その3
シロに教えてもらった所によると、この家(島?)はとにかく『私の衣食住を快適にすることに特化』しているらしい。
シロと【脳内リンク】したおかげもあって、『こんなのがあるといいな~』的なものは即座に採用され形になり、とにかくもう、最高級リゾートホテルになっていた。
露天風呂はもちろん堪能した上、綺麗な青い海をパノラマで見ながらトロピカルドリンクを頂くなどというセレブな体験もした。この露天、岩風呂なのにジャグジーも内蔵とか、とにかく凄い!
リビングにあった60インチのテレビは映った。なぜかニュースとか情報番組(あとCM)はやってないんだけど、映画やドラマ、バラエティーなんかも映るので暇つぶしには困らない。
パソコンやスマホは無いけど調べ物なんかは直接シロが教えてくれるので全く困らないし、元々読書好きの私のためにわざわざ図書館まで増設してくれた。知ってる本から知らない本(?)まであったので、これで更にインドア率が増えつつある・・・。
家の外?である海やジャングルにももちろん入れて、魚と一緒に泳いだり貝を拾ったり砂のお城を作ってみたり・・・。
ジャングルを探検して、見た事ない鳥や小動物を発見したり不思議な形のトロピカルフルーツを食してみたり。
とにかくリゾート三昧出来る上に、私に対して危険なものが一切ない!
海にはサメもいなければ毒を持つクラゲなんかも浮いてないし、ジャングルには鳥や小動物はいるけど、狼とか蛇とか毒虫とかそういうものは全く見かけない。
本当に【私基準】になってる。
そのうちおじいちゃんがくれた能力で、何ができるのかと魔力を操作してみたりもした。
戦闘スキルや攻撃魔法もあるけど、ここには攻撃する対象もないし、下手にシロを傷つけるわけにもいかない(シロは大丈夫だって言ってたけど)。
でも、【創造魔法】って本当に凄いね・・・。
なんて言うか、『火を出したい』って思って魔力を使うと、本当に目の前に炎が現れる。それもいい感じのサイズで。
よくライトノベルである、『魔力の使い方に慣れてない主人公が、いきなり大きな火炎魔法を使ってビックリ!!』なんて展開にはならない。自分の中で普通に火のイメージがあるから。ぼんやりとしたイメージでも、『無意識の中でも、経験とか知識でのイメージ』があるから暴走しないみたい。
ハイスペックだなぁ、私・・・。
快適なんだけど、快適すぎて【ぬるま湯に浸かってる感】が充満し・・・2週間目にも入ると、飽きてきた。
「ん~・・・シロのお世話が悪いっていうわけじゃないのよ?」
『はい。マスターは単調な時間の過ごし方に慣れてしまったため、刺激を感じたいのでございますね?』
「うんうん、だからそろそろ【異世界】に降りようと思うの」
『かしこまりました、では【創造主】様から賜りました物も含めまして、準備させていただきます』
いつものようにシロと会話した私は、寛ぎ慣れたリビングのソファーから立ち上がる。
いくらチートだからとは言え、散歩に行くんじゃないんだから装備や武器は必要だよね?
しばらくするとシロが私に装備品を身につけてくれる。
ゆったりとした部屋着 から 柔らかい黄色のチュニック と ミニスカート(内側には、見えてもOKなホットパンツ付き) に変わり、同色系のニーハイブーツ も履く。胸と腰には 乳白色の皮鎧 がセットされ(でも全く重くない)、腰には同色の ベルトポーチ。耳には 小さくて細かい花の白いピアス が咲き、同じような 花の指輪 と ペンダント と ブレスレット も付く。背中には小さめの ワンショルダーのバッグ を背負い、その上から やや長めのフード付きマント。
『髪はどうなさいますか?』
「ポニーテールにしても長いよね? んー、編み込んでひっつめにしちゃって」
『かしこまりました』
見えない手?が私のサラサラ真っ直ぐな髪を器用に編んで、後頭部に巻きつけてくれる。どうやってるのかは分からないけどシロの事だからセンス良く仕上げてくれるはず。
「これでOKかな?」
『マスター、髪をアップされましたのでこちらをどうぞ』
ふんわりと 長めのマフラーのようなスカーフのような物 を私の首元に巻きつけてくれる。
姿見に写った私は、アバター姿?とは言え完璧だった。
スマホがあったら即効写メ撮ってブログにアップしてしまうくらいの『可憐な超絶美少女』が、口元をマフラーで隠しながら微笑んでいる。
妹だったら自慢しまくりなんだろうな、この娘。
『普通の装備に見えますが、身につけてらっしゃる全ての装備は【創造主】様仕様で【劣化・汚れ防止加工】の【被ダメージゼロ】、【属性攻撃無効】の神装備でございます。勿論マスター以外は【使用・譲渡不可】でございます。
半径1m以内は【気温湿度が快適に調節】され、マスターの許可がない限り全てのモノとの【接触は不可能】になっております。
武器はブレスレットを媒介にしてマスターの【倉庫】や【アイテムBOX】とリンクされていますのでお好きなように出し入れ可能で、アイテムも同様となっております。
指輪は【魔法の発動体】も兼ねておりますが、マスターの能力でしたら無くても変わりません。ペンダントやピアスに関しては、後日改めて『付属要素』が付けられることになると思われます』
「・・・本当に、凄いんだね。大丈夫かな・・・?」
『何モノも、マスターを傷つけることはできませんよ?』
「そうじゃなくって、・・・私が使いこなせるかな?って」
『最初は違和感があるかもしれませんが、戦闘に関しても魔法に関してもあっという間に身体に馴染みますのでご心配は無用です。
もしお疲れになられましたら、いつでも何処からでも、家へ戻っていらしてください』
「ん、ありがとう!」
腰に【短剣(+3 銀製 たまに雷撃)】と【解体用ナイフ(刃を触れさせるだけで、必要アイテムが【倉庫】に収納される レア級装備)】、お尻辺りに【ショートソード(+5 鋼鉄製 クリティカル率30%)】を一応身につけておく。
全部【至高品】じゃないのは、【装備】だけじゃなくて【武器】まで凄いと、いきなり【勇者認定】されそうで怖いから。
この【武器】も【結構良い品】だとは思うけどね(持ってる武器・装備は全部【使用・譲渡不可】だけど・・・)。
もう一度全身を見直してから、家を出て砂浜の一角に設置されている円柱状にピンクの光を放っている魔法陣の前に立つ。
ここから行きたい異世界のエリアへ行くことができるらしい。
『改めて申しますが、【異世界アークスフィア】は剣と魔法の世界で、魔物も野獣も亜人・冒険者や貴族王族も存在します。
マスターの世界の【MMOアークスフィア】と【リンク】されてしまったとの事ですので、元プレイヤーの異界人も存在します。
異界人が閉じ込められてから1年を過ぎていますので、多少は混乱から落ち着いているかと思いますが、どのような異界人がいるとも限りませんので十分ご注意ください。
家との【コンタクト】は、いつでも可能ですのでご利用いただけますし、こちらからもマスターが快適に過ごせますようにフォローさせていただきます。
その他分からないことがございましたら、その都度【コンタクト】なさってください』
「了解!」
深呼吸一つ、私は思い切って魔法陣の中に足を踏み出した。
ブオン。
耳元で機械音がして、視界が一気に変わる。
見たことがない、でもどこかで見たことのあるような村の風景だった。
文化的には中世のヨーロッパ風だけど、MMOとリンクしたって言ってたから多分ゲーム要素も含むんだろうと思う。
忙しそうに仕事に出かける男性や、それを見送る女性の姿も見えた。
お昼近くにシロの家を出たはずだと思ったんだけど、どうやら今は朝らしい。陽の光も低く澄んでいて、小鳥の鳴き声が聞こえる。
「シロ、ここは何処なの?」
『【アークスフィア】の出発地、【旅立ちの村】です』
「・・・そういう名前なの?」
『はい』
「本当にゲームみたいなのね・・・」
『私もそう思います。
【旅立ちの村】であり戦闘や生活に対するチュートリアル的な場所でもあるため、施設は最小限にしか存在しません。
装備やアイテムも最低ランクの物ばかりですね。ですがPCは、最低でもここで半年は過ごしているはずです』
「半年も?!」
『はい。【創造主】様のPC達に対する【リビルド】で、PCが受け取る取得戦闘経験値はMMOでいう難易度EXです。PCが簡単に強くなってしまっては困りますから』
「でも、【クエスト】とかあるんでしょ?」
『冒険者ギルドでの【依頼】はあるかもしれませんが、NPCを通しての【依頼】は存在しません。
悩み相談をされたとして、それを解決しても、それに対してNPCからの好感度は多少は上がるでしょうが、だからと言って【スキル】や【武器】【装備】【アイテム】が貰えるわけでもありません。
しかも【MMO】では無くなったこの【異世界】で、PCは『異質』。
元々【戦闘スキル】以外はスキルを修得できないので、自分以外の他人の【ステータス】を【鑑定】することはおろか、採取対象の薬草を判別するのも、自分の【記憶】と【知識】を頼りにするほかありません。
そういう訳で、この【異世界】でPCが、戦闘以外の【依頼】で経験値を積んでレベルアップするという事はありえないのです』
「PC、よく死なないで頑張ってられるよね・・・」
『【リンク封鎖】された一年前と比べますと、存在するPCの数は三分の一になってますよ?』
「?!!!」
『死んでも【復活】はしませんので、そのまま魂は輪廻転生の輪の中に組み込まれました。
マスターも存在は同じですので、万が一とは思いますがくれぐれも命を落とされませんよう、お気を付けくださいね?』
「う、うん・・・」
サラっと言うシロに、ちょっと引き気味になる。
でも、【妖精】って案外こういうものなのかもしれない。
命に対する考え方の違いとか、他人に対する想いの強弱とか。
自分の物差しで他人を評価しちゃダメだよね。他の人に対する態度はともかく、私に対しては物凄く大事に大切に扱ってくれてる。
いつでもどんな時でも対応してくれて、果たして休めているのか不思議に思ってた。
シロに聞いたら【創造主】のお陰で休憩とかは全く気にしなくてもいいらしい。
シロもそうだけど、おじいちゃんもどうしてここまで私に良くしてくれるんだろう? 何がそんなに気に入ってくれたんだろうか?
『まず冒険者ギルドに登録して、【依頼】を引き受けるのがよろしいかと思います。【依頼】をこなしながら戦闘や採取に慣れることが一番でしょう』
「じゃあその冒険者ギルドを探さなきゃね」
『この村の中心に、ギルドや店は集中しております』
「了解!」
歩き始めてしばらく、なんだか視線を感じる。
そっちを見てみると、視線が合うのは女性だったり男性だったり様々なんだけど、ハッとされた後慌てて視線を逸らされるので、何げに傷ついたり・・・。
「私、変な格好してる?」
『いいえ。マスターの美しさに皆が【魅了】されているだけでございます』
「・・・シロ、そんな自意識過剰なセリフを堂々と言われても、私は何も言えないよ。元々謙譲が美徳の日本人だから・・・」
『しかしそれが真実でございますよ?』
「あ、ありがとうね」
自分がお願いして設定して貰ったんだけど・・・、自分の美形に慣れないって、なんだか嫌だ・・・。
更に冒険者ギルドに向かっていると、不意に横から小さな3歳ぐらいの女の子がトコトコとやってきて私を見上げた。
一緒にいた姉らしい10歳ぐらいの女の子に止められそうになるが、構わずやってきたらしい。
「おねーちゃんは、【女神】しゃま?」
「え?!!」
「【女神】しゃま じゃないの? すごく綺麗! キラキラしゅてるね」
可愛らしい女の子の方が、見上げた目をキラキラさせて私を見つめている。まるで憧れのドラ○もんにでも会ったかのように嬉しそうな表情。
こんな子どもが嘘をつくはずがない。本当のことを言っていると解って、途端に頬に血が上った。
誤魔化すように女の子の前にしゃがみこむ。
「あ、あのね? 残念だけどおねえちゃんは【女神】様じゃないの、ごめんね」
「しょっかぁ。でもね? おねーちゃん凄く綺麗よ! 【女神】しゃま みたいね」
「ありがとう」
頬が緩んでいるのが判る。こんなに素直に言われちゃうと、受け止めざるを得ないね。
照れくさいけど嬉しくて、何かお礼がしたくて、ゴソゴソとポケットを探ろうとして思い出す。
「シロ、桃味のドロップ出して」
『かしこまりました』
ベルトポーチから取り出したかのようにドロップの入った袋を取り出す。
ここに来る前、暇つぶしに【創造魔法】をこねくり回していて、その時に私が創った桃味(私が好きだから)ドロップ。
袋の中から一つ取り出し、女の子の目の前に差し出した。
「『あーん』して?」
「?? あーん」
女の子の口の中にポンとドロップを入れると、口を閉じた女の子がびっくりして、その後嬉しそうに頬を緩めた。
「それドロップって言う飴よ。噛まずに舐めてね」
「あめ? これ、甘くて美味しいね」
姉らしき女の子が、それを見て慌てて小さな女の子を引き寄せた。
「急にごめんなさい、ティルが失礼なこと・・・」
「ううん、嬉しかったから私の方がありがとうなのよ。ティルちゃんのお姉さん?」
「は、はい。ユナって言います」
「ユナちゃんとティルちゃんね。じゃあユナちゃんも、あーん」
「あ、あーん?」
戸惑っているユナちゃんの口の中にもドロップを入れてあげると、ティルちゃんを顔を見合わせ、そして二人してにっこり笑っていた。
いいなぁ、この姉妹。
「気に入った? じゃあこのドロップは二人にあげる」
私は同じ数だけドロップを入れた袋を二つ取り出すと、それぞれに押し付けて立ち上がる。
ユナちゃんがビックリしていたが、ティルちゃんは本当に嬉しそうだった。
「おねーちゃ~ん、ありがと~!」
「私こそ、ありがとうね」
私は上機嫌のまま手を振りつつ、スキップでもするかのように冒険者ギルドに向かった。
『可愛らしい姉妹でしたね』
「あんな妹なら欲しいな」
【異世界】で初めてNPCから向けられた感情が、あんな可愛らしい子からの好意だなんて嬉しすぎる。
いつまでも私の表情はニマニマしていて、傍から見たら変な人に見えたかもしれない(実際は、ニコニコしている超絶美少女に目を奪われる人多し!だった)。