衛星都市ティリス【2】
小雨が降りだしていた。まだ夕方だというのに、冷たい雨が青年達を濡らし尽くす頃、衛星都市ティリスへ辿り着いた。
幸いなことに宿はまだ空いていて、比較的治安のいい場所に宿をとることができた。
「一部屋しかなくて悪いな」
青年はそう言うと、ソファで寝るために寝袋を広げた。
「俺は下の食堂にいるから」
そう言うとさっさと降りていってしまう。ヴァレリーとオルガは顔を見合わせると、雨に濡れた髪を拭き、服を着替えて青年を追った。
「美味しそうなものありましたか?」
先に食堂で座っていた青年と同じテーブルにつくと、ヴァレリーは声をかけた。青年はメニューを見せてやりながら、シチューを指差した。
「ビーフシチュー、ですか?」
衛星都市ティリスは、国内外から流れてくる物流を一手に引き受ける都市だ。特に近隣の村で家畜化された、牛の魔物から採れる肉は絶品だ。
ヴァレリーとオルガは薦められたビーフシチューとサラダを頼むと、部屋から持ってきたタオルを青年に渡した。
「ごめんなさい、気を使って先に出てくれたんですよね。これどうぞ」
「ああ……。俺は慣れてるけど、お前たちは違うだろ」
自分の髪を乱暴に拭きながら答えているうちに、料理が運ばれてきた。青年が頼んだのは豚の燻製肉を使ったサラダとパンだ。
「おいしそう」
ヴァレリーも運ばれてきたビーフシチューを見て呟いた。
「いただきます」
オルガがそう言ったのを合図に、ヴァレリーと青年も料理に口をつけた。温かいシチューが冷えきった身体を暖めていくのを感じながら、ヴァレリーはようやくほっと安堵の溜め息をこぼした。