その2
結局、お母さんは起こしてはくれなかった。
って言うか、ここは既に私の部屋でも無いんだけどね・・・。
普通に目覚めたら、視界には見慣れない布団と薄絹の天蓋が入ってきて・・・。
私は、現実とは違う場所に連れて来られた事を思い知った。
早速【創造主コール】する!
「ちょっとおじいちゃん、どう言う事よ?! 夢じゃないじゃない!!」
「わしは夢ではないと嬢ちゃんに言ったが、お主が取り合わなかったんじゃろうが・・・」
「どこの世界に、異世界に連れて来られて『解ったわ、今日から頑張る~♪』なんて、直ぐに切り替える人間がいるっていうのよ! 」
「『嬢ちゃんの世界の小説』とやらでは・・・」
「小説だからだよ! 現実じゃないから適当に流せるのよ!!
私は小説に出てくる勇者や特別な人間じゃないんだからね?!
全くおじいちゃんも何考えてるのよ・・・ウワーン!!」
「何も・・・泣かんでも良いじゃろう? 嬢ちゃんのリクエスト通りに設定したというのに」
「設定って、グスン、あの適当な夢の話の事?」
「夢ではないぞ? 【創造主】であるこのわしが嬢ちゃんのリクエストに基づき、嬢ちゃんの理想をより叶えるべく『脳内リンク』までして設定した、嬢ちゃんに最適の設定であると自負しておる!」
「『脳内リンク』って何よ?」
「それはじゃな? 『嬢ちゃんの好みを判断して自動で最適化』するシステムじゃ!」
「・・・おじいちゃんが私の心を覗いた訳じゃないのね?」
「当たり前じゃ! そんな事をすれば嬢ちゃんは烈火の如く怒るじゃろうが・・・」
「良く解ってるじゃない」
「最初の会話で嬢ちゃんの性格は大体把握しておるよ・・・」
「じゃ、今私が使える能力や環境は、私にとって最適って事なのね?」
「まぁ初めから変更不可な部分もあるが、それ以外は嬢ちゃんの好みになっておるはずじゃよ」
「確認してもいい?」
「かまわんよ」
私は一旦【コール】を停止すると、ベッドから抜け出した。
あれ? 窓から外を見ると視界が高い? え? 二階になってる?
眼下に砂浜と海を見つけて目を瞬かせながらも、反対側の扉を開けてみた。
トイレとお風呂だった。
しかもトイレはウォシュレット付き、お風呂は窓からの景色も素敵なジャグジーとシャワールームまである!
扉を閉めて次の扉を開けてみると、そこはウォークインクローゼット。
ちょっとしたワンルームぐらいの広さのそこは、服はもちろん下着から靴や帽子と言った小物まであった。しかも私好みの物ばかり!
次の扉を開けると、階段に続く廊下だった。
廊下からベランダへの扉が無い所を見ると、ベッドルームからしか行けないらしい。
階段を下りると、何故かもう一つトイレ、そして広めの露天風呂が海に面して作られてあった。何このリゾートホテル?!
他には、シャワールーム・リネン室・対面式のキッチン・ダイニング。
そしてフカフカのソファと絨毯が設置された、暖炉付きのリビング! 暖炉の前にはロッキングチェアー!!
凄いよ、おじいちゃん! 私の理想が今ここに!
「凄いね! 本当に私の理想の家になってるよ!」
「じゃろう? しかも増改築可能のオプション付きじゃ!」
「なんということでしょう!? (ビ○ア・ア○ター風)」
「この島自体が嬢ちゃんの家という認識で増改築可能じゃから、好きにすると良い」
「やっぱり孤島だったのね・・・」
「言っておくが、この島が亜空間の存在なだけで、【異世界】はちゃんとあるからな?」
「どうやって行くわけ?」
「専用の転移門がある。それで【異世界】に行けるんじゃ」
「【アークスフィア】? それが【異世界】の名前なのね?」
「おぉ、まだ言っておらなんだか。
ここはアークスフィアと言って、人族としては人間と亜種人と魔人で構成されとる、らしい。ほとんどが人間で世界の三分の二を占めとるん・・・じゃったかな? まあ普通に魔物や野獣も存在するがな」
「随分曖昧なのね?」
「人族の構成がどうとかいう情報は、わしにとっては瑣末な事じゃからな。それよりも嬢ちゃんは己を知らんでも良いのか?」
「己? えっと・・・どうするの?」
「嬢ちゃんの持つスキルに【鑑定】がある。それを使うんじゃよ」
「どうやって? スキルって取り出せるの?」
「そうか・・・ふむ、イメージするんじゃ。頭の中でスキルの一覧を広げて、その中から【鑑定】を選ぶような感覚じゃな。物は試しじゃ、やってみるといい」
おじいちゃんに言われてイメージしてみると、いつもの空想と違ってなんだか手応え?がある。そのまま【鑑定】を選択してみると・・・。
「うわぁ?! なんか【ステータス】の文字がいっぱい出たよ!!」
「それが嬢ちゃんを【鑑定】した結果じゃな。どうじゃ、なかなかハイスペックじゃろ?」
名前: (お好きな名前を入れてください)
年齢: 15
種族:ハイ・ヒューマン
性別:女
level 2000(+500)
筋力:SS+
生命:SS+
知力:SSS+
器用:SSS+
敏捷:SSS+
魔力:SSSS+
魅力:SSSS+
幸運:SS+
HP:999999999/999999999
MP:9999999999999999999・・・/9999999999999999999・・・
PP:0/0
修得スキル:【full complete!】
種族スキル:【不老長寿(寿命不詳)】
加護スキル:【創造魔法】【コール】【異種族語 理解適応】
称号:加護【創造主の娘(創造主 親バカ風味)】
「自分で言ったんだけど・・・、改めて見ると本当にハイスペックだね・・・」
「わしもここまでハイスペックな能力を授けたのは初めてじゃ! まさに『魔王もワンパンで倒せる』ぞ?」
「女の子の幸せは、もう捨てちゃってるよね・・・」
「嬢ちゃんに敵う者など、創造主ぐらいしかおらんからな。どうじゃ? ここまでの設定で文句はなかろう? あると言われても、今更能力の修正はできんがな」
「え?! もう普通の女の子には戻れないの?!」
「当然じゃろう、嬢ちゃんはこの異世界唯一の【ハイ・ヒューマン】として生まれ変わったんじゃ。
【リセット】は出来んし、自殺などしようものなら転生すら叶わんぞ?」
「・・・・・・」
「少しは『現実』が見えてきたか?」
「・・・まだよく解んないけど、逃げられないっていうのは、なんとなく、感じてる。
でもその中でおじいちゃんは、出来るだけ私の意見を取り入れて、私が馴染みやすいように(?)してくれたんだよね?
なら、私もその厚意を無にするわけにはいかないもん。出来るだけ早く慣れるように、頑張るよ。自信はないけどね・・・」
「よしよし、いい子じゃな嬢ちゃんは」
「むぅ・・・」
「さて、それでは嬢ちゃんに【Present for you】!」
私の頭を撫でて?くれたおじいちゃんがそう言うと、いきなり家全体が光って揺れた。
「地震っ?!」って思ったけど、揺れはすぐ止って、それ以上は何もない。
首を傾げていると、その声は家全体から私の心の中?に響いた。
『初めましてマスター。これからどうぞ末永く宜しくお願いします』
「・・・え? え??」
「じゃあな、異世界生活をエンジョイするんじゃよ~!」
「ちょっとおじいちゃん?! この声何?!」
プツンと【コール】が消える。おじいちゃんからの応答はそれ以上はなかったので、声の主に直接聞くしかない。
「えと、あなたは一体誰?」
『私はこの家(島?)の【家付き妖精】です。【創造主】様より遣わされました。誠心誠意を持ってマスターに仕えさせて頂きますので、宜しくお願いします』
「【妖精】?」
『はい。とは言いましても、姿形は存在しませんので誠に申し訳ないのですが・・・』
「じゃあ、羽つきでフワフワ飛んだりしてるわけではないのね?」
『はい。もともと【家付き妖精】は長く大切に扱われた家に自然に住まう【妖精】で、家主のために色々とお手伝いをするような存在とされております』
「昔絵本で読んだ『小人の靴屋さん』みたいなものかな?」
『若干相違はありますが、マスターが考えてらっしゃるものはおそらく合致しているものと推測いたします』
「そっか・・・。いちいち【創造主にコール】するのも気が引けるし、話し相手がいるのは嬉しいかも。名前はなんていうの?」
『まだございません。よろしければマスターに付けていただけると嬉しいのですが』
「私?? ネーミングセンスないんだけど・・・そうだな・・・【家付き妖精】なんだよね? ・・・『シロ』なんてどう? 最初に外に出た時に見えた建物白かったし、単純だけどそのものでしょ?」
『これは素敵な名前を頂戴いたしました。『本質を表すもの名』は『名づけられたものを祝福し更に能力を強化する』と申します。ありがとうございます、マスター』
「なんだかよく分からないけど、喜んでもらえたのなら良かったわ。じゃあシロ、これから宜しくね」
『こちらこそ、よろしくお願いいたします』
「で、シロは何ができるの?」
『私はマスターのために存在し、マスターのお世話や補助が仕事です。ですのでこの家(島)の施設管理はもちろんの事、マスターの身の回りのお世話から衣食住の設定管理まで、あらゆる事ができるようになっております』
「じゃあシロが私の【執事兼家政婦】みたいな存在って事?」
『端的に言えば、そうですね』
「でも、姿形がないっていうのに、どうやってお世話してくれるの?」
『そうですね・・・マスター、軽食などご用意いたしましょうか?』
「ご飯作れるの?! 凄いよ、シロ!!」
『では、少しお待ち頂けますか?』
「うんうん」
さっき探索していた都合上リビングにいたので、フカフカソファーに腰を落ち着けながらしばし待つ。
ダイニングで食べないとお行儀悪いかな? でもいいよね? っていうかここ異世界なのに60インチの大画面テレビが鎮座してるんだけど何で? 異世界でテレビ放送なんてされてるの? 電波受信できるんだろうか??
『お待たせいたしました、クラブハウスサンドイッチとストレートのアイスダージリンティーでございます』
しばらくしてシロの声がしたと思ったら、目の前のミニテーブルにいきなりサンドイッチとアイスティーが出現した。
カフェで出てくるような、ターキーや野菜がいっぱい挟んであって食べごたえがありそうなクラブハウスサンドと、細長いセンスのいいグラスに注がれたアイスティーにカランと涼しけな氷の音が響く。
「なるほど・・・こうやってお世話してくれるのね。もしかして着替えとか、『髪型直して?』とか頼んだ場合は、【念動力】みたいになるの?」
『はい。魔法やスキルで一瞬の内に・・・というわけには参りませんので、多少お時間を頂くことになりますし、傍から見れば見えないものにされているような様になりますが、そのようにお世話させて頂きます』
「そっか。シロにお世話されてたら何もできない子になりそうだけど・・・、でも嬉しいわ。ありがとう、いただきます」
『どうぞ、ごゆっくりとお召し上がりになってください』
シロの手作りのクラブハウスサンドイッチとアイスダージリンティーはめちゃめちゃ美味しかったので、あっという間に食べてしまった。
そういえばおじいちゃんに設定お願いした時に【いくら食べても太らない身体】お願いしたから、好きなもの食べ放題なんだよね。これって女子的にはめちゃめちゃお得だわ~。
「ごちそうさまでした!」
『お粗末さまでございました。ところでマスター、不躾ながらお願いがひとつあるのですが、よろしいでしょうか?』
「ん? なあに?」
『もしよろしければ、マスターと私を【脳内リンク】させて頂きたいのです』
「おじいちゃんが家を作った時みたいなことをするってこと?」
『はい。私の場合はよりマスターが快適にお過ごし頂くために、マスターの好みや体調をあらかじめ把握することで、効率よくお使えできるのではないかと』
「そっか、食べ物や服の好みとか知ってていいタイミングで出てきたりしたら、凄く嬉しいもんね」
『はい。加えてマスターは【異世界の方】、『私の知らぬ衣食住の好みや知識』などをお持ちのはず。それらを網羅すればマスターに完璧にお使えできることをお約束できるかと』
「なるほど~、シロはできる執事なのね。いいよ、デリケートな部分に触らなければ、それ以外はシロに【リンク】してもらったほうが私も助かると思うし」
『ありがとうございます、マスター。では早速失礼いたします』
了承して目を閉じた私を何かが包み込む感覚、それはあっという間に私の身体の中に染み込んで私の一部になった。
『ありがとうございます。これで私は、いつでも何処でもマスターの御要望を把握する事が可能になりました』
「いつでも何処でも? 【異世界】に降りても?」
『はい。私の本体はこの家(島)ですが、元々【異世界】もこの家(島)も【創造主】様がお作りになられたものであり、私の存】も【創造主】様がお創りになられたもの。それぞれ別の場所にありますが、存在は同じものでございます』
「じゃあシロも【創造主】みたいに、【異世界】作り替えたりできるの?」
『いいえ。私が出来るのはマスターをお世話し、補助する事のみでございます。マスターに異世界の情報を提供することはできますが、異世界に直接影響を与える事は不可能です』
「おじいちゃんといい、シロといい、私にしか色々出来ないのね? まるで私が異世界との媒体みたい」
『マスターのおっしゃる通りかもしれませんね』
「んー・・・、いろいろ難しい事を考えるのは後にしよう。とにかくこの家(島)の事を教えて? あと【ここで出来る事】も!」
『かしこまりました、マスター』