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その5

 


 冒険者ギルド2階の奥には、エルザさんが言っていたように2つの本棚があり、先ほどの売店とは違う小さなカウンターがあった。ここで図鑑を売っているんだろう。

 雑貨と共に売り子をしているらしいおばさんが私の様子を見て本棚の方に移動してくる。



「図鑑の閲覧に来たのかい? 閲覧は1回80メナ、購入だと1冊300リルだよ」


「えっと・・・本高くない?(当てずっぽう)」


「知識は財産だからね、それに紙は安くないんだ。閲覧しながらメモするのなら紙は5枚で10リルだよ、どうするね?」


「んー、とりあえず今日は閲覧で」


「じゃあ先払いで80メナいただくよ。奥の机と椅子を使うといい、時間制限はないからね」


「じゃあ、これ」



 おばさんに言われてベルトポーチ越しに【アイテムBOX】に入っていたコインを出してみる。


 おじいちゃんに『使い切れないくらいのお金』と設定してもらったおかげで、【倉庫(ストレージ)】にいっぱい入ってるコイン。

 全部『金貨』なんだけど、果たして金貨1枚は何リルなんだろう? もしくはメナなのかな?


 上目遣いでおばさんの反応を見ていると、私が出した【金貨】にびっくりして慌てて金貨を手に金庫?へ向かってる。

 しばらくするとおばさんは両手にコインを抱えて戻ってきた。



「え?」


「まさか金貨で支払うとは思わなかったから、ビックリしたよ。今度からできれば細かいコインで払ってくれると嬉しいね、はいお釣り」


「うわぁ?!!」



 ジャラジャラとコインを私に握らせたおばさんは、合わせて 文字の刻まれた木札 のようなものも渡す。それがお金を払ったレシート代わりになるらしく、帰る時に返すとの事。


 おばさんにお礼を言って適当に本を一冊手に取ると、コインをこぼさないように机に向かう。

 こっそりおばさんが平常業務に戻ったのを確認してから、椅子に座ってコインを数えてみた。


 小金貨が3枚、銀貨が24枚、小銀貨が3枚、銅貨が24枚、鉄貨が20枚。って言う事は鉄貨1枚が1メナ?



『アークスフィアで使用されております貨幣は、【紅金貨】【金貨】【小金貨】【銀貨】【小銀貨】【銅貨】【鉄貨】です。

 鉄貨100枚=銅貨1枚 銅貨25=小銀貨1 小銀貨4=銀貨1 銀貨25=小金貨1 小金貨4=金貨1 金貨100=紅金貨1 の換金率となっておりますね。

 鉄貨がメナ 銅貨以降がリル という単位になっており、マスターの世界の貨幣価値から換算しますと大凡ではありますが、1メナ=1円 1リル=100円としたほうが解りやすいかと思います』


『という事は、金貨1枚・・・100万円?!!』


『はい。詳しい相場は店舗の品を見比べて頂ければ、ご理解できるかと思います』


『100万円なんて持ち歩いたことないんだけど』


『では初体験でございますね』


『・・・そうね』



 シロの明るい返しに微妙な表情を浮かべつつコインをベルトポーチに仕舞うと、適当に取った本を開いてみる。

 本は植物図鑑だった。早速依頼にあった【ひだまり草】と【魔法草】を調べてみた。



「【タンポポ】じゃない」


『【ひだまり草】とマスターのいらっしゃった世界の【タンポポ】という植物は、たいへん良く似ています』


「こっちはまるで【赤紫蘇】なんだけど・・・」


『【魔法草】は【赤紫蘇】と似ていますね、凄い偶然です。もしくは【リンク遮断】した時に何らかの影響を受けたのかもしれませんね』



 他の植物も、どこかで見たことあるような植物の絵が、違う名前で載っている。混乱しそうだわ・・・。



『大丈夫です、マスター。私がすべて把握しておりますので、マスターにご紹介できます』


「ん、私も出来るだけ覚えるようにするけど、いざという時はよろしく!」


「かしこまりました」



 ついでに動物図鑑も借りてきて読んでみる(閲覧1回=一度外に出るまで)。討伐対象の魔物を見てみると、ほぼ名前の通りの動物のようだった。




【ファーラビット(毛玉兎)】

 なんて可愛らしい名前の兎、パッと見白いモコモコ毛玉の単なる兎に見えるが、その実態は鋭い犬歯と強力な脚を持つツリ目横長瞳孔の恐ろしい魔物。夢も希望もない・・・。因みにその肉は大変美味しく、一般的に流通しているとの事。


【ビッグホーンネット(大毒蜂)】

 その名前のままでソフトボール大の蜂。10匹単位の集団で襲ってくるらしく、巣には女王蜂を始め幼虫を含めて2000匹を擁する。襲われたら範囲魔法をぶっ放つか、攻撃を避けつつ各個撃破するか、ひたすら逃げるしかない。なかなかに大変な魔物だが、巣には蜂蜜やローヤルゼリーなど苦労するだけの報酬は得られるらしい。


【ブラックバード(漆黒鳥)】

 鶏とアヒルを足して二で割ったような容姿の黒い鳥で、空は飛べず羽ばたき跳躍はする。警戒心が強く攻撃性が強いので、縄張りに入るとひたすらに攻撃してくる。その鋭い嘴の攻撃には定評がある。羽は装備や装飾品に使われ、卵や肉は美味しく高級品として扱われるらしい。



 他にもアークスフィアの歴史とかの本もあったんだけど、今回は割愛。シロの執事具合が半端ないので、なにかあった時は教えてくれるだろう。



 おばさんにお礼を言って退出し冒険者ギルドを後にする。


 エルザさんの話からも、宿とかは慌てて取らなくても良いと判断した。

 PCはほとんど【次の街】に移動してるみたいだし、この【旅立ちの村】は過疎っているようなので、私的には周りを気にしなくても良いからちょっと安心。日本人っていうかゲーム知識のある人って、好奇心旺盛な気がしてちょっと苦手・・・。

 もちろんNPCは定住地があって、依頼がない限り移動しないし、普通に【旅立ちの村】で生活しているんだけどね。

 お金についても心配はしなくても良いから、精神的にも余裕は十分。


 とりあえず受けた依頼をこなすべく、そのまま南門から村の外に出た。




 門番にギルドカードを提示して外に出ると、正面には脛辺りぐらいに草が茂る【草原】があり、シロによると左手10km先には【森】が広がっているらしい。この辺りが初心者用の狩場&採取場になる。


 パッと見ていても討伐対象の野獣の姿は見当たらないので、採取をすることにする。

 立ったままで草を掻き分けていると、目的の【ひだまり草】発見! 早速採取にかかる。


 確か採取部位は全部だったから、根っこから引き抜いて・・・っと。


 葉と茎の部分を両手で掴み、ちょっと軽く引っ張ったつもりだった。ところが勢い余ってぶっちぎれた茎と葉を持ったまま、その場で尻餅をつく。



「痛ったー!」


 手に持った【ひだまり草】に、根はついていない。全部が採取対象だから、この場合採取失敗である。



「なかなか難しいね・・・」


『こちらをお貸ししましょうか?』


「?」


『【採取専用手袋】 でございます。こちらを嵌めて採取されますと、採取部位が損なわれることなく最高の状態で採取できます』


「・・・どこから持ってきたの?」


『もちろん【創造主】様から賜りました』



 何となくだけど、努力が虚しくなる感じがするのは気のせいかな・・・。



 いろいろ葛藤はあったものの、結局採取専用手袋を嵌めて採取を再開すると、採取対象をシロが見つけてくれるのもあって、あっという間に【ひだまり草】は【アイテムBOX】に蓄積されていく。


 その間には、うっかり【ファーラビット(毛玉兎)】にも遭遇する。

 緊張した私の気持ちをよそに、短剣のひと振りであっという間に決着がついてしまった。


 あまりのあっけなさに、野獣(動物)の命を奪った事への衝撃もない。

 まだ私は夢の中(・・・)にいる気分なんだろうか・・・。


『ショックを受けない事へのショック』に呆然としていたけれど、これが事実だからどうしようもない。

【解体用ナイフ】を【ファーラビット】に当て、そのまま【倉庫(ストレージ)】へ回収する。すると耳二つと毛皮一枚、ファーラビットの肉なるものが収納された。


 似たようなことを何度か繰り返し・・・、そうして私の冒険者初日は過ぎていった。







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