始まりの言葉【1】
エドワールの屋敷にヴァレリーが呼び戻され、そこから婚礼式典に出るための衣装作りが始まった。
青年とファブリスは同じ部屋に通され、召使いたちが細々と採寸をしていく。
仕立て屋と思しき男が見るからに上等な服をあてがったりしつつ、手元のメモに何かを書き込んでいく。
青年たちはややうんざりしながらも、ただ黙ってされるがままになっていた。
「ルー様、出来上がりのイメージですが」
仕立て屋がメモを青年の眼前に掲げる。
丁寧に描かれた絵は、必要以上に華美な装いだ。
青年が思わず顔をしかめる。
「お気に召しませんか」
残念だと言いたげに、仕立て屋が顔色を曇らせる。
「いや……」
なんと答えるべきか考えあぐねていると、ファブリスがメモを覗き込んだ。
「ルーにはもう少し大人し目なのが似合うんじゃねえか?」
ファブリスの言葉に仕立て屋が頷き、メモに新しく書き足していく。
その様子を、青年は諦めたように肩を落として眺める他なかった。
そうして何回目かの書き直しの後、仕立て屋は満足する出来のイメージが出来たのか帰っていった。
青年はどっと疲れが襲ってくるのを感じながらソファに腰を下ろした。
「やあ、ご苦労様」
エドワールが、同じく疲れ果てた顔をしたヴァレリーと共に現れる。
「酷い目にあった」
青年がうんざりして言う。
「まぁ、そう言わないで。明日から儀式が執り行われる最終日まで、毎夜舞踏会だ。今のうちにゆっくり羽を伸ばしてきたらどうだい」
「え、いいんですか?」
ヴァレリーが顔を輝かせる。
「ああ。儀式が終わり、問題がなければすぐにクレイアイスに戻ることになるからね。街には出店も出ていると聞くし、少し遊んでくるといいよ」
ヴァレリーに優しく言うと、エドワールは微笑んだ。
ファブリスが何か思いついたかのようにニヤついた顔を上げると、大げさにその禿頭を掻く。
「あー、悪いんだが俺はちょっと疲れちまってな。二人で行ってこいよ」
「え?ファブリスさん来ないの?」
「俺も歳かなあ」
ヘラヘラ笑いながら答えるファブリスに、青年が訝しげに首をかしげる。
「ま、そういうこったから、楽しんでこいよ!お二人さん」
ヒラヒラと手を振りながら部屋を出て行くファブリスを見送りながら、青年とヴァレリーは顔を見合わせた。




