影【3】
青年たちは城の外まで出ると、ヴァレリーとはそこで別れディディエが投獄されている塔へと向かった。
地方の貴族とはいえ、まがりなりにも貴族。
通常の囚人を捕らえる牢では万が一手引きされ逃げられるとも限らない。
塔の最上階ならば、安々とは逃げ出せないだろうという理由から、今はそこに監禁されているらしい。
「こちらへどうぞ」
兵士が事務的な口調で案内する。
螺旋状の階段を暫く昇ると、踊り場に出た。
木製の扉の前には、見張りが2人立っている。
「どうぞ」
鍵を開けた見張りに促され中に入ると、ベッドと机、それと椅子があるだけの簡素な部屋だった。
後ろですぐに扉が閉じ、鍵が掛けられた。
ベッドに腰掛けていたのは、痩せ細って顔色の悪い男だった。
油ぎった髪は、長いこと満足に風呂に入れていないからか。
顔色は青を通り越して土気色で、見るからに具合はよくないようだった。
「ディディエ、久しぶりだな」
エドワールの蔑むような視線に、軽薄な笑みを浮かべ頷いた。
「これはこれは、エドワール様……なんのご用ですかな」
「貴様の企みを全て話す気にはなったか」
エドワールの責めるような言葉にも、ディディエはその笑みを崩さない。
「全ても何も。ルードがお話したんでしょう」
「やつのことはいい。貴様には協力関係のものが他にいるのではないか?」
エドワールの言葉に、ディディエがにまりと笑った。
それを肯定ととらえたのか、エドワールの表情が更に険しくなる。
青年が怒り出しそうになるエドワールを制止するように前に出た。
ディディエが青年に視線を移す。
「おお、お前を知っている」
感嘆の声を上げ、ディディエが立ち上がる。
「あの方が言っていたのはお前だ。間違いない。ああ……では、私はあの方の愛を……」
フラフラと左右に揺れながら、ディディエがうわ言のように呟く。
やがて、口の端から涎を垂らし、ディディエは白目を剥いて卒倒した。
ファブリスが駆け寄り脈を調べ、無事なのを確認して頷く。
「あの方、か」
エドワールが呟く。
結局何もわからないまま、謎だけが深まる形になった。
「仕方ない。こちらで人員を割き、ディディエに関してはまた調べさせる。今日はひとまず屋敷へ戻ろう。君たちにはマルグリットを無事守り通した礼もしたい」
エドワールが言うと、再び鍵が開く音がして、扉が開かれた。
エドワールの屋敷に帰り着き、彼の私室に通されると青年たちは何とも言えない表情で顔を見合わせた。
「あの方、か」
エドワールが険しい顔で呟く。
質問に関しての答えではなかったが、少なくともディディエと何者かに繋がりはあるようだった。
「国内外あわせて、ディディエのここ最近の動きを洗い直すべきか」
「だろうな」
青年が頷くと、エドワールは疲れたように溜息を零す。
ややあって、思い出したように青年を見ると、自身の机から一通の封筒を取り上げた。
「そうだ、ディディエの件で忘れていたが陛下からの礼状だ。中に君の依頼である魔女に関しての調査報告も入っている」
青年は封筒を受け取ると中身を確認する。
一枚はユークリッドからの丁寧な礼状と、もう一枚は魔女に関しての調査報告書。
青年は調査報告書を確認してすぐに顔を上げた。
「あまり残念そうではないね」
エドワールが声をかける。
青年は肩をすくめると封筒に調査報告書を戻しポケットにしまい込んだ。
「そう簡単に見つかるとは思っていない」
「なんだ、見つからなかったのか。残念だな」
ファブリスが頭を掻く。
「……隠者にも調査を頼んでいるんだ。ピィのこともあるし、そっちも当たるさ」
青年が答えると、エドワールが安堵したように頷いた。
「引き続きこちらでも調査をすすめておく。それと陛下が、ぜひマルグリットの婚礼式典に参加して欲しいと。ヴァレリーにも使いを出しておくから、準備をしておいてくれないか」
「おいおい、俺たち冒険者が出ていいものなのか」
「陛下が是非にと言っているからね」
ファブリスの言葉にエドワールが微笑む。
「わかった。だが、出るだけだからな」
青年が答えると、エドワールは満足げに頷くのだった。




