画を読み始めた。病院にもコンビニが付属されているのだが、弟の病状を考えると、外に行けるのはだいぶ先の事になるだろう。

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