村長キッブスと息子
「親父、なぜあんなマジリ者を村に入れた?」
井戸の傍に立っていた村長のキッブスが、息子の言葉に眉をしかめた。額を斜めに横切るように黒子が三つ移動し、眉間の皺と合わせて梅干をつくる。顔は似ていないくせにこの親子、不快な表情だけはやたら似る。どちらも本人より、見ている人側が不快になるという意味で。
「仕方ないだろう。マジリ者と言っても勅書持ちではな」
「勅書持ち?あのマジリ者、都の勅使なのか!」
シュレクが目を剥いて驚く。
イクトールの政治中枢は都であるティクトールに集中している。そのティクトールからこんな山奥に勅書がくるとは。まして、呪われた者であるマジリ者が持ってくるとは。
「本物かよ?」
「間違いない」
「何でこんな村に?」
「調査で立ち寄ったそうだ」
「何の?」
「わからん」
キッブスは首を横にふる。
正直なところ気になる。しかしやぶ蛇も困る。あのマジリ者、自らを使者ではなく「調査に立ち寄った者」と言っていた。勅書は保険のようなものだ、とも。つまりこの村が目的、もしくは目的地ではない。
なら下手につつくよりは早めに去ってもらいたい。
勅書の真贋を除けば不審でもない。何せここは辺鄙な山奥。都の上位者が使者に立つ大事より、下位だが身体能力に優れた下層民が、雑用のため寄ったほうがあり得る話。
「とにかく、奴は放置だいいな?」
キッブスの言葉に、シュレクは舌打ちするのだった。