少女S
ようやくだ。
ようやく準備は整った。
今度こそ、
今度こそ我が手で、
我が—を殺すのだ。
きーん、こーん、かーん、こーん
授業の終わりのチャイムとともに私は目を覚ました。
『ショーコ、どうしたの?』
「ん、ああ。何でもないよ」
『びっくりしたー!先生が話してる途中で急に寝ちゃうんだもん!』
またか、と私は思った。最近はずっとこうだ。授業中や彼女たちと話している時、ご飯を食べている時も急に眠気が襲ってくる。
その時、突然だった。風が荒れ狂い、雨が降り出したのは。
あの時と同じ。まただ。急な雨と風は私の生活を妨げる。
「ごめん、ちょっと頭痛いから保健室行ってくる」
勿論嘘だ。多分、彼女たちもこの嘘は分かっているかもしれない。でもこれは仕方ない嘘。大好き、とまではいかないが好きな彼女を守る為、私は学校を出た。
走る—————何も考えず、とは言わないがとにかく人のいない場所を目指し走る。後ろは見えない。だが悲鳴のようなものは聞こえる。人の悲鳴をあげる声。車が滑り、何かと衝突する音。建物が吹き飛ばされる音。風でスカートが捲れ、そのスカートを見ようと凝視する人。下着といえば、私のスカートもめくれ上がっていた。私の後ろにある雨と風のせいで人々がパニックに陥っている。だからとにかく走る。人のいない方へ走る。人に迷惑をかけないように、という理由もあるが何より私のために。今日、下着履いてないから。
何メートル、いや、何キロほど走ったであろうか。気がついたら周りに人はおらず、雑草が生い茂る緑地へ来てしまった。ここなら、ここなら安心して戦える。おそらく誰かに秘密も見られる心配もない。そう確信した私は初めて後ろを向いた。そうして見たものは人じゃなかった。私が見たもの、それは人ではない。それは人でもある。それは見慣れてしまった女の人だった。私の生活を壊し続けた人。私が一番殺したい人。
「コノハナ…サクヤヒメ…!」
「これが最後の忠告。神話対戦に参加しないで」
「神話対戦ってなんなの!?それよりこれ以上私の生活を荒らさないで!」
「しらばっくれないで。こっちにとって貴女が参加する、という情報を掴んだ以上貴女に参加させないようにしないといけないの。これ以上しらばっくれるんだったら…」
そういうと彼女は日本刀を抜き、焔を纏わせる。対して私は無防備。下半身もいろんな意味で無防備。対抗する手段もあるのだが、そんなことをしたら彼女が死んでしまうかもしれない。だけど身を守るには彼女を殺すしかない。そんなジレンマに陥いってしまう。心の中で助けてと叫ぶ。口を動かそうとするが唇が震え、動かない。逃げようとするが腰が抜けてしまい動けない。そんな中、心の中で声がした。あの時と同じ声。憎悪のようなもので磨かれたようなどす黒い長剣を持ち手は赤黒い炎に染まり、足に刺青を入れた私と同じ顔の女性が立っている。あの時と同じ。私の心の中。彼女は笑みを浮かべると私の首を切った。
もう少しだけ続きます