影【2】
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既にクレイアイス側から伝令が届き、レイダリアでも正式な発表があったのか。
帰国したオルガやエドワール、そして灰狼騎士団を迎える国民たちの声はそれは盛大なものだった。
オルガが国民たちの前に姿を現すことは出来ないのだが、それでもオルガがいるであろう馬車に向けて彼らは一様に手を振っていた。
王城へ馬車が横付けされた。
エドワールとオルガ、エミリアンと青年たちは王の間に通された。
「これはエミリアン王子、はるばるよくぞ参られた」
ユークリッドは歓迎の言葉を掛けるが、その表情は晴れない。
「そしてルーとその仲間たち。マルグリットを守り、ここまで供をしたこと、感謝しよう」
「いえ、国王陛下……」
ヴァレリーが緊張の面持ちで俯く。
「褒美はなんなりととらせよう。さて、いくつか片付けねばならぬ件もあるが、今日は疲れたであろう。まずはゆっくりと休むがよい。マルグリット、お前には話がある、後で私の部屋へ来なさい」
「はい、国王陛下」
王の間を後にし、オルガは自分の部屋へと召使いに伴われていった。
客人であるエミリアンもまた、すぐに召使いが案内に現れた。
客室に通されるのだろう。
「君たちはどうする」
エドワールが尋ねた。
ディディエの件もまだ片付いてはいないためだろう。
「アンタがいいなら、ディディエとの面会を希望したいんだが」
意外にも、ファブリスが言った。
エドワールは暫く何事か考える素振りを見せ、ややあって頷いた。
「いいだろう。2人はどうする?」
「私は家に一度戻ろうと思います。あの、その間セバスチャンとピィちゃんのこと……」
ヴァレリーがエドワールを見上げると、エドワールは安心させるように微笑んだ。
「屋敷で預かっておこう。君のことは屋敷のものに伝えておくから、いつでも寄りなさい」
「ありがとうございます」
ヴァレリーが礼を言うのに頷き返しながら、エドワールは青年を見つめた。
「……俺もディディエとの面会に同行する」
「そうか。では、すぐに手配しよう」
そう言うと、側に控えていた兵士を一瞥する。
兵士は頷くと、小走りでその場を後にした。
「すぐに面会はできるだろうが、何か知りたいことでも?」
歩き出しながら、エドワールが尋ねる。
エドワールの後に続きながらファブリスは頭を掻いた。
「いやあ。大したことじゃないんだがなあ」
言うべきか逡巡したファブリスは、ややあって溜息を零す。
「俺は、どうもルードが姫さんたちを襲撃するタイミングを指示されてたように感じてな」
「タイミングか……そういえば、君は元々ルードに騙されてマルグリット襲撃の場にいたんだったね」
「ああ……アイツが俺に言ったのは、近くの村が賊に襲われ、女が2人攫われた。取り返したいってことと、また来られたら困るからなるべく国境で襲撃するってことだが」
「特に不自然な部分はなさそうだが」
「そうなんだ。俺を納得させるためとはいえ、それならふん縛ってとりあえず騎士団でもなんでも突き出しちまえばいい。だが、敢えてミリュー……というよりレイダリアから引き離す理由がわからん」
ファブリスはそのまま沈黙した。
やがて、黙って聞いていた青年が口を開いた。
「借りだ」
「ん?」
訝しげにファブリスが青年を見やる。
「今回のオルガの結婚。何故こうもあっさり進んだ?」
「まさか」
エドワールが眉間に皺を寄せる。
「マルグリットがルードの処遇についてクレイアイスを頼ることを見越して、か。今回、マルグリットがあちらの国に作った借り」
エドワールが顎に手を当て難しい顔で呟いた。
「俺の勘だが、ディディエは協力関係か、更にディディエすら利用する人物との繋がりがあるんじゃないのか?」
青年の言葉に、エドワールは黙ったままだった。




