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vivre―黒い翼―  作者: すずね ねね
2章 les derniers adieux
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ナゲキノコエ【1】

オルガの旅立ちは、国民総出での見送りとなった。

進行の最中、オルガとエミリアンは仲睦まじく。

側に仕える召使いたちも思わず顔をほころばせるほどに、お互いがお互いを思い合っている。

「政略結婚」ではあったが、両国の人間は安堵した。

この2人がこれからのクレイアイスを引率する未来が訪れれば、きっと両国の平和と安寧は間違いないのだと。


オルガはヴァレリーとの約束通り、ヴァレリーと会話を設ける時間も積極的にもつようにしていた。

どういう経緯で友人になったのか。どういう話を2人でしたのか。

或いは驚き、或いは笑顔で、2人は失ってしまった記憶と時間を埋めるように会話を続けていった。


全体の行程の3分の2ほど。

ちょうど、クレイアイスへの関所で休憩している時にそれは起こった。

一晩馬を休ませるためにファブリスが青年と納屋へ向かっていると、1人の斥候が息を切らせ駆け寄ってきた。


「騎士団長!」


その呼び方に慣れないのか、ファブリスが顔をしかめる。

斥候の男はファブリスの様子を気にすることもなく、一通の書状を差し出した。

エドワールらレイダリアの王子たちは、婚礼の日に目掛け別動で来る関係で、今はファブリスが責任者だった。


「何て書いてある?」


青年が尋ねると、書状に目を通していたファブリスが難しい顔をしながら青年に書状を渡した。

青年が素早く書状に目を通すと、エドワールの字で簡潔に用件が書かれていた。


「シャガール陥落?」


反芻すると、斥候が頷いた。

青年は、いつか耳にした噂話を思い出していた。


「お前も思い出したか」


ファブリスが青年の様子を見て息を吐いた。

魔物の生態系が崩壊しているという報告は、エドワールにも行っていた。


「詳しい話がしたい。エドワールへ魔術で連絡をとれるものは隊列にいるか?」


青年がファブリスに尋ねると、ファブリスは少し考え頷いた。


「よし、手配しよう。おい、お前はすぐにレイダリアに戻り、他の情報を詳しく集めるよう動いてくれ」


ファブリスの言葉に斥候が頷き、すぐに関所を出て行った。

その背を見送りながら、ファブリスは思わずぼやきそうになる気持ちを抑え、歩き出した。




+++++++





ファブリスにあてがわれた騎士団には、専属の魔術師が数人同行していた。

そのうち1人が連絡系の魔術が得意ということで、以前ヴァレリーに渡されていたマジックアイテムを渡し通信を依頼した。

すぐに、エドワールが抱える魔術師と繋がる。

用件を手短に伝えると、既にエドワールはそれを予期していたのかすぐに話し合いをもつことができた。


「シャガールの件、どういうことだ」


青年が尋ねると、エドワールは苦い顔で頷いた。


「こちらもまだ把握しきれていないのだが、以前シャガール周辺でいるはずのない魔物がいたという話をしていただろう。それについて調査に出していたものからの報告だ。シャガールの長が殺され、散りじりになった民たちが難民となり各国に流れ始めている」


「冒険者の噂話が本物になったか。それで、こっちはどうすればいい」


「君たちに出したものとは別で、クレイアイスへは既に伝令を飛ばしてある。婚礼がどうなるかまではわからないが、引き続きクレイアイスへ向かってくれ。道中、魔物の狂暴化も予測される。くれぐれも気をつけるんだ」


「わかった、オルガとエミリアンのことは任せろ」


青年が魔術師に目配せすると、魔術の供給を断たれた宝玉が輝きを失い、映像は途絶えた。


「あまりよくないな」


ファブリスが難しい顔で唸る。

青年も頷きつつ、これから越えなくてはならない洞窟のことを思い、溜息を零した。


「まぁまずは、俺は騎士団の連中に話をしておこう。ルーは姫さんやヴァレリーに説明しておいてくれ」


「わかった」


青年は頷くと歩き出した。


夕飯時より少し早い時間のせいか、召使いたちが忙しなく働いていた。

青年はオルガのために用意された一室に、ノックして入った。

中ではオルガとヴァレリー、それにブラックドラゴンのピィがお茶を飲んでいた。


「ルーさん、いらっしゃい」


オルガが空いている席を勧め、ピィが甘えたようにじゃれついてくるが青年は立ったままでいた。


「ルーさん?」


「シャガールが壊滅したそうだ」


青年の言葉に、オルガが顔を曇らせた。


「ここから先、魔物の生態系が崩れている危険性も考慮すべきだ。ヴァレリー、荷馬車はここに預け、セバスチャンを側から離すな。もしも混戦になれば、守りきれないかもしれない」


「わかったわ。何かあったら、セバスチャンとオルガの馬車の側に行くから」


「それがいいだろうな。悪いんだが、ピィはオルガが見ていてくれるか?」


「ええ、問題ないです。ピィちゃん、明日はセバスチャンと離れるけど、一緒に馬車に乗りましょうね」


「ピィ!」


元気のいい返事が返ってきたのを確認すると、青年は頷いた。


「何もなければいいが」


青年の言葉に、オルガとヴァレリーも無言で頷く他なかった。


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