その1
勝手な思いつきなので、消すかもしれません。
目の前には海。
よく旅行会社のパンフレットに載ってる南国の楽園みたいな光景、真っ白な砂浜と遠浅の青い海が水平線まで見えた。
えっと、・・・何で?
頬をつねったり叩いたりしてみるが、痛い。夢なら覚める程に痛い。
今立っている砂浜の左右を見ると、50メートルほど先で砂浜が切れて海になっていた。
後ろを見れば、たった今私が出てきた(プレハブ物置サイズの真っ白な立方体)建物の向こう側に、ジャングルのような緑が茂っている。
瞬きをして暫くこの光景を見詰めていたのだが、何か変わるかもしれないという微かな期待も虚しくなって来たので、砂浜を歩いてみた。
全長100メートル程なのでそれ程時間をかけること無く端に到達する。周囲は10kmぐらいだろうか?
(推定)ジャングルと砂浜と海の境目辺りから覗き込むと、ジャングルの向こう側もやはり100メートルほど先で切れて海になっている。反対側も見てみたが、同じ様な光景らしい。
つまり私が今いる場所は、学校(校庭を含めた)サイズの孤島にいるという事が判明したわけだ。
・・・何で?!
どうして私はこんなリゾートアイランドに1人でいるの?! いつ連れて来られた訳?
って言うか、何で私?! 旅行会社の抽選なんか当たった覚えはないし、そんなお金もないし、第一まだ後期の途中だから授業あるんだよっ!? せっかくの皆勤賞がっ!?
パニックになりながら来た道を戻って白い物置サイズの建物に入ると、バタンとドアを閉めて建物内唯一の家具であるベッドに座った。
窓のないこの建物、何故か天蓋付きのお姫様仕様キングサイズのベッドが部屋の6割を占め、それ以外には何もない。座って照明も無いのに妙に明るい宙を見詰めて暫し。
どう見たって、孤島だし無人島っぽいし、ベッドと建物あるから住居はとりあえず良いけど、それだけじゃお腹空くし、変な獣居たら間違いなく死ねるし・・・どうしろと?!
パニックと無理ゲーの無限ループにハマった私は、ベッドに上がって潜り込んで寝る事にした。現実逃避とも言う・・・。
布団を頭から被って目を閉じ、ブツブツと何かに向かって愚痴る。
「誰が連れてきたのか知らないけど、私にどうしろって言うのよ! せめて衣食住ぐらいは完備しなさいっての!! 食べられなきゃ3日も持たないわよ!!」
ゴトッ!
何かが落ちる、というか置かれるような音がした。
「??」
首を傾げながらもっそり布団から頭を出して音のした方向を見ると、先程出入りしたドアの横に、どう見ても冷蔵庫・・・。
さっきまでは無かった・・・と思いつつベッドから降りて冷蔵庫を開けてみる。
中にはスーパーから買ってきたばかりというような、発泡トレー入りのお肉だったり、紙パックの飲料だったり野菜室にはジャガイモや玉葱などのお野菜だったり。冷凍庫を開けると・・・空。冷凍食品の類は入っていなかった。・・・。
「材料だけあったってどうしろって言うの!! 調理しなきゃ食べられないじゃない、私にアウトドア料理をしろと言うの?? 第一調理器具がないのに切ることも出来ないじゃないのよ!
まあ、あった所で私はお湯を沸かすぐらいしか出来ないし、100歩譲って『りんごの皮むき』だし・・・。
だってしょうがないじゃない!! お母さんが作ってくれてたんだもん、必要に迫られなきゃ普段から高校生が料理なんかしないでしょ? レンチンできるレトルトや冷凍食品やカップ麺、コンビニがあれば大概の一人暮らしは生きていけるよね・・・」
ベッドにリターンして再び愚痴る。
ゴトッ! ガタッ、ガタガタッ!
また音がした。
恐る恐る布団から顔を覗かせると、冷蔵庫の横にキッチンがいつの間にか設置されていてギョッとする。
オーブンやコンロなどは業務用の本格的なものが設置され、電子レンジや炊飯器といった電化製品から、食器棚にはお皿やグラスも並んでいる。シンクにはちゃんと蛇口がある。試してみたらお水が出て、舐めてみたら普通に水。
どこから来たんだろう、この水・・・。冷蔵庫や電子レンジだって、電気はどこから来てるの? 孤島に見えて、実はライフライン完備のリゾートホテルなわけ?
いや、じゃあいきなり現れた理由が解んないし、どうやって一瞬で設置出来たのかも解んない。
「やっぱり夢なのかな? ・・・うん、いいや、夢ってことにしよう!!」
考えることが面倒くさくなって開き直った私は、再びベッドに戻った。
眠って目が覚めたら、きっと普通に家のベッドの中なんだよ。で、お母さんに起こされて学校に行くんだよ、うんうん。
「でも~、もし異世界トリップなら、私もチートだったりするのかな~?
そうなら身体能力もズバ抜けてて凄かったりしてね、フフフ~♪
よく見るライトノベルみたいに全てのスキルが使えて、魔力も無限大で、魔王なんかワンパンで倒せちゃったり~♪
あ、面倒だからレベルは私だけその世界でカンストオーバーしてて~、お金も使い切れないくらい持ってなきゃね♪
アイテムBOXは標準装備! 収納数・重量は無制限で中は時間停止で劣化しなくて~、中には世界のありとあらゆるアイテムから、武器装備や装飾品もネタ装備から至高品質レベルまで入ってるのよ!
もちろん魔法の天才で全ての魔法が使えて、召喚魔法で精霊王や聖獣とか喚んでモフモフするんだ~。
あ! いっそ創造魔法とかで私の思い通りに魔法作れちゃうのがいいかもね!」
想像するならただである。現実逃避ついでに、勝手な想像をしまくる。
布団の中でクフクフ笑いながら、私は『もし自分が異世界トリップしてチートだったら』・・・を設定する。
「そしてなにより、これが大事! 誰もが振り向いちゃうくらい超絶美人なのよ!
可愛らしいのもありだけど、そうだな・・・年齢や身長は今のままで、髪は白金髪でまっすぐつやつやサラサラ、んでお尻の下辺りまで伸びてて~、瞳は綺麗な紺碧色。
顔の配置は均等がいいのよね、それが美人の条件だって何かで読んだし。でも眼は少しだけ大きい方がいいのかな? 幼くなっちゃう?
肌は肌理が細かくて抜けるように白くって、手足も長くって出るとこ出てて引っ込むところは引っ込んで、っていうスタイル抜群にして~。
いっぱい食べても太らないモデル体型希望で!!
そうだ! いっそのこと新しい種族になっちゃうってどうかな?
・・・ん~、【ハイ・ヒューマン】とか?
一見ハイ・エルフっぽいけど、ハイ・エルフよりも魔法に長けてて不老長寿なんだ~。
それから~、か弱く運動神経なさそうに見えてメチャメチャ凄くって、ごっつい戦士とかも体力勝負で負かしちゃったり、フフフ♪」
この空想で、本来の私は推して知るべし。空想の中ぐらい好きにしたっていいでしょ?
勝手な想像をしていたら気分が良くなり、・・・そうして私は、いつの間にか眠ってしまっていた。
「嬢ちゃんの要求は、なかなかハイスペックじゃの」
「空想の中ぐらい、好き勝手したっていいじゃない。それに勝手に異世界に連れてかれてるんだよ? 自分の身を守って、今の水準くらい快適に過ごせる環境や能力要求するのは、当然の権利だと思うの!」
「【全てのスキル・魔法習得】や【魔王もワンパンで倒せる身体能力】や【モデル体型の超絶美人】というのは、今の水準かの・・・?」
「・・・何か言った?」
「いいや、何も言っとらんよ・・・。にしてもじゃ、そんなにハイスペックな【ハイ・ヒューマン】とやらになって、一体どうするつもりじゃ? 世界でも征服するつもりか?」
「そんなことする訳ないじゃない、面倒くさい」
「面倒・・・」
「異世界なんて科学が発展してなくて、文化も低くって、魔物や野獣に怯えて、冒険者が普通にいるんでしょ?
王政なんかが敷かれてて、貴族が威張って平民が虐げられてるんでしょ?
そんな世界、能力高くして自衛しなきゃ自由に生きられないじゃないの。
私は常識や礼儀は出来るだけ守るけど、誰かに理不尽に押さえつけられるのは大っ嫌いなのよ!」
「さようか・・・」
「まあ・・・、ちょ~っと盛りすぎちゃった感はあるけど、本当に勇者無双なるわけじゃないんだもん。
こうなったらいいな~っていう夢は、欲張るべきよ! そう思わない?」
「そうじゃな、理想は高いほうが良い。普通は理想を実現するには苦労をして得るものじゃが、まぁお前さんはなかなか面白そうじゃ。特別に設定しようではないか」
「? そう言えばおじいちゃん誰なの?」
「わしか? わしは嬢ちゃんの世界でいう所の、【異世界の創造主】と呼ばれる者じゃ」
「【創造主】? だから私の空想を手伝ってくれるの?」
「そうじゃな。他には何か望みはないのか? なんなら【異世界の神】にしてやろうか?」
「それも面倒くさいから、いらない」
「つれないのう・・・いいアイデアかと思ったのじゃが」
「神になったって何が楽しいのよ。信者に勝手なお願いされて、叶えなかったら文句言われて終わりじゃない? そんなのつまらないよ」
「そうか・・・ならばこういうのはどうじゃ? 【加護:創造主の娘】」
「なにそれ? っていうか、何でおじいちゃんの孫じゃなくて娘なの?」
「わしの見かけは、自在に変えられるぞ? 年齢など、わしにはあって無いようなものじゃからな」
「おお!! おじいちゃんが、ナイスミドルなイケメンに!!」
「ふぉふぉふぉ、なかなかのもんじゃろ?」
「話し方は前のまんまよね・・・」
「・・・そ、それはともかく。これでわしの娘でも良いじゃろ?」
「別にどっちでもいいけど。その【創造主の娘】になると、何か良い事があるの?」
「まず、【何か困った事があったら、わしにコールする】事ができる」
「・・・話して解決出来る事と出来ない事がありそうな気もするけど、まぁいいわ。それから?」
「【新たに何か欲しくなった時、わしが創造して与える】事ができる。但し、『嬢ちゃん限定』じゃがな」
「んー・・・例えば、私が異世界の住人と知り合いになって、『この人にスキルをあげて』って言っても、それは無理ってわけね?」
「そういうことじゃ」
「装備とか武器もあげられないの?」
「『創造主が創造した物』は無理じゃな。『嬢ちゃん』だからこそ創造主からの物を、理性的に使いこなせると見て与えるんじゃ。この異世界の住人には荷が重いんじゃよ、下手をしたら異世界の均衡を崩壊させかねんからなぁ」
「創造主も、なかなか大変なのね」
「じゃろ? だから代わりと言ってはなんだが、わしのフォローをしてくれんかの?」
「フォロー?」
「わしも全てに目が届くわけではない。
しかも困った事に、最近何かが干渉してきおってな、『創造主の世界』と『嬢ちゃんの世界のMMO』とやらをリンクして、PCと呼ばれる異界人を【創造主の世界】に閉じ込めおった。
この異界人が厄介でな・・・。創造主の世界の人間よりも基本能力が高い。仕方がないから、【創造主の権限】で半強制的に異界人の能力をほぼ封じたんじゃ。
それでじゃ、異世界で生活していく上で『嬢ちゃんが見聞きした事』『遭遇した事』の中で嬢ちゃんが看過できないと思った時、嬢ちゃんの判断で解決をして欲しい。解決できるだけの能力は、もちろん嬢ちゃんに与えるつもりじゃ」
「私が判断に困った時は?」
「【創造主にコール】してくれて良い。全部投げられても困るが、わしも力になろう」
「・・・物語としては、ありきたりなのかな? んー、でもまぁいいわ、どうせ夢なんだし協力してあげる」
「夢じゃないんじゃが・・・」
「何言ってるのよ、創造主も『私の空想の中の住人』なんだから。少し自己主張が激しい気もするけど、こういう夢も悪くないわよね」
「嬢ちゃんが目覚めた時に、後悔せんと良いのじゃがのう・・・」