誕生
自分が一番最初に生まれたと思ってる神様のお話
「出ておいで、愛しい我が子」
ぽわぽわと暖かく白い世界を漂っていると、ふと優しい声が世界に響き渡った。
「早く、早く姿を見せておくれ。母はもう待ちきれないのだ」
声は少し焦れったように、待ち遠しいかのように響く。世界の外から話しかけられているようなその声はとても心地よくてもっと聞いていたくなる。
ママ?ママ?もっとおはなしして!ぼくもっとママのお声ききたいの。
伝わるかなんて分からないがもしこの声が外のあの声の持ち主に伝わったとしたら、それはとっても素敵なことだろう。そんなことを思っているとこころもぽわぽわしてきて心地よくって思わず意識が遠くなってしまう。
ママ、ママ、このそとのそっちのせかいはどんなせかいなの? ママはどんなすがたをしているの?
「なんと、もう話せるのか。さすが愛しい子だ。こちらの世界はとても美しい世界だ。きっと我が子もとても気に入ることだろう。母は白い姿をしている。多分我が子が見ているものと殆ど変わらないだろう」
へぇー!おそとのせかいはうつくしいのか。ママはぽわぽわなすがたなんだ。
みてみたいな。ママにもあってみたい。
外の世界に出てみよう。幸いここからの出方は知っている。この白い世界を壊せばいいんだ。僕の硬い頭で。きっとママも助けてくれる。
ママ、ぼくここからでる!ママをみたいな。ママもてつだってくれるよね?
「勿論だ。嗚呼、愛しい我が子と会えるなんてなんて嬉しい」
僕の頭で世界にヒビをつけると、ママがそのヒビから世界を切り取ってくれた。
白い世界の外の世界で初めて見たものは真白の鱗をもった美しいドラゴン、ママだった。
「初めまして、愛しい我が子。私が母だ。これから、宜しくな」
キラキラ光る鱗の隙間から覗く細められた瞳は真紅の色とは裏腹にとても優しかった。
ママ、ママはじめまして。これからよろしくね。
───私の記憶の始まりはそんな夢からだった。
そこでは母の溢れんばかりの愛を受けたのに、目を覚ませば暗闇の中ただ1人、1つ、存在しているだけ。
夢を見ることだけが楽しみだった。夢の中の私はドラゴンで、飛ぶのが少し苦手で母はそんな私を呆れながらも見捨てることなく辛抱強く飛ぶ練習に付き合ってくれる。夢の中では家族も、友人もいた。
しかし目を覚ませば全てが消える。家族も、友人も全ては夢だったのだ。
そもそも私がここに存在するようになってからずっと1人だ。だから家族も友人も知らないはずなのだ。そういう存在があるということすら。他人から受ける愛さえも。何にも持っていない私を嘲笑うかのように夢は続く。目覚めた時に絶望するだけと分かっていても私にはその夢に縋ることしか出来ない。
もしかしたらあの夢が現実で、目が覚めている今が夢なのではないか。そんなことを考えたが、あちらが夢でも、こちらが夢でもどちらにしろ目が覚めているこのと孤独な時間が終わることはないのだ。