少女S②
久しぶりに長く書いたかも
小説を見ているような感覚。
ハッキングされたパソコンのようなこの感じ。
周りは見えている、音も聞こえている、感じている。だが、体の自由が聞かない。操作ができない。黒くなる。服が、きていた服が黑くなる。心の中にあった赤い炎が黒くなる。黒と黑で埋め尽くされる。白が、赤が、消えていく感覚。
「ようやく出て来れた。外は何年ぶりかな?」
私(彼女)はそう言いながら手首を軽くスナップさせ、周りを見る。
「……成る程、だいたいわかった」
絶対わかってないはず。私はそう思いながら周りを見渡す。周りにあるものは炎、焔、焱。炎の荒野、と言えばいいのだろうか。なにそれ誰の固有結界?Fate?なんて冗談が思いつきました。その荒野で天の鎖、ならぬ焔の鎖に縛られている。そのうち目を抉られた後、私(彼女)に殺される未来しか見えなかった。
別にこの場所が好きなわけではない。故にこの場所に何度も来たわけではない。体が覚えているわけでもない。説明書があったり不動産会社が説明するわけでもない。だが頭がそのことを知っている。私(彼女)が私の事をずっと見ていたからなのだろうか。それとも……。いや、考えるのはよそう。これ以上考えたら頭が燃えそうだ。そう思いながら外の様子を確認する。外では、私(彼女)と彼女が剣を交えていた。
鉄と鉄が当たり、カキン、カキンと小気味良い音が聞こえる。サクヤヒメは型破り、というべきなのか、(私が剣を使ったことがないというのもあるだろうが)剣の筋が全くと言っていいほど見えない。対して私(彼女)はその型破りな彼女に対して、全ての攻撃を受け流していた。彼女に攻撃をしてないのだろうか。彼女の剣には血が付いていなかった。私の体には傷が付いていない。それだけで満足だった。だが同時に彼女…サクヤヒメの体にも何故か傷が付いていない。もしかして……
「いい加減にして!」
私がそんなことことを思っているとサクヤヒメは声を荒げた。
「ちゃんと本気で向き合ってよ!」
さらに声を荒げる。
「貴女に勝つためだけに刀の練習をいっぱいした!貴女に殺すためだけに嫌いな人に頭を下げた!なのに……なのに!」
ああそうか。やはり私(彼女)は、手加減をしていたんだ。
恐らくはサクヤヒメを傷つけないように、という理由だろうか。
「貴女を……傷つけたくはないの」
私(彼女)は少し冷たげな声でそう言った。私(彼女)の表情は見えない。哀しげか悲しげか。いや、恐らく微笑を浮かべているのだろう。少なくとも、私だったら、そうする。
「ふざけないで!」
彼女はまた声を荒げる。
「そんな理由で私が納得すると思うの?貴女だって剣士なのでしょう?だったら本気で……」
「わかった」
私(彼女)はサクヤヒメをたしなめるように、めんどくさそうに、なだめるようにそう言った。
「本当は殺りたくないのだけれど」
彼女はそんな言葉を呟き、後ろに下がる。
「ッッ!!」
サクヤヒメは私(彼女)に斬りかかった。その時だった。さっきまでだったら受け流していたであろう刀を、彼女は受けとめ、弾いた。その弾かれた力に耐えきれず、サクヤヒメは後ろに下がる。その表情には笑みがあった。だがそこまでだった。彼女が私(彼女)に対し本気を出せと言った時点で、彼女はもう、終わっていた。
そのあとは一方的だった。私(彼女)がサクヤヒメに対し斬りかかる。サクヤヒメはその剣を受け止めようとする、が受けて止めようとして剣はそこにはなかった。後ろだった。
剣に、体に、血が、朱く、緋く、赫い血がつく。私(彼女)は今、いったいどんな表情をしているのだろうか。怖くて想像ができなかった。恐らくその、私が想像すらできない表情でサクヤヒメ斬りかかる。サクヤヒメが立ち上がろうとする。斬る。立ち上がろうとする。斬る。立ち上がろうとする。斬る。その連鎖だった。気づけば剣も体も、彼女の体も緋く染まっていた。
だが、その緋く染まったサクヤヒメの体は、燃えていた。不死鳥のごとく、蘇ろうとしていた。そして彼女は、サクヤヒメは起き上がる。まだ勝てる、と信じているのだろうか。だが私(彼女)は、私(私達)は彼女の心を砕こうとしていた。
彼女の信念を燃やすようなイメージ。彼女の希望を斬るようなイメージが気づけば頭の中にあった。そして、私達は剣道の〈突き〉のような動作をし、
『偽神器:◼️◼️・◼️◼️』
そう言った。その時、何を言ったか聞こえなかった。いや、聞き取れなかった。どこか遠くにあるような、別の世界というわけではないが、別の時代の言葉のように感じた。
話を戻す。
私達は剣を構えて、そう言った。剣から焔が溢れ出す。黒い焔が、泥のような焔がサクヤヒメに方に向かう。
その瞬間、人が急に現れた。いや、空間から出てきた、ともいうべきか。
「はい、ストーップ!」
そう言いながら彼?は焔を右手で消した。
「落ち着いて、落ち着いて。はい、クールダウン。あ、のど飴食べる?」
彼は私達をなだめるようにそう言った。饒舌な奴だ。私(彼女)は確かにそう言い、何処かへと消えていった。