衛星都市ティリス【3】
衛星都市ティリスの朝市は、まだ薄暗いうちから賑わっていた。眠い目を擦りつつも、ヴァレリーとオルガは青年について歩きながら足りない食料など必要なものを買い足していた。
ティリスを出れば、もうフレミアの森までは野宿だ。順調に進んでも、フレミアの森に着くまでに一日、素材の集まり具合によっては何日か滞在することになる。
入念な準備が必要だった。
「フレミアの森へは、途中から街道をそれないといけない」
「じゃあ……ついに、ですね」
緊張が走る。街道を抜けるということは、それだけ魔物と出会う確率が上がる。
実技でごく弱い魔物であれば倒したことはあるが、それは実技で扱うために飼われている魔物だ。獰猛さや危険度でいえば、野生の魔物とは比べるまでもない。
「まぁ、この辺りの魔物はそう危険なものもいないから大丈夫」
ふと、ヴァレリーは青年の武器が気になった。彼の力量はよくわからなかったが、冒険者のカードを見せて貰うとランクはB。自分たちはまだ駆け出しなのでEだから当然だが、彼の実力はかなりのものということになる。
だからといって、何かあったときに彼の戦闘スタイルがわからなければ、微力でもサポートを出来ないのではないか。
疑問をそのまま口に出すと、青年は外套の内側に背負っていた一振りの剣を見せてくれた。
氷の様に透き通る刀身は、希少なマジックアイテムから作られるものだ。
北方に棲息するドラゴンの骨。それも、透明度が高いものほど強大な力をもつのだ。
「は、初めて見ました…」
「剣に加工することもあるんですね」
オルガが驚きの声をあげ、ヴァレリーが珍しさに思わず呟く。青年は剣をまた背に戻すと、腰に掛けていた短刀を引き抜いて見せた。
「さる依頼でたまたま知り合った鍛治師に特別に作ってもらった」
短刀は驚くことに、ドラゴンの爪だった。どちらも魔術師ならば喉から手が出るほど欲しいものだ。ただし、ドラゴンの数自体が少ない上に、知能もその力も魔力も、並の人間ではそもそも太刀打ち出来ない。
市場価値は国一つが買えるとも言われる。
「倒した……んですよね」
ドラゴンの固い鱗を引き裂ける武器とは、それまで何を使っていたのか。興味は尽きないが、青年はそれ以上答える気はないのか歩き出していた。